私は何も知らなかった

まるまる

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13 ザイティガ視点1

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 2度目の人生も俺は母である王妃に、前世と同じ事を聞いた。

「ねぇ、お母様。どうやったら、その子と仲良くなれるかな?」

「そうねぇ、ザイティガ。女の子はみんな綺麗な物が好きなのよ」

「綺麗なものかぁ…。じゃあ、何時もパーティーを開くあの庭園に連れてってあげたら喜んでくれるかな? あそこ、花がとっても綺麗だから…」

「うふふ。そうね。きっと喜ぶと思うわ」

 何故気付かなかったんだろう。この時微笑んだ母の瞳が暗く翳っていた事に……。

 前世、処刑される前日、懺悔の様に母から打ち明けるまで俺は何も知らず知らされず、そして彼女の死が受け入れられず、嘆いているだけだった。

「あの子がそれを望むなら…」

 ずっと俺たちの婚約を渋っていた伯爵が条件付きで俺たちの婚約を認めたのは、俺が11歳、彼女がまだ9歳の時だった。

 俺は翌年からセレジストに留学する。国に戻れるのは5年後だ。だから婚約者をこの時期に決めるのは、王家にとっては既定路線だった。現に父と母の婚約も、父がセレジストに留学する前のこの時期に結ばれたらしい。

「ザイティガ、今日からこのディアーナが其方の婚約者だ。彼女はセレジスト皇帝シナール陛下の孫にあたる、青き血を持つ高貴な令嬢だ。くれぐれも大切にするようにな」

 父にそう言われた俺は前回と同じ様に「はい!分かりました、父上」と元気よく答えた。

 彼女を庭園に連れて行き、薔薇の花を手渡したのも前回通り。

 違ったのは父が彼女に最後に

「ザイティガとの婚約を受けてくれるね?」

 と、確認した時だった。

 妙な違和感を覚えた。俺は何故かこの先の彼女の答えを知っている気がした。彼女は「はい」と言って恥ずかしそうに笑うんだ。そして思った。だめだ! 俺との婚約を受け入れてはいけない……と。

 彼女はこの後、やはり俺との婚約を受け入れた。「はい」と恥ずかしそうに微笑みながら……。

 彼女のその笑顔を見た時、俺は前世の全てを思い出した。そして絶望を覚えた。

 もう、取り返しがつかない…と。

 何故気付かなかった? 初めて彼女を見た時の父の瞳に宿った歪な輝きに…。

 伯爵がこの婚約を渋った意味に…。

 彼は父の側近だ。娘が王太子の婚約者にと望まれたなら、本来なら両手もろてを挙げて喜んだはずだ。

 父はリアーナ様を、自国にとって有利な条件でセレジストと交渉し、支援を得る為の人質にしていた。だから伯爵を自分の側近に迎え入れたのだ。前世の愚かな俺は、帝国学園でシュナイダーに苦言を呈されるまでその事に気づきもしなかった。

 いや、更に愚かだったのは、俺はシュナイダーに苦言を呈されながら、気付いた後も何もしなかった。反対に俺は彼を避け続けたのだ。

 だから前世の記憶を取り戻した俺は知っていた。ディアーナの家族に何が起こったのかを…。俺に懺悔した母は泣いていた。

「伯爵家の幸せを奪った…」と。

 彼女の母であるリアーナ様は体が弱く、ディアーナを産んだ後、産後の肥立ちが悪く床に伏す日が多いと聞いていた。それはある意味正しくて、ある意味間違っていた。

 彼女は生まれつき心臓が悪かったのだ。だが、体が弱いとはいえ普通に生活が出来ていた彼女は、その事を。そしてディアーナを産んだ事により、心臓に負荷が掛かってしまった…と言うのがリピトール医師の見立てだ。

 産後の肥立ちなら、時と共に良くなるだろう。だが1度壊れてしまった心臓は、もう元には戻らない。

 父はリアーナ様が亡くなられた後の事を考えた。それが俺とディアーナの婚約だった。父はまるで寄生虫のように、セレジストからの支援を手放す気は無かったのだ。

 だから伯爵は俺たちの婚約を渋ったのだ。娘を政治の道具として利用されるのを防ぐために……。

「ディアーナは私のたった1人の娘です。ザイティガ殿下との婚約は光栄な事ですが、私は彼女には婿をとって伯爵家を継いで欲しいと考えています」

 伯爵はそう言って1度は俺たちの婚約を断った。

 だが、父は狡猾だった。

「ならば、第2夫人を持てば良い。その女に子を産ませれば全ては解決するであろう」

 しかしリアーナ様を心から愛していた伯爵は、父のその申し出も断った。皇帝シナールを盾にして。

「その様な事がセレジストに知れれば、リアーナを溺愛していた皇帝陛下がどう動かれるか分かりません。最悪の場合、今、帝国から受けている支援さえどうなるか分からない…」

「そんな物は帝国に気取られぬ様にすれば良いだけだ!」

 父は伯爵がどれだけ固辞しても、自分の考えを変える気は無かったのだ。

 そしてとうとうその日は訪れる。

 ミカルディス伯爵家にとって最悪の日…。

 父の申し出を断り続けた伯爵に、父はとうとう媚薬を盛ったのだ。

 この時、父が伯爵に宛てがった女…それがバーバラだった…。



















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