13 / 28
13 ザイティガ視点1
しおりを挟む
2度目の人生も俺は母である王妃に、前世と同じ事を聞いた。
「ねぇ、お母様。どうやったら、その子と仲良くなれるかな?」
「そうねぇ、ザイティガ。女の子はみんな綺麗な物が好きなのよ」
「綺麗なものかぁ…。じゃあ、何時もパーティーを開くあの庭園に連れてってあげたら喜んでくれるかな? あそこ、花がとっても綺麗だから…」
「うふふ。そうね。きっと喜ぶと思うわ」
何故気付かなかったんだろう。この時微笑んだ母の瞳が暗く翳っていた事に……。
前世、処刑される前日、懺悔の様に母から打ち明けるまで俺は何も知らず知らされず、そして彼女の死が受け入れられず、嘆いているだけだった。
「あの子がそれを望むなら…」
ずっと俺たちの婚約を渋っていた伯爵が条件付きで俺たちの婚約を認めたのは、俺が11歳、彼女がまだ9歳の時だった。
俺は翌年からセレジストに留学する。国に戻れるのは5年後だ。だから婚約者をこの時期に決めるのは、王家にとっては既定路線だった。現に父と母の婚約も、父がセレジストに留学する前のこの時期に結ばれたらしい。
「ザイティガ、今日からこのディアーナが其方の婚約者だ。彼女はセレジスト皇帝シナール陛下の孫にあたる、青き血を持つ高貴な令嬢だ。くれぐれも大切にするようにな」
父にそう言われた俺は前回と同じ様に「はい!分かりました、父上」と元気よく答えた。
彼女を庭園に連れて行き、薔薇の花を手渡したのも前回通り。
違ったのは父が彼女に最後に
「ザイティガとの婚約を受けてくれるね?」
と、確認した時だった。
妙な違和感を覚えた。俺は何故かこの先の彼女の答えを知っている気がした。彼女は「はい」と言って恥ずかしそうに笑うんだ。そして思った。だめだ! 俺との婚約を受け入れてはいけない……と。
彼女はこの後、やはり俺との婚約を受け入れた。「はい」と恥ずかしそうに微笑みながら……。
彼女のその笑顔を見た時、俺は前世の全てを思い出した。そして絶望を覚えた。
もう、取り返しがつかない…と。
何故気付かなかった? 初めて彼女を見た時の父の瞳に宿った歪な輝きに…。
伯爵がこの婚約を渋った意味に…。
彼は父の側近だ。娘が王太子の婚約者にと望まれたなら、本来なら両手を挙げて喜んだはずだ。
父はリアーナ様を、自国にとって有利な条件でセレジストと交渉し、支援を得る為の人質にしていた。だから伯爵を自分の側近に迎え入れたのだ。前世の愚かな俺は、帝国学園でシュナイダーに苦言を呈されるまでその事に気づきもしなかった。
いや、更に愚かだったのは、俺はシュナイダーに苦言を呈されながら、気付いた後も何もしなかった。反対に俺は彼を避け続けたのだ。
だから前世の記憶を取り戻した俺は知っていた。ディアーナの家族に何が起こったのかを…。俺に懺悔した母は泣いていた。
「伯爵家の幸せを奪った…」と。
彼女の母であるリアーナ様は体が弱く、ディアーナを産んだ後、産後の肥立ちが悪く床に伏す日が多いと聞いていた。それはある意味正しくて、ある意味間違っていた。
彼女は生まれつき心臓が悪かったのだ。だが、体が弱いとはいえ普通に生活が出来ていた彼女は、その事を知らなかった。そしてディアーナを産んだ事により、心臓に負荷が掛かってしまった…と言うのがリピトール医師の見立てだ。
産後の肥立ちなら、時と共に良くなるだろう。だが1度壊れてしまった心臓は、もう元には戻らない。
父はリアーナ様が亡くなられた後の事を考えた。それが俺とディアーナの婚約だった。父はまるで寄生虫のように、セレジストからの支援を手放す気は無かったのだ。
だから伯爵は俺たちの婚約を渋ったのだ。娘を政治の道具として利用されるのを防ぐために……。
「ディアーナは私のたった1人の娘です。ザイティガ殿下との婚約は光栄な事ですが、私は彼女には婿をとって伯爵家を継いで欲しいと考えています」
伯爵はそう言って1度は俺たちの婚約を断った。
だが、父は狡猾だった。
「ならば、第2夫人を持てば良い。その女に子を産ませれば全ては解決するであろう」
しかしリアーナ様を心から愛していた伯爵は、父のその申し出も断った。皇帝シナールを盾にして。
「その様な事がセレジストに知れれば、リアーナを溺愛していた皇帝陛下がどう動かれるか分かりません。最悪の場合、今、帝国から受けている支援さえどうなるか分からない…」
「そんな物は帝国に気取られぬ様にすれば良いだけだ!」
父は伯爵がどれだけ固辞しても、自分の考えを変える気は無かったのだ。
そしてとうとうその日は訪れる。
ミカルディス伯爵家にとって最悪の日…。
父の申し出を断り続けた伯爵に、父はとうとう媚薬を盛ったのだ。
この時、父が伯爵に宛てがった女…それがバーバラだった…。
「ねぇ、お母様。どうやったら、その子と仲良くなれるかな?」
「そうねぇ、ザイティガ。女の子はみんな綺麗な物が好きなのよ」
「綺麗なものかぁ…。じゃあ、何時もパーティーを開くあの庭園に連れてってあげたら喜んでくれるかな? あそこ、花がとっても綺麗だから…」
「うふふ。そうね。きっと喜ぶと思うわ」
何故気付かなかったんだろう。この時微笑んだ母の瞳が暗く翳っていた事に……。
前世、処刑される前日、懺悔の様に母から打ち明けるまで俺は何も知らず知らされず、そして彼女の死が受け入れられず、嘆いているだけだった。
「あの子がそれを望むなら…」
ずっと俺たちの婚約を渋っていた伯爵が条件付きで俺たちの婚約を認めたのは、俺が11歳、彼女がまだ9歳の時だった。
俺は翌年からセレジストに留学する。国に戻れるのは5年後だ。だから婚約者をこの時期に決めるのは、王家にとっては既定路線だった。現に父と母の婚約も、父がセレジストに留学する前のこの時期に結ばれたらしい。
「ザイティガ、今日からこのディアーナが其方の婚約者だ。彼女はセレジスト皇帝シナール陛下の孫にあたる、青き血を持つ高貴な令嬢だ。くれぐれも大切にするようにな」
父にそう言われた俺は前回と同じ様に「はい!分かりました、父上」と元気よく答えた。
彼女を庭園に連れて行き、薔薇の花を手渡したのも前回通り。
違ったのは父が彼女に最後に
「ザイティガとの婚約を受けてくれるね?」
と、確認した時だった。
妙な違和感を覚えた。俺は何故かこの先の彼女の答えを知っている気がした。彼女は「はい」と言って恥ずかしそうに笑うんだ。そして思った。だめだ! 俺との婚約を受け入れてはいけない……と。
彼女はこの後、やはり俺との婚約を受け入れた。「はい」と恥ずかしそうに微笑みながら……。
彼女のその笑顔を見た時、俺は前世の全てを思い出した。そして絶望を覚えた。
もう、取り返しがつかない…と。
何故気付かなかった? 初めて彼女を見た時の父の瞳に宿った歪な輝きに…。
伯爵がこの婚約を渋った意味に…。
彼は父の側近だ。娘が王太子の婚約者にと望まれたなら、本来なら両手を挙げて喜んだはずだ。
父はリアーナ様を、自国にとって有利な条件でセレジストと交渉し、支援を得る為の人質にしていた。だから伯爵を自分の側近に迎え入れたのだ。前世の愚かな俺は、帝国学園でシュナイダーに苦言を呈されるまでその事に気づきもしなかった。
いや、更に愚かだったのは、俺はシュナイダーに苦言を呈されながら、気付いた後も何もしなかった。反対に俺は彼を避け続けたのだ。
だから前世の記憶を取り戻した俺は知っていた。ディアーナの家族に何が起こったのかを…。俺に懺悔した母は泣いていた。
「伯爵家の幸せを奪った…」と。
彼女の母であるリアーナ様は体が弱く、ディアーナを産んだ後、産後の肥立ちが悪く床に伏す日が多いと聞いていた。それはある意味正しくて、ある意味間違っていた。
彼女は生まれつき心臓が悪かったのだ。だが、体が弱いとはいえ普通に生活が出来ていた彼女は、その事を知らなかった。そしてディアーナを産んだ事により、心臓に負荷が掛かってしまった…と言うのがリピトール医師の見立てだ。
産後の肥立ちなら、時と共に良くなるだろう。だが1度壊れてしまった心臓は、もう元には戻らない。
父はリアーナ様が亡くなられた後の事を考えた。それが俺とディアーナの婚約だった。父はまるで寄生虫のように、セレジストからの支援を手放す気は無かったのだ。
だから伯爵は俺たちの婚約を渋ったのだ。娘を政治の道具として利用されるのを防ぐために……。
「ディアーナは私のたった1人の娘です。ザイティガ殿下との婚約は光栄な事ですが、私は彼女には婿をとって伯爵家を継いで欲しいと考えています」
伯爵はそう言って1度は俺たちの婚約を断った。
だが、父は狡猾だった。
「ならば、第2夫人を持てば良い。その女に子を産ませれば全ては解決するであろう」
しかしリアーナ様を心から愛していた伯爵は、父のその申し出も断った。皇帝シナールを盾にして。
「その様な事がセレジストに知れれば、リアーナを溺愛していた皇帝陛下がどう動かれるか分かりません。最悪の場合、今、帝国から受けている支援さえどうなるか分からない…」
「そんな物は帝国に気取られぬ様にすれば良いだけだ!」
父は伯爵がどれだけ固辞しても、自分の考えを変える気は無かったのだ。
そしてとうとうその日は訪れる。
ミカルディス伯爵家にとって最悪の日…。
父の申し出を断り続けた伯爵に、父はとうとう媚薬を盛ったのだ。
この時、父が伯爵に宛てがった女…それがバーバラだった…。
98
お気に入りに追加
2,238
あなたにおすすめの小説
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
侯爵の愛人だったと誤解された私の結婚は2か月で終わりました
しゃーりん
恋愛
子爵令嬢アリーズは、侯爵家で侍女として働いていたが、そこの主人に抱きしめられているところを夫人に見られて愛人だと誤解され、首になって実家に戻った。
夫を誘惑する女だと社交界に広められてしまい、侍女として働くことも難しくなった時、元雇い主の侯爵が申し訳なかったと嫁ぎ先を紹介してくれる。
しかし、相手は妻が不貞相手と心中し昨年醜聞になった男爵で、アリーズのことを侯爵の愛人だったと信じていたため、初夜は散々。
しかも、夫が愛人にした侍女が妊娠。
離婚を望むアリーズと平民を妻にしたくないために離婚を望まない夫。というお話です。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる