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 衛兵隊からテレサが亡くなったと連絡が入ったにも関わらず、父は動こうともしなかった。

「だから言ったんだ。私に逆らうなど、愚かな奴だ」

 父のその言葉を聞いた時、私は愕然とした。父はこんな人だっただろうか…。

 私の知っている父は何時も穏やかな優しい人だった。人の不幸を悪し様に言う様な、こんな人間に父はいつからなってしまったのだろう?しかもテレサの娘であるアンナの目の前でこんな事を言うなんて…。

 手紙の事…そして今回の事…。

 私の中に父への不信感が芽生えた。

 仕方なく、私がアンナに付き添い衛兵隊にテレサの遺体の引き取りに行った。

 テレサの遺体は背中からバッサリと切り捨てられて放置されていたそうだ。

「盗賊にやられた様です。」

 衛兵隊は淡々と私達にそう告げた。

「ですが…母は平民です。そんな…盗賊に狙われる様な理由なんてありません…。それに護衛はどうしたんですか? 母は護衛を雇うと言っていたんです…」

 アンナが不思議に思うのも最もだ。テレサはセレジストでは子爵家の令嬢でれっきとした貴族だった。でも、それを全て捨てて駆け落ちした母について来てくれたのだ。つまり今は平民。年配の平民の女性。
 盗賊が彼女を襲う理由が分からなかった。

「護衛…ですか? その様な人物がいた形跡は現場からは見つかっておりませんが…。足跡の痕跡からすると、お母様は数人の人物に取り囲まれ、後ろから一太刀で斬られた様です」

「そんな……」

 アンナはテレサの遺体に縋り付いて涙を流した。

 アンナの意向でテレサの遺体は、屋敷には連れ帰らずこの地で荼毘に伏した。

 私とアンナは骨になったテレサをたった2人で骨壷に拾い上げる。

 普段は明るいアンナが一言も話さず、ただ涙を流しながら黙々と骨を拾う。同じ最近母を失った者同士だとしても、私には貴方の気持ちは分かるなんて慰めの言葉を、口が裂けてもかける事なんて出来なかった。

 理不尽に突然母親の命を奪われたアンナの気持ちを推しはかる事など、誰にも出来ないのだから…。

 そして、その夜、テレサの遺骨と共にアンナは姿を消した。テレサが屋敷を出る時でさえ、私の側に居たいと言ってくれたアンナが、私に黙って姿を消したのだ。

 アンナも私と同じように、父に不信感を抱いているのだろう。

 でも……。このままではアンナの身にも危険が及ぶかも知れない…。何より私はテレサに彼女を守ると約束した。

 私は衛兵隊に連絡して、必死になってアンナを探した。

 だが、その後アンナの行方はようとして知れなかった…。


 *****


 それから何日か経った頃、殿下の誕生日を祝う、王家主催の夜会の案内が届いた。

 母が亡くなり、テレサもあんな亡くなり方をした。姉と慕ったアンナは今だに行方が分からない。ましてや、殿下との関係は相変わらずだ。

 私は出来れば辞退出来ないか父に相談してみた。現に父自身は、身内の不幸を理由に夜会への参加を辞退していた。

「どうしてもと言うなら、一度陛下に相談してみるが、実際には難しいだろうな。私の場合は皆、事情を知っているが、ディアーナは私と同じ立場とはいえ、今回の夜会の主役である殿下の婚約者だ。それに今、君と殿下の不仲が噂されている。君が欠席すればあらぬ誤解を生むやも知れない」

 つまり、欠席は出来ないと言う事だ。

 婚約者である殿下からは義務の様にドレスとそれに合わせた宝石が送られて来た。だが、私は婚約してから殿下にエスコートされた事は一度も無い。また今回も周りの目に晒されながら、私に1人で夜会に参加しろと言う事だろう。

 いや…。今回は何時も側に居て私を支えてくれたアンナさえいないのだ。私は本当に1人ぼっちだ。

 殿下から送られて来たドレスを見た私は少しの違和感を覚えた。

 グリーンのドレス…。私の瞳の色のドレスだ。普通婚約者のいる令嬢は、相手の色のドレスを纏う。殿下は金髪碧眼。私には殿下から送られたこのドレスが、自分の色は私に纏わせないと彼から拒絶された気がして悲しかった。

 何故なら殿下から送られたこのドレスを着る以外の選択肢が、私には許されないのだから……

 私は殿下に送られたグリーンのドレスを身に纏い、たった1人で夜会に訪れた。

 そんな私を見て、周りの貴族達が何やらコソコソと噂する。

「ねぇ、見て。今夜もお一人よ。しかも今夜は緑のドレス…」

「殿下のお誕生日を祝う会だと言うのに、エスコートさえして頂けないなんて…ねぇ…」

 噂されるのはいつものことだ。
 私は真っ直ぐに前を向いた。

 でも、次の光景を見た時、私の気持ちは悲しみで溢れた。

 殿下がロザリア様をエスコートして入場されたのだ。

「ほら、やっぱりそうだったのね。」

「ほんと、可哀想~。婚約者がいらっしゃるのに別の方をエスコートされるなんて…ねぇ……」

 私の周りにいた貴族達がそう言って囁く。殿下はそこまで私を貶めたいのか…。

 そんな中、突然殿下はロザリア様と共に、此方に向かって歩いて来た。そして私の前に立ち止まると、会場中に聞こえる様に大声で宣言した。

「ディアーナ・ミカルディス。お前との婚約を解消する!!」と……。








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