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王太子殿下の婚約者に選ばれた私には、過酷な王太子妃教育が待っていた。
言語、マナー、ダンスなど基本的な事はもとより、他国の情勢や貴人の顔、その方がどんな役職を持つ方で何を好まれるのかまで全て覚える。其れが外交をする上での基本だと教えられた。その為、覚える事、やる事は多岐に渡った。
私はお妃教育に付いていこうと必死だった。それでも設けられた期日までに課題がこなせなくて挫けそうになった時、講師達からそっと告げられた。
「王太子妃教育がどれほど大変かはわたくし達にも分かっております。でも、わたくし達にはディアーナ様を王太子妃として表に出しても恥ずかしくない様、育てあげる使命があるのです。これは殿下の望みでもあるのですよ。殿下は出立前わたくし達に頭を下げられたのです。ディアーナ様の事を宜しく頼むと」
「殿下が……?」
殿下が私の事を気にかけてくれていた。殿下にずっと会えず不安に感じていた私はその事実が嬉しかった。
「ええ…。殿下も今、セレジストでディアーナ様と同じ事を学んでいらっしゃるのです。とても優秀な成績を収められていると聞いております。遠い異国でさぞご苦労も多いでしょうに…。ディアーナ様はこの先王太子妃として殿下を支え、国を守っていかなければならないのです。これ位の事で躓いて弱音を吐いてどうなされます。王家に嫁ぐ者として出来て当然のことなのです!」
そうか…。殿下もセレジストで頑張っていらっしゃるんだ。私も頑張ってあの方の隣に立つに相応しい存在にならなくては……。単純な私は、それからは寝る間も惜しんで努力した。講師から何か報告を受けたのだろうか?、この後殿下は私に頻繁に手紙を下さる様になった。最初の手紙には相も変わらず母の病状を心配する言葉と、今度は私を励ます内容が記されていた。
『君も大変だと思うが頑張ってくれ。今学んだ事は、君が将来王太子妃、そして王妃となった時きっと役に立つはずだから。僕自身もそう思いながら頑張っている』
殿下の手紙は私に元気を与えてくれた。
でも……その後の殿下からの手紙は時を追う毎に少しずつ、その内容が変化していく…。
『辛い時は何時も君の事を思い出しているんだ。君も同じように頑張っているんだから…と。僕は君に、自ら考え共に戦う妃になって欲しい』
そして、いつからか手紙には殿下の苦悩や葛藤が色濃く綴られる様になっていく。
『先日、君の従兄妹のシュナイダーと友人になったよ。民が何を思い、どんな生活をしているのか…祖父は常に気にかけて行動していると言っていた。君のお爺様は本当に凄い人だ。彼の話を聞いて僕も考えさせられたよ。今、我が国はどんな状況に置かれているのか? 僕も考えて行動しようと思った。君も沢山の事を学んで、沢山の物を見てほしい。そうすれば必ず、何かに気付き、その解決方法が見つかるはずだ。僕達はいずれ、王と王妃として国を治めていくのだから…』
『〇〇国と△△国の抗争の仲介にセレジストが乗り出した。どんな結果を導くのか注意して見ておいてくれ。結果によっては我が国の立ち位置も変わるかも知れない』
『〇〇国は我が国の友好国だ。我が国は今回の抗争に於いて出来る事があるはずなのに、父は見て見ぬふりをするつもりの様だ。何故、動かない…。父が何を考えているのか僕にはさっぱり分からない。』
『××国は今年、雨が全く降らず干ばつが起こり農作物に多大な影響が出た。これから食料不足が起こるだろう。それに対して我が国がどの様な役割を果たす事が出来るのか? 情勢を確認しておいて欲しい』
そしてこの頃になると、私も殿下に自分の考えや意見を書いて送る様になっていた。
『恐れながら殿下に申し上げます。各国が支援に乗り出す中、メルカゾールは何の動きも見せていません。各国は見ています。これでは我が国に災害が起こった時、支援が得られません』
『その通りだ。僕からも父に働き掛けてはいるが父は動こうとはしない。とりあえず、僕に出来る事をしようと思う』
『今回もセレジストが周辺国の支援の取りまとめをする様ですね。我が国にも支援要請が来ていると聞いていますが……』
『だが父上はその要請を断った。愚かな事だ。これでは我が国は他国から孤立してしまう。父上は他所の国に恵んでやる金など無いと言う…。何故だ? 何故分かってくれない? こんな状況でもし何か起きたら、我が国の様な小国は一溜りもないのに…』
この殿下との手紙のやり取りは殿下が帝国学院を卒業される直前まで続いた。
殿下の手紙の内容からは、殿下がメルカゾールの将来に強い危機感を持って憂いておられる様子が色濃く感じられた。それと共に父である陛下への強い不信感も…。手紙でのやり取りを繰り返すうち、私は妃としてそんな殿下の支えになりたいと強く願う様になった。
やがて貴族学院を卒業された殿下がメルカゾールに帰国された。それから暫くして、私は漸く殿下との2度目の対面が許された。
やっと…
やっとお会い出来る。
5年振りに殿下にお会い出来る事に私の心は踊った。
でも……
久しぶりにお会いした殿下は私の思う彼とは明らかに違っていた。
言語、マナー、ダンスなど基本的な事はもとより、他国の情勢や貴人の顔、その方がどんな役職を持つ方で何を好まれるのかまで全て覚える。其れが外交をする上での基本だと教えられた。その為、覚える事、やる事は多岐に渡った。
私はお妃教育に付いていこうと必死だった。それでも設けられた期日までに課題がこなせなくて挫けそうになった時、講師達からそっと告げられた。
「王太子妃教育がどれほど大変かはわたくし達にも分かっております。でも、わたくし達にはディアーナ様を王太子妃として表に出しても恥ずかしくない様、育てあげる使命があるのです。これは殿下の望みでもあるのですよ。殿下は出立前わたくし達に頭を下げられたのです。ディアーナ様の事を宜しく頼むと」
「殿下が……?」
殿下が私の事を気にかけてくれていた。殿下にずっと会えず不安に感じていた私はその事実が嬉しかった。
「ええ…。殿下も今、セレジストでディアーナ様と同じ事を学んでいらっしゃるのです。とても優秀な成績を収められていると聞いております。遠い異国でさぞご苦労も多いでしょうに…。ディアーナ様はこの先王太子妃として殿下を支え、国を守っていかなければならないのです。これ位の事で躓いて弱音を吐いてどうなされます。王家に嫁ぐ者として出来て当然のことなのです!」
そうか…。殿下もセレジストで頑張っていらっしゃるんだ。私も頑張ってあの方の隣に立つに相応しい存在にならなくては……。単純な私は、それからは寝る間も惜しんで努力した。講師から何か報告を受けたのだろうか?、この後殿下は私に頻繁に手紙を下さる様になった。最初の手紙には相も変わらず母の病状を心配する言葉と、今度は私を励ます内容が記されていた。
『君も大変だと思うが頑張ってくれ。今学んだ事は、君が将来王太子妃、そして王妃となった時きっと役に立つはずだから。僕自身もそう思いながら頑張っている』
殿下の手紙は私に元気を与えてくれた。
でも……その後の殿下からの手紙は時を追う毎に少しずつ、その内容が変化していく…。
『辛い時は何時も君の事を思い出しているんだ。君も同じように頑張っているんだから…と。僕は君に、自ら考え共に戦う妃になって欲しい』
そして、いつからか手紙には殿下の苦悩や葛藤が色濃く綴られる様になっていく。
『先日、君の従兄妹のシュナイダーと友人になったよ。民が何を思い、どんな生活をしているのか…祖父は常に気にかけて行動していると言っていた。君のお爺様は本当に凄い人だ。彼の話を聞いて僕も考えさせられたよ。今、我が国はどんな状況に置かれているのか? 僕も考えて行動しようと思った。君も沢山の事を学んで、沢山の物を見てほしい。そうすれば必ず、何かに気付き、その解決方法が見つかるはずだ。僕達はいずれ、王と王妃として国を治めていくのだから…』
『〇〇国と△△国の抗争の仲介にセレジストが乗り出した。どんな結果を導くのか注意して見ておいてくれ。結果によっては我が国の立ち位置も変わるかも知れない』
『〇〇国は我が国の友好国だ。我が国は今回の抗争に於いて出来る事があるはずなのに、父は見て見ぬふりをするつもりの様だ。何故、動かない…。父が何を考えているのか僕にはさっぱり分からない。』
『××国は今年、雨が全く降らず干ばつが起こり農作物に多大な影響が出た。これから食料不足が起こるだろう。それに対して我が国がどの様な役割を果たす事が出来るのか? 情勢を確認しておいて欲しい』
そしてこの頃になると、私も殿下に自分の考えや意見を書いて送る様になっていた。
『恐れながら殿下に申し上げます。各国が支援に乗り出す中、メルカゾールは何の動きも見せていません。各国は見ています。これでは我が国に災害が起こった時、支援が得られません』
『その通りだ。僕からも父に働き掛けてはいるが父は動こうとはしない。とりあえず、僕に出来る事をしようと思う』
『今回もセレジストが周辺国の支援の取りまとめをする様ですね。我が国にも支援要請が来ていると聞いていますが……』
『だが父上はその要請を断った。愚かな事だ。これでは我が国は他国から孤立してしまう。父上は他所の国に恵んでやる金など無いと言う…。何故だ? 何故分かってくれない? こんな状況でもし何か起きたら、我が国の様な小国は一溜りもないのに…』
この殿下との手紙のやり取りは殿下が帝国学院を卒業される直前まで続いた。
殿下の手紙の内容からは、殿下がメルカゾールの将来に強い危機感を持って憂いておられる様子が色濃く感じられた。それと共に父である陛下への強い不信感も…。手紙でのやり取りを繰り返すうち、私は妃としてそんな殿下の支えになりたいと強く願う様になった。
やがて貴族学院を卒業された殿下がメルカゾールに帰国された。それから暫くして、私は漸く殿下との2度目の対面が許された。
やっと…
やっとお会い出来る。
5年振りに殿下にお会い出来る事に私の心は踊った。
でも……
久しぶりにお会いした殿下は私の思う彼とは明らかに違っていた。
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