上 下
43 / 46

第33話

しおりを挟む
「サイオス、お前はバネッサに何の罪を望んでいる?」

 ウィリアム様はサイオスに問い掛けました。すると彼は不敵な笑みを浮かべます。

「では、貴方に問います。貴方はあの女が憎くはないのですか? 私は貴方が憎い。だから貴方に毒を渡した。あの女も憎い。だからあんな女は処刑して欲しい。私はね、侯爵家を破滅に追い込んだ貴方達2人が殺したい程憎いんですよ。いけませんか?」

「何を言う! 信頼していた私達を裏切り、侯爵家を破滅に追い込んだのはお前ではないか!!」

 ウィリアム様は声を荒げました。

「ほう? 私が何をしたと言うんです?」

 サイオスはそんなウィリアム様を気にする事もなく、平然と問います。

「お前がバネッサを唆し、父上に嘘の投資話を持ち掛けさせたんだろう!?」

 ウィリアム様は苛立ちを隠そうともせず、サイオスを怒鳴りつけました。

 *****

 あの後、私とアレクはウィリアム様にサイオスを詰問する許可を取りに行きました。

 サイオスがバネッサ様の処遇に興味を持っていた事は、ウィリアム様の耳にも当然届いていました。

「それで? バネッサ様の処遇はどうされるのです…」

 サイオスに会う前に、どうしても聞いて置かなければならない事でした。

「サイオスに会って、彼に話を聞いてから決めるよ。彼が何故、バネッサを殺したい程憎むのか…まずはそれが知りたいんだ」

 こうして、私とウィリアム様はサイオスに会う事になったのです。

「あははははは…っ」

 ウィリアム様に嘘の投資話を義父様に持ち掛けたと指摘されたサイオスは大声で笑い出しました。

「そんな証拠は何処にあるんです? 大方あの女が自分の罪を逃れる為に言ったんでしょうけれど、貴方はそれを何の確認もせず素直に信じたんですか? あんな詐欺師女の言う事を…?」

「………っ! それは…。」

「だから貴方は甘いんだ。〇〇商会、×××××私が借りている貸金庫の番号ですよ。投資金を回収した金は全てそこに入っています。確かめて見て下さい。投資詐欺をしていたのは全て、あの女と裏社会と通じているあの女の男ですよ。確かに私はあの女を脅しました。それは認めましょう。だがそれは、侯爵家の金を回収する為です」

 私は直ぐに隣の部屋に控えるアレクに目配せしました。アレクは頷き直ぐに走り出します。

「だったら、何故直ぐにその金を出さなかった? お前がそうしていれば少なくとも母が死ぬ事は無かった!」

 ウィリアム様はまた、サイオスに向かって声上げました。

「何故ですか? 何故、私が金を出さねばならないのです? そもそもその金は、旦那様が納得して、投資に回す為に彼女に手渡したものだ。詐欺だと言うなら貴方にそれが証明出来ましたか? 金は私が回収した。それが全てです。だったらその金は私のものでしょう? 違いますか? 私がどうしようと私の勝手だ!」

「……っ」

 ウィリアム様は言葉を失いました。

「私が彼女を唆したと言うのならその証拠はありますか? 貴方は彼女の話を鵜呑みにして、勝手に私を黒幕だなんだと決め付けた! 奥様の死にしたってそうだ。彼女が死んだのは夫が息子の婚約者と関係を持った事に絶望したからだ。きちんと遺書もあった。旦那様が貴方を守る為に隠しただけだ!!」

 サイオスもまたそう言って声を荒げます。

 話を聞く限り私には、サイオスの言う事は嘘だとは思えませんでした。

 その時です。アレクが部屋に入って来ました。彼は貸金庫にお金が確認出来たと告げたのです。

「確認が取れたようですね? 私はウィリアム様亡き後、その金で侯爵家の負債を全額返済しようと考えていました。侯爵家を私に返して貰おうと考えたのです。ですが私は処刑されるのでしょう? だったらその金は私が貴方にますよ。侯爵家を守る為に使って下さい」

「返す?」

 サイオスの言葉の意味が理解出来ません。

「信じて頂けるかどうかは分かりませんが、私は旦那様の腹違いの兄なのです」

「え?」

 驚きで息を飲みました。

「信じられませんか? 無理もない。私は髪の色も瞳の色も侯爵家の人達とは違う。でも本当の事なのです。私の母は市囲でウィリアム様のお爺様に囲われていた愛人だったのですよ」











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。 全23話。 2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。 イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。

【完結】孕まないから離縁?喜んで!

ユユ
恋愛
嫁いだ先はとてもケチな伯爵家だった。 領地が隣で子爵の父が断れなかった。 結婚3年。義母に呼び出された。 3年も経つのに孕まない私は女ではないらしい。 石女を養いたくないそうだ。 夫は何も言わない。 その日のうちに書類に署名をして王都に向かった。 私は自由の身になったのだ。 * 作り話です * キチ姑います

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...