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第34話

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 ウィリアム様の話を聞いた私達家族は三者三様に驚きました。

 父は目を見開き、母は怯え、私は立ち上がり声を上げました。

「そんな…。ではウィリアム様はサイオスが叔母様を殺めたと言いたいの!?」

 私の問いにウィリアム様は首を振りました。

「分からない。だがサイオスが私を殺めようとした事は確かだ…。アリエルがサイオスを信頼していた事は知っている。私だって彼の事は信頼していた。少なくとも、彼に殺されそうになって、もう他の誰も信じられないと思う程には…」

 ウィリアム様は瞳を伏せ、鎮痛な面持ちで話を続けます。

「彼を疑い始めた私は、今まで我が家で起こった全ての事が、真実だったのか疑わしいと思う様になった。本当に父に若い愛人なんていたのか? そもそも母は何故その存在を知ったのか? もし父に愛人なんて存在しなかったのだとしたら、本当は父に投資を勧めたのは誰だったのか? そして、母は本当に自死だったのか…? 考えれば考える程、それらは全てサイオスなら可能だと言う答えに行き着く。それ程、私の家族は皆、彼をとても信頼していた。それに…」

 ウィリアム様は途中、話を区切って、手を口元に置きました。

「それに…何ですか?」

 父にそう即されたウィリアム様は、私から視線を逸らしました。そして…

「バネッサは本来身持ちの固い女でした。だから婚約していた時、バネッサと私に体の関係はありませんでした。それなのに再会したバネッサは、直ぐに私と関係を結んだと言い張るのです。私は困惑しました。覚えていないのです。そして暫く経ってから、彼女は今度は私の子が出来たと告げました」

「……どう言う意味です?」

「…私は眠っていて、記憶がないのです。気がつけばそこにバネッサがいた」

 父の問いにウィリアム様が言い辛そうに答えました。私を気遣っての事でしょう。

「薬でも盛られたか…。よく使われる手だ。だが、覚えていないから明確な否定も出来ない…」

 父がそう言って、頭を抱えます。

「今、考えれば恐らくそうでしょう。ですが私は悩みました。そしてあの日です」

「あの日?」

「ええ、父が亡くなった日です。私には妻が…アリエルがいる。私にもそれ位の倫理観はあります。どうしたら良いのか分からなくて、でも誰かに聞いて欲しくて、偶々その日サイオスは朝から出かけていて…。だから私は、病で何も分からない父に話をしたのです。そしたら父は答えてくれたのです。『認めるな』と…。『認めたら最後、お前はもうあの女から逃げられなくなる。私と同じ様に…』と…」

「侯爵様が? まさか…。侯爵様は自我を失っておられたのでしょう?」

 母も怪訝な表情を浮かべました。

「ですが本当なのです。私は驚いて父に何度も話しかけました。ですが、父はもうそれ以上は何を言っても反応はありませんでした。でも、私は父の病が快方に向かっていると考え、嬉しくなってその後、クララに報告に行ったのです。その事はクララに聞いて頂ければ分かります」

 「ではあの日、ウィリアムさまはクララの所に行っていたの?」

 「ああ、あの日ばかりじゃない。クララをあの作業場に連れて行った時から、私は気になって何度もクララの様子を見に行っていた…」

 ウィリアム様の必死に私達家族に訴える様子を見れば、それは嘘では無いと思いました。もし、ウィリアム様の言う様に、侯爵様が自我を取り戻される瞬間があったのだとしたら…。

 『あの女から逃げられなくなる。私と同じ様に…』

 普通に考えるなら、侯爵様はバネッサ様との間に何かのトラブルがあり、彼女から逃げようとされていたと受け取れます。

 でも、逃げる事は出来なかった。つまり、侯爵様はバネッサ様に嵌められた?

 では、侯爵様が亡くなる前に私達に仰った『彼女のことは許さない』と言う言葉。

 もしかしたらあの時も、侯爵様の自我は戻っていたのかも知れません。

 自分を嵌め、今度は息子まで…。きっと侯爵様はそう思ったのでしょう。
 
 そう考えると、侯爵様の仰った許せない彼女…。

 それはやはり、バネッサ様の事だったのです…。

「問題は2人の関係性だな。2人は繋がっているのか、はたまた単独で動いているのか…。この場合、繋がっていると考えるのが普通だが…」

 父は頭を捻ります。

「ええ、ですからそれを探る為に私はバネッサの思惑通りに動いてみる事にしました。ですが、どう考えても1人で動くには無理があります。ですからもう一度だけ、伯爵にお力をお借りしたいとお願いに上がったのです。」

 ウィリアム様はそう言って、また頭を下げたのです。






















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