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第19話
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「すまない、アリエル。私が悪かった。どうか屋敷に戻って来ては貰えないだろうか?」
ウィリアム様は会うなり私に頭を下げました。
「それもまたクララに言われたんですか?」
「……っ!」
私の返答に彼は言葉を失いました。どうやら図星だったようです。
『すまないアリエル。婚約者なのに金が無くて夜会用のドレスを送ってあげられないんだ。』
『すまないアリエル。結婚式は内輪だけで出来ないか? 負債を負う我が家が豪華な式をあげれば、債権者達の目に留まってしまう…』
『すまない、アリエル。金が無くて、婚約指輪もウェディングドレスも用意してやる事が出来ないんだ』
すまない、アリエル…。すまない、アリエル…。彼から婚姻の打診を受け、私がそれを承諾してから、何度彼の口からその謝罪の言葉を受け取ったでしょう。その度に私は彼を許して来ました。お金がないのだから仕方がない。彼も悔しいのだと…。でも、もう沢山です。どれだけお金が無かったとしても、妻を大切にする事くらいは出来たはずです。彼はそれすらしなかったのです。
「それで? 私を連れ帰ってどうするおつもりですか? クララの言う通りメイドとして働かせますか? それとも、私を監禁して父と交渉する際の人質にでもするつもりなのかしら?」
私は揶揄う様に彼に尋ねました。
でも、私のこの言葉は流石にウィリアム様を怒らせた様です。彼は激昂して立ち上がりました。
「お前! いくら何でも不敬だ!!」
大声で私を威嚇すれば、私が引き下がって大人しくするとでも思っているのでしょうか? 舐められたものです。
「不敬? それは侯爵家としての抗議ですか? だったら構いませんよ? 私の事をお前と呼んでメイドの仕事をさせようとなさるんですもの。私はもう貴方の妻ではないのでしょう。良かったですね。式を挙げてまだ1日。貴族同士の婚姻は王室の許可を得て初めて認められる。貴方も流石にそれはご存知でしょう? 幸いお式も内輪だけの簡単な物。親族以外の貴族達は誰も2人の婚姻を知りません。そして今、早馬を飛ばし、王家への婚姻証明の提出を差し止めて頂く様、動いて頂いておりますの」
私は一気に捲し立てます。残念ですわね。虎の皮を脱いだ私はそんな従順な女ではありませんの。
「早馬が間に合えば、私達の婚姻さえ、無かった事に出来るかも。良かったですわね」
私がにっこり笑って胸の前で小さく拍手すると、流石に私の言葉の意味を理解したのか、ウィリアム様の顔が青く染まります。
当然です。私達の婚姻が取りやめになれば、我が家からの持参金や支度金の返還。そしてこうなった経緯から慰謝料も支払わなければなりません。
あら、今の侯爵家に払えるのかしら?
それでも私は優しいですからね。きちんとウィリアム様に彼が今置かれている現状を教えて差し上げます。
「ねぇ、ウィリアム様。此処を見てどう思われましたか?」
私の問いにウィリアム様は目をキョロキョロさせて周りを見渡しました。
「……何かの作業場か、何かか?」
ウィリアム様は私が何を言いたいのか全く分からない様です。彼の視線が頼りなさげに揺らぎます。
仕方が無いので詳しく説明してあげます。
「ここで職人を雇い、父の商会が受注してきたドレスや小物を作って工賃を稼ぐのです」
「……工賃? 此処には伯爵家の経営する商会の支店が入るのでは無かったのか?」
ウィリアム様が戸惑いなら尋ねました。
「ええ、当初はそのつもりでした。でも、リサーチの結果、ここではもう商売がなり立たないと分かったのです。街を行き交う人の数を見れば一目瞭然でしょう? だから領地にお金を落とす為の苦肉の策なのです。それに、ウィリアム様も流石にこの場所に、少し前まで何があったかはご存知でしょう?」
「…ああ。オスマンサス公爵家の経営する商会が出店していた…」
彼は言い辛そうに答えます。彼にとってもオスマンサスの撤退は響いた事でしょう。
「分かっているのに、何故貴方は手を拱いて見ているのですか? 国一番の商会が撤退したんですよ? きっとそれは更なる撤退を生みます。そうなれば税収は今以上に落ち込みますよ? ウィリアム様、この領地はもう崖っぷちなのです。それなのに屋敷内でのつまらない勢力争いにこだわって、私を蔑ろにするなんて馬鹿げています。 いいですか? 今、ガーネットが手を引けば、トラマールは終わりです!」
私はウィリアム様に言い放ちました。ウィリアム様は俯き血が出そうな程、強く拳を握り締めます。そうです。5つも年下の、まだ16歳の小娘に言いたい放題言われているのです。悔しくないはずがありません。でも、それが現実なのです。
「ウィリアム様。一つお聞きしても宜しいですか?」
「何だ…」
ウィリアム様は素っ気なく答えますが、その声には私に対する怒りが込められていました。
「侯爵様は何故あんなに痩せておられるのですか? 私の見た限り満足な食事を取られていない様に感じましたが…」
するとウィリアム様は驚きで目を見開き首を振った。
「父が痩せている? そんな…。私は知らない! 最近では父の顔を見るのも嫌で、クララと介護用メイドに任せきりにしていた」
ウィリアム様では無かった…。となると、クララの仕業か…。
私はほっとした反面怒りを覚えました。
「では、クララはやはり首ですね。過去にどんな経緯があったとしても、屋敷の主人に食事も満足に与えない使用人なんて考えられません! それにサイオスが私の為に買い揃えた家具。それも運び出したのはきっと彼女ですよね? それともウィリアム様が命じて何処かへ持って行ったのですか?」
「…いや、私は知らない…」
ウィリアム様は困った様な顔をして首を横に振り、こちらも否定しました。
「はぁ~。ではやはりクララしかいませんね」
私はウィリアム様に見せつける様に深いため息をついた。そして、さも、今思いついたかの様に手を一つ叩きました。
「そうだわ。良い事を思い着きました! 私、クララを首にして下さるなら侯爵邸に戻ろうかしら。さぁ、ウィリアム様。どうします? 彼女をとって没落しますか? それとも私をとって領地の復興を目指しますか? ウィリアム様の覚悟を聞かせて下さいな」
ウィリアム様は会うなり私に頭を下げました。
「それもまたクララに言われたんですか?」
「……っ!」
私の返答に彼は言葉を失いました。どうやら図星だったようです。
『すまないアリエル。婚約者なのに金が無くて夜会用のドレスを送ってあげられないんだ。』
『すまないアリエル。結婚式は内輪だけで出来ないか? 負債を負う我が家が豪華な式をあげれば、債権者達の目に留まってしまう…』
『すまない、アリエル。金が無くて、婚約指輪もウェディングドレスも用意してやる事が出来ないんだ』
すまない、アリエル…。すまない、アリエル…。彼から婚姻の打診を受け、私がそれを承諾してから、何度彼の口からその謝罪の言葉を受け取ったでしょう。その度に私は彼を許して来ました。お金がないのだから仕方がない。彼も悔しいのだと…。でも、もう沢山です。どれだけお金が無かったとしても、妻を大切にする事くらいは出来たはずです。彼はそれすらしなかったのです。
「それで? 私を連れ帰ってどうするおつもりですか? クララの言う通りメイドとして働かせますか? それとも、私を監禁して父と交渉する際の人質にでもするつもりなのかしら?」
私は揶揄う様に彼に尋ねました。
でも、私のこの言葉は流石にウィリアム様を怒らせた様です。彼は激昂して立ち上がりました。
「お前! いくら何でも不敬だ!!」
大声で私を威嚇すれば、私が引き下がって大人しくするとでも思っているのでしょうか? 舐められたものです。
「不敬? それは侯爵家としての抗議ですか? だったら構いませんよ? 私の事をお前と呼んでメイドの仕事をさせようとなさるんですもの。私はもう貴方の妻ではないのでしょう。良かったですね。式を挙げてまだ1日。貴族同士の婚姻は王室の許可を得て初めて認められる。貴方も流石にそれはご存知でしょう? 幸いお式も内輪だけの簡単な物。親族以外の貴族達は誰も2人の婚姻を知りません。そして今、早馬を飛ばし、王家への婚姻証明の提出を差し止めて頂く様、動いて頂いておりますの」
私は一気に捲し立てます。残念ですわね。虎の皮を脱いだ私はそんな従順な女ではありませんの。
「早馬が間に合えば、私達の婚姻さえ、無かった事に出来るかも。良かったですわね」
私がにっこり笑って胸の前で小さく拍手すると、流石に私の言葉の意味を理解したのか、ウィリアム様の顔が青く染まります。
当然です。私達の婚姻が取りやめになれば、我が家からの持参金や支度金の返還。そしてこうなった経緯から慰謝料も支払わなければなりません。
あら、今の侯爵家に払えるのかしら?
それでも私は優しいですからね。きちんとウィリアム様に彼が今置かれている現状を教えて差し上げます。
「ねぇ、ウィリアム様。此処を見てどう思われましたか?」
私の問いにウィリアム様は目をキョロキョロさせて周りを見渡しました。
「……何かの作業場か、何かか?」
ウィリアム様は私が何を言いたいのか全く分からない様です。彼の視線が頼りなさげに揺らぎます。
仕方が無いので詳しく説明してあげます。
「ここで職人を雇い、父の商会が受注してきたドレスや小物を作って工賃を稼ぐのです」
「……工賃? 此処には伯爵家の経営する商会の支店が入るのでは無かったのか?」
ウィリアム様が戸惑いなら尋ねました。
「ええ、当初はそのつもりでした。でも、リサーチの結果、ここではもう商売がなり立たないと分かったのです。街を行き交う人の数を見れば一目瞭然でしょう? だから領地にお金を落とす為の苦肉の策なのです。それに、ウィリアム様も流石にこの場所に、少し前まで何があったかはご存知でしょう?」
「…ああ。オスマンサス公爵家の経営する商会が出店していた…」
彼は言い辛そうに答えます。彼にとってもオスマンサスの撤退は響いた事でしょう。
「分かっているのに、何故貴方は手を拱いて見ているのですか? 国一番の商会が撤退したんですよ? きっとそれは更なる撤退を生みます。そうなれば税収は今以上に落ち込みますよ? ウィリアム様、この領地はもう崖っぷちなのです。それなのに屋敷内でのつまらない勢力争いにこだわって、私を蔑ろにするなんて馬鹿げています。 いいですか? 今、ガーネットが手を引けば、トラマールは終わりです!」
私はウィリアム様に言い放ちました。ウィリアム様は俯き血が出そうな程、強く拳を握り締めます。そうです。5つも年下の、まだ16歳の小娘に言いたい放題言われているのです。悔しくないはずがありません。でも、それが現実なのです。
「ウィリアム様。一つお聞きしても宜しいですか?」
「何だ…」
ウィリアム様は素っ気なく答えますが、その声には私に対する怒りが込められていました。
「侯爵様は何故あんなに痩せておられるのですか? 私の見た限り満足な食事を取られていない様に感じましたが…」
するとウィリアム様は驚きで目を見開き首を振った。
「父が痩せている? そんな…。私は知らない! 最近では父の顔を見るのも嫌で、クララと介護用メイドに任せきりにしていた」
ウィリアム様では無かった…。となると、クララの仕業か…。
私はほっとした反面怒りを覚えました。
「では、クララはやはり首ですね。過去にどんな経緯があったとしても、屋敷の主人に食事も満足に与えない使用人なんて考えられません! それにサイオスが私の為に買い揃えた家具。それも運び出したのはきっと彼女ですよね? それともウィリアム様が命じて何処かへ持って行ったのですか?」
「…いや、私は知らない…」
ウィリアム様は困った様な顔をして首を横に振り、こちらも否定しました。
「はぁ~。ではやはりクララしかいませんね」
私はウィリアム様に見せつける様に深いため息をついた。そして、さも、今思いついたかの様に手を一つ叩きました。
「そうだわ。良い事を思い着きました! 私、クララを首にして下さるなら侯爵邸に戻ろうかしら。さぁ、ウィリアム様。どうします? 彼女をとって没落しますか? それとも私をとって領地の復興を目指しますか? ウィリアム様の覚悟を聞かせて下さいな」
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