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第11話

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 さて、ウィリアム様を部屋から追い出した私は、マリサとエレンと3人で作戦会議中です。

「大丈夫ですか? お嬢様」

 2人は私の事をとても心配してくれます。

 それはそうでしょう…。

 2人は、私がどれだけウィリアム様の事が好きだったのかを知っているのですから…。

 この家に嫁いで来て僅か1日。

 先程、私の白い結婚が確定し、私の失恋は決定的となりました。ウィリアム様の言動から、私は彼にとって都合の良い金蔓でしか無かったのだと悟ったのです。

「お嬢様、大変申し上げ難いのですがいずれ分かる事ですので…」

 2人はそう前置きした上で、更に私の心を抉ります。

「先程、私達も部屋を頂いたのですが、そこに置かれていた家具がこの部屋と全く同じ物でして…」

 2人は言い辛そうに告げます。なる程、ウィリアム様にとって私は、彼女達と同じ扱いの様です。いえ、それが嫌だと言う訳ではないのですよ? 私はマリサもエレンも大好きですし…。ただ、ウィリアム様にとって私は、妻では無く使用人の1人だった事が悲しいのです。これで彼が白い結婚を言い出したのも分かります。

 だって私、使用人ですから…。

 また自分が情けなくなりました。

「それで? これからどうなさるのですか? 本当に明日の朝、ここを出て行くのですか?」

 マリサが心配そうに眉を寄せます。

「さあ…。それはウィリアム様の出方次第ね。ただ、これだけは言えるわ。私をこのまま出て行かせたら、トラマール侯爵家は終わりよ。ウィリアム様がそれに気付いて目を覚ましてくれれば良いんだけど…」

 私は彼と協力して、トラマール侯爵家を以前の様な姿に戻す為に嫁いで来たつもりでした。

 それがまさか、初日からこんな扱いを受けるなんて思ってもみませんでした。

「普通に考えればそうですよね? お嬢様をここ迄冷遇するなんて、ウィリアム様は侯爵家を没落させたいんでしょうか…?」

 エレンも呆れ顔です。

「この結婚話を侯爵家が持って来た時から、我が家はウィリアム様が出した条件を全て飲んで来たわ。だから自分は私に愛されている。何をしても許されると勘違いしたんでしょう。それを煽る存在もいる様だしね」

 でも、実際はそんな事、許せるはずがありません。ウィリアム様は私が嫁いで来てから僅か1日で、私の被った虎の尾を踏んだのです。

「侯爵家はもう、我が家からの持参金を返す事など出来ないでしょう。まして、契約不履行で裁判を起こすと脅しておいたわ。もしそうなれば侯爵家は酷い醜聞よ。私にしたこの扱いも裁判では白日の元に晒されるわ。それでもし慰謝料まで支払う事になれば、領地を手放し、爵位を返上するしか道は無い事くらい、誰が考えても分かるはず。きっと今頃、向こうはパニックになっているわよ。今まで従順だっだ私が逆らったんだもの…。こんなはずじゃ無かったって。良い気味だわ。私の流した涙は高くつくのよ」

 幼い頃から私達を見て来たクララは、私のウィリアム様に寄せる思いに気付いていたのでしょう。だから、侯爵家がもう借金でどうにもならなくなった時、私の存在を思い出し、ウィリアム様に告げた。

 問題はそこから。

 届かないと諦めていた初恋に手が届きそうになった私は舞い上がり、彼に好かれようと猫を通し越し、虎さえ被って従順で可愛い婚約者を演じた。

 だから2人は勘違いしたのでしょう。私には何をしても許されるのだと…。だったらいっその事、私より優位に立ちたい。上手くいけばガーネット伯爵家諸共、私を自分達の都合よく扱える。そう思ったとしても不思議はありません。

 でも、残念ね。幼い頃から伯爵家の後継ぎとして厳しく育てられた私が、本来そんな大人しい性格な訳がないじゃない。

 と、言う事でここからは本音で話させて頂きます。

 はい。私、もう虎は被りません。

 馬鹿ね。私の事、もっと大切に扱っていれば、私、大人しくしてあげていたのに…。

「もしウィリアム様が私への態度を反省して、共に侯爵家を建て直そうとするのなら、私は協力するわ。お父様も寄り親である侯爵様には恩を感じているしね。でももし、このままの態度を貫くなら、私は本当に実家へ帰るわ。お父様もお母様も、いつでも帰って来て良いって言ってくれているからね。まぁ、取り敢えずは明日の朝、向こうがどう動くのか様子見ね」

 幸い収納する場所が少なすぎて、私の荷物は殆どトランクケースに詰めたまま。

 私達は翌朝直ぐに出ていける様に、片付けた荷物だけをまたトランクケースに詰め直し、夜が明けるのを待つ事にしました。

 考えてみれば本来初夜だと言うのに、誰も私に湯浴みの声すら掛けては来ません。

 どれだけぞんざいに扱われているんだか…。私は溜息を吐きました。

 仕方がないのでベッドに横になってみます。

 「私との婚姻を希望だと言ってくれたのに…。私はそれがどれだけ嬉しかったか…」

 天井に向かって1人呟くと、また涙が出てきました。

 悔しさとベッドの硬さに眠れるだろうかと心配していましたが、疲れていたのか扉を叩く音がするまで気付きませんでした。

 窓の外を見ると、既に日は昇り、辺りは明るくなっていました。

 思いの外、よく眠れた様です。

 慌ててベッドから起き上がり、扉を開けるとサイオスが立っていました。

 「若奥様、侯爵様がお会いしたいと仰っております」

 彼は私にそう告げました…。

 













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