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第6話

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 結婚式を挙げ、晴れて夫婦となった私とウィリアム様はそのまま馬車に乗り、トラマール領へと向かいました。

「普通、領主の嫡男の結婚ともなれば領民には何らかの振る舞いをしなければなりません。ですが、私はそんな事に掛ける金があるのなら、少しでも負債を減らしたいのです」

 ウィリアム様経っての希望で、結婚式すら、我がガーネット伯爵領にある教会で執り行われました。つまり、トラマール領に住む人々は領主の嫡男の結婚を知らされてすらいなかったのです。

 ですから、私とウィリアム様を乗せた馬車が領内に入っても、領民は誰も見向きもしませんでした。

 いえ、それどころか、出歩く人も疎な領内は、私がまだ幼くトラマール家、ガーネット家、まだ両家の行き来が頻繁に行われていた頃の、私の記憶に残る、華やかで活気に満ち溢れていたトラマール領の様子とはかけ離れておりました。

 私は馬車の車窓から見えるその領内の様子に、釘付けになっておりました。

『ウィリアム様は都合の悪い事は全て隠そうとされていた。つまりこの婚姻は彼にとってそれ程大切だと言う事だ』

 父が私に覚悟を問うた時の言葉です。ウィリアム様にとってはこの寂れた景色こそが、領地を治める者として1番に隠したかった真実だったのでしょう。こんな何もない所に嫁ぐ事を、私が嫌になったりしないように…。

 そんな私に気付いたのか、ウィリアム様が悔しそうに眉を寄せました。

「これでも早めに頂いた君の持参金のお陰で少しはマシになったんだ。前はもっと酷かった…。領民から何か要望があったとしても、金が無くて何も叶えてあげる事が出来なくてね。そうなれば領民は次々に此処を去って行く。そんな領地には商人さえ来なくなる。税収は入らなくなり、町はどんどん寂れて行く。父が投資に失敗してからはずっとその悪循環だった…」

「…そうですか…」

 私もまた目を伏せます。

「借金だらけの家。どんどん寂れて行く領地。それを私と共に間近で見たバネッサは、ある日とうとう私との婚約の解消を申し出た。1番側にいて欲しいと願った時、彼女は私を捨てた。私は全てを失ったんだ。目の前が真っ暗になった。どうしていいのかさえ分からなかった。そんな時、君を思い出したんだ。幼い頃、良く一緒に遊んだ君を…。だから、君とのこの婚姻は僕にとっての希望であり、救いだったんだ」

 突然ウィリアム様が、バネッサ様の名前を出された事に心が騒ぎました。きっととても愛しておられたのでしょう。全てを失ったと感じる程に…。でも、愚かな私はそのことよりも、ウィリアム様が私の事を希望だと言って下さった事が嬉しかったのです。

「だから伯爵は、此処に商会の支店を出してくれると仰ったんだ。君の実家は手広く商売をされている。そんな店が領内に来てくれたら、領内は活気付くし、税収も入る。収益が上がればそれも返済に充てられるしね。君のご両親には感謝しても仕切れない」

 (そうか…だからあの時、ウィリアム様は父にお礼を言ったんだわ…)

 でもこの時、私は少しの違和感を感じたのです。父は店の収益は私にやると言いました。でも、ウィリアム様の中では、それは借金を返済する為のお金として認識されていたのです。

 暫くすると、馬車が侯爵邸に到着しました。

 馬車から降りた私は、驚きで目を見開きました。それと同時に、ウィリアム様が我が家の訪問を頑なに拒み続けられた訳が分かりました。

 何故なら其処には、まるで廃墟の様な景色が広がっていたからです…。










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