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第5話
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その日の朝、花嫁の控室に入る私を、ウィリアム様は扉の前で待っていて下さいました。
「アリエル。やっとこの日が来たね。こんな事を言うのは恥ずかしいが、私はこの日を待ち望んでいたよ」
そう言って笑顔を見せるウィリアム様に、私の胸は高鳴りました。ウィリアム様がバネッサ様とご婚約された時、一度は諦めた恋でした。それなのに、その恋が今日、自分でも思わぬ形で叶うのです。私は今日、初恋のウィリアム様の隣で、花嫁として結婚式を挙げるのです。今にも溢れそうな涙を必死に堪え、感動で何も話せなくなった私に彼は言葉を繋ぎます。
「でも、結局私は君にウエディングドレスも、婚約指輪も何一つ買ってやる事は出来なかった。何から何まで、君のご実家の世話になった。恥ずかしい限りだ。本当にすまない」
ウィリアム様は申し訳なさそうに頭を下げました。彼はきっと侯爵様が投資に失敗し、負債を背負ってからずっと、こうやって理不尽に頭を下げ続けて来られたのでしょう。
ウィリアム様には何の罪も無いと言うのに…。
侯爵家の嫡男として生まれたウィリアム様にとってそれがどれ程の屈辱だったか…。考えるだけで私まで悲しくなって来ました。
「私もどれ程ウィリアム様の花嫁になれるこの日を待ち望んでいたか…。子供の頃から、貴方はずっと私の憧れだったのです。だから本当に今日は夢の様です。ウィリアム様は私に幸せを下さったのです。そんな風に謝らないで下さい。それに、ガーネット伯爵家は商売でドレスも宝石も取り扱っております。娘の私が自分の結婚式にそれを身につける事で、商会にとってとても良い宣伝になるのです。ですからこれは伯爵家の為なのですよ。我が家は逆にウィリアム様にお礼を申し上げなければならない位なのです」
俯くウィリアム様を励まそうとそう言うと彼は「……そうか…」と、少し寂しそうに微笑んだのです。私が気を使っていると思われたのでしょうか?
「そうですよ。私、これから立派な広告塔になれるよう、目一杯着飾って来ますからウィリアム様は祭壇の前で楽しみに待っていて下さいね。それにドレス選びにも、指輪を選ぶのにも、いつも付き合ってくださって、私、本当に嬉しかったんです。ありがとうございます」
私は務めて明るく振る舞いました。
正直に言うと、父から聞いた話が頭を過ぎる時もありました。結局、ウィリアム様のお父様であるトラマール侯爵も体調不良で今日は欠席される事になりました。不安が募ります。
それでも私は、ウィリアム様と共にこれからの人生を歩んで行くと決めたのです。
ウェディングドレスに着替えた私を見たウィリアム様は、とても綺麗だと歯に噛みながら褒めて下さいました。
私達はこの日、神の前で宣誓し、晴れて夫婦となりました。
如何なる時も、愛し、敬い、助け合う…。
結婚式の誓いの言葉です。でも、そう思っていたのは私だけでした。
彼がこの結婚で欲しかったものは、手広く商売をするガーネット伯爵家の財力と、病気の義理父様の世話をする無償の働き手だけだったのです…。
「アリエル。やっとこの日が来たね。こんな事を言うのは恥ずかしいが、私はこの日を待ち望んでいたよ」
そう言って笑顔を見せるウィリアム様に、私の胸は高鳴りました。ウィリアム様がバネッサ様とご婚約された時、一度は諦めた恋でした。それなのに、その恋が今日、自分でも思わぬ形で叶うのです。私は今日、初恋のウィリアム様の隣で、花嫁として結婚式を挙げるのです。今にも溢れそうな涙を必死に堪え、感動で何も話せなくなった私に彼は言葉を繋ぎます。
「でも、結局私は君にウエディングドレスも、婚約指輪も何一つ買ってやる事は出来なかった。何から何まで、君のご実家の世話になった。恥ずかしい限りだ。本当にすまない」
ウィリアム様は申し訳なさそうに頭を下げました。彼はきっと侯爵様が投資に失敗し、負債を背負ってからずっと、こうやって理不尽に頭を下げ続けて来られたのでしょう。
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侯爵家の嫡男として生まれたウィリアム様にとってそれがどれ程の屈辱だったか…。考えるだけで私まで悲しくなって来ました。
「私もどれ程ウィリアム様の花嫁になれるこの日を待ち望んでいたか…。子供の頃から、貴方はずっと私の憧れだったのです。だから本当に今日は夢の様です。ウィリアム様は私に幸せを下さったのです。そんな風に謝らないで下さい。それに、ガーネット伯爵家は商売でドレスも宝石も取り扱っております。娘の私が自分の結婚式にそれを身につける事で、商会にとってとても良い宣伝になるのです。ですからこれは伯爵家の為なのですよ。我が家は逆にウィリアム様にお礼を申し上げなければならない位なのです」
俯くウィリアム様を励まそうとそう言うと彼は「……そうか…」と、少し寂しそうに微笑んだのです。私が気を使っていると思われたのでしょうか?
「そうですよ。私、これから立派な広告塔になれるよう、目一杯着飾って来ますからウィリアム様は祭壇の前で楽しみに待っていて下さいね。それにドレス選びにも、指輪を選ぶのにも、いつも付き合ってくださって、私、本当に嬉しかったんです。ありがとうございます」
私は務めて明るく振る舞いました。
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私達はこの日、神の前で宣誓し、晴れて夫婦となりました。
如何なる時も、愛し、敬い、助け合う…。
結婚式の誓いの言葉です。でも、そう思っていたのは私だけでした。
彼がこの結婚で欲しかったものは、手広く商売をするガーネット伯爵家の財力と、病気の義理父様の世話をする無償の働き手だけだったのです…。
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