悪役令嬢の父は売られた喧嘩は徹底的に買うことにした

まるまる⭐️

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 この色素の沈着した肌の色。

 間違いない……。これは蓄積型の毒。しかもダンケル程の者がこの様な状態になるまでそれに気付かなかったと言う事は、恐らく彼に毒を盛った人間は、長い時間をかけ、ほんの少量ずつ彼に毒を盛り続けたのであろう。

 ダンケルが病を患ったのだと周りに見せかける為に……。

 だが例えそうであったとしても、本来宮廷医ならばダンケルの体を診れば容易に毒によるものだと診断出来たはず。

 と、すると宮廷医もグルと言う事か?

 いったい今、この国で何が起こっている?

「毒ですね? 然もご丁寧に陛下の顔色に他の者が気付かぬ様に阻害魔法までかかっている……」

 ワシが考えを巡らせていると、後ろからアルテミスが普段の彼女からは想像も出来ぬ様な低い声でワシに話しかけて来た。

 その声音には、彼女が抱いたであろう怒りの感情が込められていた。

 アルテミスのこの言葉にワシは驚きが隠しきれず、勢い良く彼女の方へと振り向くと、我が娘を見据えた。

「其方、この状態でもダンケルの顔の色が分別出来るのか?」

 アルテミスの言うとおり確かにダンケルには阻害魔法が施されていた。

 それもかなり高度なもの。並大抵の魔導士では気付く事はないだろう。

 するとアルテミスの声が先程より少し柔らかなものへと変わった。

「お父様、見くびらないで下さいませ。私はまだ自分で立ち上がるのがやっとの頃から、この国1番の魔導士から魔法の手解きを受けて来たのですよ? 王都に来てから暫く経ちますが、魔法の鍛錬を欠かした事は御座いませんわ」

 国1番の魔導士。

 そうかアルテミスはワシの事をそんな風に思っていてくれたのか……?

 ワシは感極まって涙が出そうになった。いかんな。最近年のせいか涙腺が弱くなって困る。

 だが、娘の前で泣くわけにはいかない。ワシは必死に涙を堪えた。

「……そうか。偉いな、アルテミスは…」

 ワシはそう言って愛娘を褒めるのがやっとだった。

 確かに毎日鍛錬を繰り返さなければ、魔法もその精度が落ちる。練習しなければ上手くはならないのは剣術と同じだ。

 ワシが褒めるとアルテミスは照れ臭そうな笑みを浮かべながらワシを怒った。

「もう、お父様ったら! 私はもう18ですのよ! いつまでも子供扱いしないで下さいませ!!」

「はははっ! そうか、そうか。それは申し訳ない事をした。ではご令嬢、やはり其方も毒だと思うか?」

「ええ、間違い無いでしょう。陛下が盛られたのは体内に入っても排出されず溜まり続け、少しずつ体を蝕んでいく、蓄積性の毒。違いますか?」

 アルテミスはワシにそう問い返した。

 親バカと笑われるかも知れんが、やはりアルテミスは優秀な娘だ。

 もしかしたら、アルテミスが婚約破棄された本当の理由は、聡い彼女をこの王宮から排除するためだったのかも知れない。

「その通りだ。そして恐らく宮廷医もグル。故にこのままダンケルをここに置いておけば、確実に此奴の命は奪われるであろう。然も病死と発表されてな」

「……それはそうですが、ではお父様はどうされるのですか?」

「なに、簡単な事よ。ダンケルを我がグランベルク家へ連れ帰る」

「ですが、それでは王宮が大騒ぎになってしまいます。もし我が家の関与が知れれば、グランベルクは立場を失いますわ」

 アルテミスの表情が不安に歪んだ。

「なに、心配には及ばん。忘れたのか? 先程我が家はこの国を出たでは無いか? 今更、何が起こっても痛くも痒くもないわ。それにこの国に今、グランベルクと事を起こすだけの力があるとはとても思えん。加えてそれはダンケルが回復するまでの僅かの間。此奴が元通り動ける様になれば、我が家の名誉は直ぐに回復するだろうよ」

 そのワシの言葉を聞いてアルテミスはパッと顔を明るくさせた。

「では、陛下は回復なさるのですね!?」

「当たり前だ! 誰に言っておる? ワシは国1番の魔導士なのだろう? ダンケルは必ず治してやる。此奴には聞きたい事が山ほどあるからな」

 この国には今、恐らくだが、魔導士の数が圧倒的に不足している……。

 それに今、長く平和な世が続き、この国の兵達の殆どが実戦経験を持たない。常日頃から敵国ルクソルの脅威に晒され、それに対峙し続けて来たグランベルクの兵達と比べれば、その力の差は歴然だろう。それに加え武器に魔法付与出来る魔導士がいないとなれば、国を揺るがす大問題だ。ワシはどうしてもダンケルに問い質したかった。

 何故、この国はこれ程の体たらくに陥ったのだ! ワシはあれから貴様との誓いを叶えるため、命がけでグランベルクを守っておると言うのに、貴様は一体何をしているのだ!?  

 そう叱責してやりたかった。

 そもそも、貴様のあの息子は何だ!

 エドガーはワシが拘束魔法を解いただけで体のバランスを崩し倒れ込んだ。体幹が出来ていない証拠だ。あれでは満足に剣を振る事さえ出来ない。

 あれがエドガーの怠慢だと言うのならそれは良い。だが、もし他の貴族の令息達もエドガーと同じだったとしたら、この国の未来はどうなるんだ!?

 そう問い質したかった。

 魔導士はいない……。

 まともな剣士もいない……。

 それがもし現実だとしたら、どうやって国を守る? 

 ワシと貴様とのあの戦場での誓いはどうなるのだ……と。

 そしてこの時、ワシはこの機を利用して王宮内を探る事を決めた。
 


















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