ホラー色々

春瑠衣(はるるい)@IRIAMライバー

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無関心の救い

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全部どうでもいい事だ

じわじわと汗をかく蒸し暑い夜だった。
友人の慶悟から夏らしい事をしないかと連絡があったのは誘うにしては遅い時間。

「なんかこのまま寝るには落ち着かないし、せっかくの休みだったから飲みたくなって」

慶悟が俺の家まで迎えにくるといつもと変わらぬ飄々とした様子で話を続ける。手には既に買ってくれたのか酒やつまみが入っているビニール袋が見えた。

「随分準備がいいな」

「ちょっと遅いから行きに買ってきたんだよ、俺の奢り」

「気前も良い?後で返せとか言うなよ」

俺の返事に慶悟はけらけらと笑ってそんなこと言わないと答える。いつもふらっと現れてはこうして飲みにいくのはいつぶりだろうか。

家から近くに少し大きな公園がある。周りに家も少ないので夜に飲んで多少大きな声を出しても気にしなくていい。
夜中の時間帯に到着した公園に人はいなかった。

「なんだかんだこうして飲むの久しぶりだな」

ベンチに座ってビニール袋から缶の酒を取り出し慶悟が俺に渡す。頃合いを見計らって乾杯の声もなく同時に缶を合わせると鈍い音が響いた。

「お前がすっかり愛しの彼女にどっぷりハマったからな」

慶悟がその彼女と付き合う前まではここでよく飲んでいたのだ。だから今日は慶悟の言う通り久しぶりと言うことになる。

「なんだよ、寂しかったのか?」

おどけて見せた慶悟の肩を軽く小突く。

「いや意外だったって感じ」

飄々とした彼が何かにどハマりするのを長い付き合いの中で見た事がなかったのだ。一度、見た事がある彼女は手足が長くモデルのような美人だった。長い黒髪と白い肌が印象的で、それなりに見目の良い慶悟とはお似合いではあった。

「最近はどうなんだ?」

俺の質問に笑顔のまま慶悟は答える。

「もう別れた」

「……ああ、だから俺が誘われたのね」

「そんなところ」

そう返事したくせに、別れたからといって落ち込んでいる様子はない。

「それは聞いたほうがいいのか?」

「うーん、そうでもない」

「そうか良かった、俺も興味はない」

「うわ!相変わらずだな、何も興味無いところ!まあほら、お前の顔見たかっただけ」

「キモいな」


いつもと変わらない慶悟の横に視線をずらすとその奥で木が揺れていた。
夏のぬるい風は葉を揺らす程度にはあるようだが音は無い。


「ほら、もっと飲め!」

だんだんとペースが上がってきた慶吾は俺に飲めと押し付けるように酒を勧めてきた。酒飲みとしては断る理由もないので飲み進めていく。

だいぶ時間が経った頃にふと見れば、缶を持つ慶悟の手が震えている。

「おい、震えてる。やめとくか?」

「大丈夫だって!!久しぶりだからかな」

大きな声で楽しそうに返事をされるが、倒れられても困るので水を飲ませることにした。慶悟が一切ソフトドリンクを持ってきていなかったので自販機に向う。

少ない蛍光灯だけの公園は、自販機がものすごく明るく見える。少し離れたそこで水を買いながら一度振り返ると慶悟の横に女がいた。
慶悟は缶ビールを持ち座ったまま女を見上げている。赤いワンピースは慶悟の彼女がよく着ていた。

俺は次に自分の分の水を買うためにもう一度自販機に振り返る。
そして慶悟の元に戻った頃には女はもう消えていた。

戻った俺に慶悟はいつも通りへラリと笑った。

「おかえり、水ありがと」

「今ある酒、飲み切ったらそろそろ帰るか」


そう言った途端、慶悟は笑顔のまま固まり「なあ」と口を開いた。

「お前、見えたよな」

「何が?」

「お前幽霊とか、見えたよな」


昔から、確かにその類のものがよく見える。
慶悟にはその話をしていたし、彼も信じていたが長い付き合いとなりそんな話はすっかりしなくなっていた。慶悟がそれを覚えているのは少し意外だった。


「見えるよ」


答えた俺に慶悟が顔を歪めた。

「じゃあ、今俺に何か憑いてるか?」

震える声でそう聞かれ俺は首を横に振った。

「いや?」

「本当か?!」

「ああ」

「で、でも……」

続く言葉がわかってしまった俺は、無理やり水の入ったペットボトルを慶悟の口に押し付ける。

「酔い過ぎだ、水飲め」


俺にはどうでも良かった。敬語にあった瞬間からその隣に女が見え隠れする事も、それが彼女かどうかは顔が見えないから分からないが、慶悟なりに本当は何かを気にしている事も。

「俺は、お前が、いつも通りへらへら笑ってればそれでいいと思うよ」

真実もどうでも良かった。
女の幽霊の姿が見えたとしても、そいつが慶悟を見ながら泣き、首を絞めていたとしても。そしてそのその女の首にも縄の跡があっても。見えていてもいなくても俺は慶悟と酒を飲んだ。


「うん。だから俺、お前に会いにきたんだ」


そう言った慶悟はほっとしたような、泣きそうな顔をしている。俺が興味がないことを慶悟だって知っているのだ。


その日が慶悟に会った最後の日だった。
きっと、それすらどうでも良いことだと思っている事が慶悟には救いだったのかもしれない。



終わり。
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みんなの感想(1件)

びやあき
2023.09.26 びやあき
ネタバレ含む
解除

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