EAR OF YOUTU

2話

「みゃーちゃーん！！新入生つれてきたよー！！ヘブッ！！」
　部室の扉を開けながら、先輩は声を張り上げる。みゃーちゃんと呼ばれた黒髪の女子は雑誌から目を離さないまま、手近なクッションを先輩の顔に投げつけた。
「みゃーちゃん言うな。それに新入生？どうせまた、無理やり連れてきたんじゃないの？」
　みゃーちゃんは面倒くさげに先輩に話しかけながら、こちらに目を向け、驚きに目を見開く。
「友梨奈、あんた本当に無理やり連れて来てない？男子に無理やり耳かきさせたなんてなったら大問題だよ？」
　クッションを置きながら、先輩はむくれっつらで抗議する。
「酷いよ！みゃーちゃん！ちゃんと、先輩を助けると思って！ってお願いしたもん！！…ちょっと耳かきのこと知らなかったみたいだけど…」
　みゃーちゃんは溜息を吐きながら先輩にデコピンする。
「だからみゃーちゃん言うな。知らん先輩から絡まれたら新入生は断れないだろ普通…ごめんなー新入生。友梨奈にはよく言っとくから、無理に付き合わなくてもいいぞー？」
「ぴゃう！いや、でも助けてくれるっていったもんね？耳かき一回だけでも観ていこうよ！！えーっと…」
　先輩は僕に向かって声をかけようとして言葉が詰まった。そのことにみゃーちゃん先輩は目を細める。
「友梨奈…あんたまさか、新入生の名前も聞かずにつれてきたの…？」
「いやーそれはー…あはは…」
　バツの悪そうに眼をそらしながら、友梨奈はごまかそうとしたが、さすがにそれで誤魔化される人間はいないが、詰められるだけの先輩が少し不憫になってきていた。
「その、まあちょっと強引だったかもしれませんが、僕はその、構わないですよ。耳かきについて何も知らないけど、こっちじゃ常識みたいだし、すこし興味は出てきたので。」
　僕の言葉に、みゃーこ先輩は言葉の勢いを緩め、先輩は目を輝かせる。
「ほら！みたまえ！みゃーちゃん！！耳かきを知りたい子に耳かきを教えるのはむしろ耳かき部の存在意義まであるよ！強引なんてとんでもない！私が正しいことが証明されたね！ふぎゃ！」
　調子に乗った先輩に本日二度目のみゃーちゃんのデコピンが炸裂する。
「すみません、先輩、僕もやっていいです？」
「あー。いいんじゃない？」
「ダメだよ！？ほら、耳かきのこと、教えてあげないと！あ！その前に…」
　先輩は少しばつの悪そうな顔で微笑んだ。
「自己紹介、しよっか。」
　一瞬可愛いと思ってしまったことがなんだか腹立たしかった。