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VRゲームで生きているNPCたちの話
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わかってたけど、これにまでそんな事になるとは思わなかった。
ただ、今までも同じようなことが有ったからそれを見ていてもそんなにも怒りとか悲しみとかを感じていないように思う。
二人連続で出たレア祝福に喜ぶ大人たちとそれに囲まれている幼馴染二人を眺める僕。
既に僕がいる事を忘れているのだろう。二人を連れて神殿の奥へと進みだす大勢の姿に話しかける事すら億劫になって呆然と立ち続けていた。
「おやおや、まだ一人残っているというのに……」
その声に気づき、僕は顔をそっちに向けるとそこに立っていたのは今までの祝援の儀を見守っていた司祭さまだった。
「ほら、そんな所で立っておらんでこっちに来なさい」
司祭さまの声に導かれて儀式台に近づくと手に持っていた身分証を渡し、儀式を始める姿をただただ呆然と見つめ立ち尽くすだけ。
儀式が進むにつれてだんたんと周りの音が消えて、世界から取り残されていくような感覚に陥る。その後、音が消えていったのはただ単に騒いでいた人たちが遠くに行った事や司祭さまの儀式が終盤に差し掛かって祈りを捧げている状態だったからだと。
唯一、儀式台の傍に残っていたのは今儀式を執り行っている司祭さまだけ。それでも僕をしっかりと認めてくれたその優しい眼差しには嬉しさを感じた。
今までも幼馴染二人と一緒にいると僕よりも二人の方が褒められたり、喜ばれるような事が沢山起きて皆が僕には目もくれなかった。
だからこそ、せめてこの人に喜んでもらえる祝福が貰えるように僕も女神さまに向かって祈る。
「……、与えたまへ」
その司祭さまの言葉に続くように体が熱くなっていって、だんだんとその熱と何かが体から抜け出した感覚を覚える。
そして、司祭さまが僕の方を見ながら微笑むのに合わせて儀式台に置かれていた僕の身分証に光が集まっていく。
その光が全て身分証に吸い込まれた頃には熱さに苦しんでいた事が嘘のように何か身体が軽くなっているような気がした。
「さぁ、これを見てみなさい。これがボウヤの祝福だよ」
そういって差し出された身分証には儀式前には書かれていなかった僕の祝福が加えられていた。
???SIDE
またあの子は一人だけ……。
いつもの事と言ってしまえば楽なんだけど、ここまで続いてしまうと悲しみを覚えてしまうのね。
あの子は別に何かした訳でもないのに、どうしてこんな事になるのかしらね。このままだと信じられるのは私一人だけって事になりそうなのが心配だわ。
でも、良かったわ。無事に儀式が始められて……。可哀想な子だから私だけでも何かしてあげたいところだけど、出来るのは唯々祈るだけ。
それでもどうにかあの子にも祝福が有りますように……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁ、知ってるか?」
「何がだよ?」
いつものように作業をしながらも話しかけてきた奴に返事すると驚きの言葉が返ってきた。
「東のキエラントがあの来訪者を受け入れたらしいぞ」
「はぁ? 嘘だろ!?」
「何でもここ最近は魔獣被害が酷くなっただけじゃなくて、ダンジョンや魔族の姿が見られたとか色々と国存亡の危機に瀕し始めたとかで早めに対処するためとか」
混乱する頭を抱えながらも話に間違いがないか確認するように聞いてみる。
「確かにここ最近のキエラントへのルートがかなり危険ってのは知り合いの商人とかが結構言ってたけど、そこまでのレベルなのかよ」
「らしいぞ。 これでおれ達が巻き込まれなけりゃ良いんだが、そうも言ってられないらしい」
「なんでだよ? 山脈挟んでるし、酷い状況じゃないからそうそうは巻き込まれる事は無いと思うぞ」
「確かにうちの国は問題ないように見えるけど、辺境は微妙な状態らしい」
まさかと思う内容が続いてだんだんと考える事を放棄したくなった。
「だけど、それはいつまも続くかはわからない。 だから、一部の実力者たちをキエラントに送って来訪者たちを見極めて、問題ないようなら受け入れたいって話だ」
「へぇー、それでここ最近はギルドも騒がしいのか」
そういって周りを見渡してみると少し前までの様子が嘘のようにドタバタと職員が忙しなく働いているのが分かる。
何より今俺がやっている作業もギルドから急遽依頼が有ってやる事になった訳だし。
「それにここだけの話だけど、国としては勇者パーティーとして光剣のローランと聖女セーラたちを送りたかったみたいなんだが、何でも聖女セーラが拒否してるらしくてコッチに回ってきたって話らしいぞ」
「はぁ? なんでまた拒否してるんだ?」
俺は聞いた事が信じられなくてマジマジと見返してしまう。
「なんでも少し前に故郷の村の傍に行ったからって帰郷しようとしたらしいんだが、魔獣たちの襲撃で滅んでたらしいんだと、その故郷の村が。でだ、話によるとセーラ様たちにはもう一人幼馴染がいたらしくてボロボロになった村を賢明に探したらしいけど見つからなかったらしい」
「あぁ、それは仕方ないよな……」
魔獣に襲われたって事は全員死んでる可能性の方が高いし、運が悪いと喰われちまってるから遺品とかそういった物すら見つからないのはよくある事だ。
それにぐちゃぐちゃにされている村の中から特定の人を探そうってのが大変だろうしな。
「それがな、おかしな事に村の奥に墓が作られてたらしいんだよ。しかも、滅ぶ少し前に行った事の有る行商人がいうにはそんな物は無かったっていうのが」
「へぇー、よくそんな人がいた事分かったな?」
「まぁ、セーラ様たちの為に国が動いてるらしく、噂が流れてくるんだよ。それよか続きだけど、その行商人以外にも逃げ出した村人たちが何人かいたらしくて墓も誰のものかもわかったらしいんだが、何人か見つかってないんだとよ」
その言葉に俺は次に続く言葉となんとなく聖女様の気持ちが分かった。
「幼馴染は見つかってない方だったんだな?」
「おう、それにちょうど村が襲われた時は村の外に出てたみたいで襲われてないかもしれないんだとよ。だから余計にセーラ様がキエラントに行きたくないって言ってるようだ」
そう言って周りを気にしながらも顔を寄せてきた男にちょっと引きそうになるが、他にも言いたい事が有るようで仕方なしに耳を寄せた。
「ここだけの話、セーラ様には伝わってないっぽいけどその幼馴染は逃げ出す村人を助けていたって話も有るんだよ。ただ、それも生き延びた人が視界の淵で似たような服装の人がいたような気がするっていう曖昧な言葉だから伏せられてるらしい」
「おいおい、それ良いのかよ」
驚いて顔を見てしまうが、なんとも言えないような表情でこれは本当に知られてない噂だと言ってくる事からあまり知られていない事が分かる。
「まぁ、どっちにしろ勇者パーティ-はセーラ様次第だからキエラントに行く可能性は低そうだ。それよりも兄ちゃん、見た感じ戦闘職っぽいし、装備も良いのに何でココで調合してんだ?」
「あぁ、ギルドからの指名依頼でな。ちょうど戻ってきたばっかだったから休もうと思ってたけど、この様子だろ?」
「なるほど。まっ、兄ちゃんのランクは知らんけど、意外にキエラント行きの話が来たりするかもな」
ジロジロと俺の服装を見ていたが俺の答えに満足したのか頷きながら揶揄う男の姿に相手するのが面倒と思ってしまうがちょうどよく調合も終わる。
「だったら良いな。どうせ、報酬は高そうだしな」
そう言って席を立った俺に何か言いかけた男だったが、直ぐに口を閉じて自分の作業を始めるようだった。そして、そんな様子を背後に感じながらも俺は完成した薬を提出してギルドを後にする。
「しかし、あいつがまさか俺の事を探しているとはな……」
歩き出した俺の脳裏に思い出されるのは最後に会った時の幼いあいつの顔だった。周りを大人たちに囲まれてもう一人の幼馴染と一緒に扉の奥に消えていったあいつの顔は今でも昨日の事のように思い出せる。
「まぁ、一度ぐらいは会いに行っても良いのかもしれないな」
会えるかどうかも微妙だけどっと直ぐに思い浮かんだ考えに苦笑しながらも家の扉を開けながら中にいる筈の人物に声を掛けた。
「ただいまー、今日の晩飯は何になったー?」
「シーヴァル義兄さん、おかえりなさい!!」
声と共に抱き着いてきた恩師の娘さんに驚きながらも抱き返していた時に腰につけていた別れる事になった少し前にあいつから貰った硝子細工のアクセサリーが一瞬だけ光った事に俺は気が付かなかったのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ紹介
・シーヴァル
ローランとセーラの幼馴染。ギルドランクSで黒騎士の二つ名を持っている。
13才になると街にある神殿で受ける事が出来る“祝援の儀”でその二人と運命を別つ事になった。元々住んでいた村でも他の二人と比べて劣っていた為に幼い頃は二人に対して引け目を感じていた。
村が襲われた際は森に出ていたが村の異変に気が付いて戻り、逃げていく村人たちを後目に魔獣に立ち向かって危機的状況に陥るが、偶然通りかかった恩師に助けられて生き延びる。その後、恩師と行動を共にして腕を磨き、ギルドでも有数の冒険者となった。
また、来訪者に関してキエラントに向かう事になり、結果的には幼馴染二人と再会のはかなり後になってしまう。
・セーラ
シーヴァルとローランの幼馴染でシーヴァルに恋心を抱いていた。
“祝援の儀”で珍しい聖魔法の祝福を貰った事でシーヴァルとは離れ離れになってしまう。その後、色々有った後に聖女と呼ばれ、同じく光剣と呼ばれるようになったローランや他数人と共に勇者と呼ばれるようになる。
偶然立ち寄った事で故郷の事を知り、微かな可能性でシーヴァルが生きているかもしれないという事でキエラントに行く事を拒否してしまい、結果的に再会するまでに時間が掛かってしまう。
・ローラン
シーヴァルとセーラの幼馴染でセーラに恋心を抱いていたし、セーラがシーヴァルを気にしていた事を知っていた。
セーラと共に“祝援の儀”で珍しい光剣使いの祝福を貰った事でシーヴァルから離れるがどうアプローチしてもセーラが自分の事を気にしてくれる筈もなく、度々落ち込んでいた。
色々有った後に光剣のローランと呼ばれるようになり、セーラたちと共に勇者と呼ばれるようになる。
偶然立ち寄った事で故郷の事を知り、シーヴァルの事は既に亡くなった物として扱いだして何とかセーラを振り向かせようとするが失敗。キエラントに行く事も拒否されて国と共にセーラを宥めるのに苦労する事になった。
・司祭さま
“祝援の儀”の時に唯一シーヴァルの事に気が付いて、他に誰もいなくなってしまったので一人でシーヴァルの“祝援の儀”を執り行った。
・???
世界を管理する為に造られた女神(システムAI)。
・恩師の娘
恩師が亡くなってしまった為に兄のように慕っていているシーヴァルと共に行動している。
用語紹介
・祝援の儀
13才になると街にある神殿で受ける事が出来る儀式。
出生時に神殿より配布されていたボードを神殿にて女神の祝福を受ける事で祝福の覚醒を促す。
・身分証
出生時に神殿から配布される物で来訪者でいう所のステータスボード。
・祝福
女神がその人に宿る素質や技能を認めた証拠として授ける物で来訪者でいうとスキル。
・来訪者
女神に導かれて現れだした人々。
通常では考えられないほど、成長速度が速く、祝福もどんどん取得していく。
過去に現れた時は余りの横暴な態度が目立っており、合わせて災いとも言える魔獣の襲来を受け、現れた国はその後すぐに滅ぶことになった(βテストの事)。
ただ、今までも同じようなことが有ったからそれを見ていてもそんなにも怒りとか悲しみとかを感じていないように思う。
二人連続で出たレア祝福に喜ぶ大人たちとそれに囲まれている幼馴染二人を眺める僕。
既に僕がいる事を忘れているのだろう。二人を連れて神殿の奥へと進みだす大勢の姿に話しかける事すら億劫になって呆然と立ち続けていた。
「おやおや、まだ一人残っているというのに……」
その声に気づき、僕は顔をそっちに向けるとそこに立っていたのは今までの祝援の儀を見守っていた司祭さまだった。
「ほら、そんな所で立っておらんでこっちに来なさい」
司祭さまの声に導かれて儀式台に近づくと手に持っていた身分証を渡し、儀式を始める姿をただただ呆然と見つめ立ち尽くすだけ。
儀式が進むにつれてだんたんと周りの音が消えて、世界から取り残されていくような感覚に陥る。その後、音が消えていったのはただ単に騒いでいた人たちが遠くに行った事や司祭さまの儀式が終盤に差し掛かって祈りを捧げている状態だったからだと。
唯一、儀式台の傍に残っていたのは今儀式を執り行っている司祭さまだけ。それでも僕をしっかりと認めてくれたその優しい眼差しには嬉しさを感じた。
今までも幼馴染二人と一緒にいると僕よりも二人の方が褒められたり、喜ばれるような事が沢山起きて皆が僕には目もくれなかった。
だからこそ、せめてこの人に喜んでもらえる祝福が貰えるように僕も女神さまに向かって祈る。
「……、与えたまへ」
その司祭さまの言葉に続くように体が熱くなっていって、だんだんとその熱と何かが体から抜け出した感覚を覚える。
そして、司祭さまが僕の方を見ながら微笑むのに合わせて儀式台に置かれていた僕の身分証に光が集まっていく。
その光が全て身分証に吸い込まれた頃には熱さに苦しんでいた事が嘘のように何か身体が軽くなっているような気がした。
「さぁ、これを見てみなさい。これがボウヤの祝福だよ」
そういって差し出された身分証には儀式前には書かれていなかった僕の祝福が加えられていた。
???SIDE
またあの子は一人だけ……。
いつもの事と言ってしまえば楽なんだけど、ここまで続いてしまうと悲しみを覚えてしまうのね。
あの子は別に何かした訳でもないのに、どうしてこんな事になるのかしらね。このままだと信じられるのは私一人だけって事になりそうなのが心配だわ。
でも、良かったわ。無事に儀式が始められて……。可哀想な子だから私だけでも何かしてあげたいところだけど、出来るのは唯々祈るだけ。
それでもどうにかあの子にも祝福が有りますように……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぁ、知ってるか?」
「何がだよ?」
いつものように作業をしながらも話しかけてきた奴に返事すると驚きの言葉が返ってきた。
「東のキエラントがあの来訪者を受け入れたらしいぞ」
「はぁ? 嘘だろ!?」
「何でもここ最近は魔獣被害が酷くなっただけじゃなくて、ダンジョンや魔族の姿が見られたとか色々と国存亡の危機に瀕し始めたとかで早めに対処するためとか」
混乱する頭を抱えながらも話に間違いがないか確認するように聞いてみる。
「確かにここ最近のキエラントへのルートがかなり危険ってのは知り合いの商人とかが結構言ってたけど、そこまでのレベルなのかよ」
「らしいぞ。 これでおれ達が巻き込まれなけりゃ良いんだが、そうも言ってられないらしい」
「なんでだよ? 山脈挟んでるし、酷い状況じゃないからそうそうは巻き込まれる事は無いと思うぞ」
「確かにうちの国は問題ないように見えるけど、辺境は微妙な状態らしい」
まさかと思う内容が続いてだんだんと考える事を放棄したくなった。
「だけど、それはいつまも続くかはわからない。 だから、一部の実力者たちをキエラントに送って来訪者たちを見極めて、問題ないようなら受け入れたいって話だ」
「へぇー、それでここ最近はギルドも騒がしいのか」
そういって周りを見渡してみると少し前までの様子が嘘のようにドタバタと職員が忙しなく働いているのが分かる。
何より今俺がやっている作業もギルドから急遽依頼が有ってやる事になった訳だし。
「それにここだけの話だけど、国としては勇者パーティーとして光剣のローランと聖女セーラたちを送りたかったみたいなんだが、何でも聖女セーラが拒否してるらしくてコッチに回ってきたって話らしいぞ」
「はぁ? なんでまた拒否してるんだ?」
俺は聞いた事が信じられなくてマジマジと見返してしまう。
「なんでも少し前に故郷の村の傍に行ったからって帰郷しようとしたらしいんだが、魔獣たちの襲撃で滅んでたらしいんだと、その故郷の村が。でだ、話によるとセーラ様たちにはもう一人幼馴染がいたらしくてボロボロになった村を賢明に探したらしいけど見つからなかったらしい」
「あぁ、それは仕方ないよな……」
魔獣に襲われたって事は全員死んでる可能性の方が高いし、運が悪いと喰われちまってるから遺品とかそういった物すら見つからないのはよくある事だ。
それにぐちゃぐちゃにされている村の中から特定の人を探そうってのが大変だろうしな。
「それがな、おかしな事に村の奥に墓が作られてたらしいんだよ。しかも、滅ぶ少し前に行った事の有る行商人がいうにはそんな物は無かったっていうのが」
「へぇー、よくそんな人がいた事分かったな?」
「まぁ、セーラ様たちの為に国が動いてるらしく、噂が流れてくるんだよ。それよか続きだけど、その行商人以外にも逃げ出した村人たちが何人かいたらしくて墓も誰のものかもわかったらしいんだが、何人か見つかってないんだとよ」
その言葉に俺は次に続く言葉となんとなく聖女様の気持ちが分かった。
「幼馴染は見つかってない方だったんだな?」
「おう、それにちょうど村が襲われた時は村の外に出てたみたいで襲われてないかもしれないんだとよ。だから余計にセーラ様がキエラントに行きたくないって言ってるようだ」
そう言って周りを気にしながらも顔を寄せてきた男にちょっと引きそうになるが、他にも言いたい事が有るようで仕方なしに耳を寄せた。
「ここだけの話、セーラ様には伝わってないっぽいけどその幼馴染は逃げ出す村人を助けていたって話も有るんだよ。ただ、それも生き延びた人が視界の淵で似たような服装の人がいたような気がするっていう曖昧な言葉だから伏せられてるらしい」
「おいおい、それ良いのかよ」
驚いて顔を見てしまうが、なんとも言えないような表情でこれは本当に知られてない噂だと言ってくる事からあまり知られていない事が分かる。
「まぁ、どっちにしろ勇者パーティ-はセーラ様次第だからキエラントに行く可能性は低そうだ。それよりも兄ちゃん、見た感じ戦闘職っぽいし、装備も良いのに何でココで調合してんだ?」
「あぁ、ギルドからの指名依頼でな。ちょうど戻ってきたばっかだったから休もうと思ってたけど、この様子だろ?」
「なるほど。まっ、兄ちゃんのランクは知らんけど、意外にキエラント行きの話が来たりするかもな」
ジロジロと俺の服装を見ていたが俺の答えに満足したのか頷きながら揶揄う男の姿に相手するのが面倒と思ってしまうがちょうどよく調合も終わる。
「だったら良いな。どうせ、報酬は高そうだしな」
そう言って席を立った俺に何か言いかけた男だったが、直ぐに口を閉じて自分の作業を始めるようだった。そして、そんな様子を背後に感じながらも俺は完成した薬を提出してギルドを後にする。
「しかし、あいつがまさか俺の事を探しているとはな……」
歩き出した俺の脳裏に思い出されるのは最後に会った時の幼いあいつの顔だった。周りを大人たちに囲まれてもう一人の幼馴染と一緒に扉の奥に消えていったあいつの顔は今でも昨日の事のように思い出せる。
「まぁ、一度ぐらいは会いに行っても良いのかもしれないな」
会えるかどうかも微妙だけどっと直ぐに思い浮かんだ考えに苦笑しながらも家の扉を開けながら中にいる筈の人物に声を掛けた。
「ただいまー、今日の晩飯は何になったー?」
「シーヴァル義兄さん、おかえりなさい!!」
声と共に抱き着いてきた恩師の娘さんに驚きながらも抱き返していた時に腰につけていた別れる事になった少し前にあいつから貰った硝子細工のアクセサリーが一瞬だけ光った事に俺は気が付かなかったのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キャラ紹介
・シーヴァル
ローランとセーラの幼馴染。ギルドランクSで黒騎士の二つ名を持っている。
13才になると街にある神殿で受ける事が出来る“祝援の儀”でその二人と運命を別つ事になった。元々住んでいた村でも他の二人と比べて劣っていた為に幼い頃は二人に対して引け目を感じていた。
村が襲われた際は森に出ていたが村の異変に気が付いて戻り、逃げていく村人たちを後目に魔獣に立ち向かって危機的状況に陥るが、偶然通りかかった恩師に助けられて生き延びる。その後、恩師と行動を共にして腕を磨き、ギルドでも有数の冒険者となった。
また、来訪者に関してキエラントに向かう事になり、結果的には幼馴染二人と再会のはかなり後になってしまう。
・セーラ
シーヴァルとローランの幼馴染でシーヴァルに恋心を抱いていた。
“祝援の儀”で珍しい聖魔法の祝福を貰った事でシーヴァルとは離れ離れになってしまう。その後、色々有った後に聖女と呼ばれ、同じく光剣と呼ばれるようになったローランや他数人と共に勇者と呼ばれるようになる。
偶然立ち寄った事で故郷の事を知り、微かな可能性でシーヴァルが生きているかもしれないという事でキエラントに行く事を拒否してしまい、結果的に再会するまでに時間が掛かってしまう。
・ローラン
シーヴァルとセーラの幼馴染でセーラに恋心を抱いていたし、セーラがシーヴァルを気にしていた事を知っていた。
セーラと共に“祝援の儀”で珍しい光剣使いの祝福を貰った事でシーヴァルから離れるがどうアプローチしてもセーラが自分の事を気にしてくれる筈もなく、度々落ち込んでいた。
色々有った後に光剣のローランと呼ばれるようになり、セーラたちと共に勇者と呼ばれるようになる。
偶然立ち寄った事で故郷の事を知り、シーヴァルの事は既に亡くなった物として扱いだして何とかセーラを振り向かせようとするが失敗。キエラントに行く事も拒否されて国と共にセーラを宥めるのに苦労する事になった。
・司祭さま
“祝援の儀”の時に唯一シーヴァルの事に気が付いて、他に誰もいなくなってしまったので一人でシーヴァルの“祝援の儀”を執り行った。
・???
世界を管理する為に造られた女神(システムAI)。
・恩師の娘
恩師が亡くなってしまった為に兄のように慕っていているシーヴァルと共に行動している。
用語紹介
・祝援の儀
13才になると街にある神殿で受ける事が出来る儀式。
出生時に神殿より配布されていたボードを神殿にて女神の祝福を受ける事で祝福の覚醒を促す。
・身分証
出生時に神殿から配布される物で来訪者でいう所のステータスボード。
・祝福
女神がその人に宿る素質や技能を認めた証拠として授ける物で来訪者でいうとスキル。
・来訪者
女神に導かれて現れだした人々。
通常では考えられないほど、成長速度が速く、祝福もどんどん取得していく。
過去に現れた時は余りの横暴な態度が目立っており、合わせて災いとも言える魔獣の襲来を受け、現れた国はその後すぐに滅ぶことになった(βテストの事)。
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