【完結】悪役令嬢と言われている私が殿下に婚約解消をお願いした結果、幸せになりました。

月空ゆうい

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 殿下に婚約解消を提案した数日後、私はいつも通り、執務室に篭っていました。

 いつもと違うことは一つ、新しい執事が来たことです。執事は、茶髪に茶目という普通の容姿ですが、初日とは思えない優秀っぷりを見せてくれました。今後も居てほしい逸材です。

 そして、今は執務の休憩中です。
 彼とお話ししつつ、ハンカチに刺繍を施していきます。
 彼は私の作品を褒めてくれます。人に見せることが出来ていなかったので、反応をもらえることはとても嬉しいです。

「どなたかにあげるものなのですか?」
 あと少しで完成という時、執事が聞いてきます。
「えぇ。渡せるといいのだけど」
 そう言って少し悲しくなりました。
 悲しい気持ちを思い出さないよう無心になり、ハンカチに金色の糸で綺麗な模様を描いていきます。

 どーーーーん!!

 勢いよく部屋の扉が開きました。
 とても可愛らしい、天使のような少女が立っています。
 義理の妹のララです。

「お姉様ぁ!やっぱりここにいたのね!まぁた仕事?」
 そう言って近づいてきます。
 私は慌ててハンカチを隠しました。 

「ララさん、入る時はノックしてといつも言ってるでしょ」
 何事もなかったかのように言います。

「別にいいでしょ。それよりぃ、仕事しないでなぁにしてたの?今隠したの出して?」
「何も隠してないわ」
「嘘よ、ほらぁ!!」
 ララさんは私が隠したハンカチを取り上げました。 

「わぁ、綺麗~。私にちょうだい!」
「ララさん、返してください」
 手を伸ばすが、ふわりとかわされてしまいました。
「いやよ!これはもう私のものぉ!!」

 執事がララさんの腕を捕まえました。
「お嬢様に返してください」
「はぁ?何言ってんのぉ。執事の分際で。」
 そう言ったララに押されて、さらに足をかけられて彼は尻餅ついてしまいました。

「ララさん!私の執事に手を出さないでと何度言ったら!」
 前の執事も、その前の侍女も、ララさんによって怪我したり、精神を病んだりして辞めていきました。

「だってぇ、こいつ私の腕を掴んだのよ。こんなんじゃ足りないわ!」
 そう言ってまだ立てない彼に蹴りを入れていきます。
「ララさん!!」
 声をあげてララさんを止めます。

「あぁ、こわいこわい~」
 一切怖がっていない様子で言います。
「せっかくお茶でもしようと思ったのに残念~。仕方ないからぁ、このハンカチで許してあげるっ」

 珍しく引こうとしているララさんの言葉を呑もうとしました。でも、
「それは、…ダメです」
「どうしてぇ?」

 怖いけれど、反抗します。
「前回もあげることができなかったからです・・・」
「あぁ、殿下に?」
「っ・・・えぇ」

 途端に恥ずかしくなってきます。
 けれど、婚約解消してしまう場合、このハンカチが殿下にプレゼントする最後になるのです。ララさんに渡したくありません。殿下にあげたいのです。

「じゃあ、私があげとくからぁ」
 前回もそう言って奪った後、「ララが頑張って作ったぁ」と殿下に渡していたのを知っています。

「いえ、自分から渡したいので・・・っいた!」
 ララさんに足を踏まれました。
「はぁ?どうせお前なんて相手にされるわけないじゃん?」
 さらに踏みつけられて、痛くて涙が出そうになります。

 執事が私に声をかけようとしましたが、首を振って話さないようにさせます。ララさんの蹴りが彼の方に向かうのは避けたかったのです。

「あぁ、ここ前も踏んだっけぇ?痛いよねぇ?私に逆らうなんて馬鹿なことしていいと思ってるのぉ?」
 痛くて、痛くて、涙が出てきて、逆らうことを諦めました。

「・・・ごめん、なさい。あげるので、もうっ」
 その言葉に満足したのか、足を離してくれました。
「最初っからそうしとけばよかったのに、お馬鹿さんねぇ。」

「私が殿下にあげて、私の好感度爆上がりよぉ!」
 ハハハと笑って去っていきます。

 やっと、渡せると思ったハンカチだったのに。結局ララさんに取られてしまい、最後まで渡すことができませんでした。

「あとぉ、その生意気な新人さん。すぐに辞めさせてあげるからっ」
 去り際に、ニヤリと微笑んで執事に向かって言いました。

 嵐のような彼女が去っていった扉を呆然と見つめている彼に声をかけます。
「大丈夫?」
 少し声が震えてしまいました。
 彼は私の言葉でハッとしたようです。

「はい。お嬢様のほうが痛そうでした。大丈夫ですか?」
 心配してくれるなんて優しい人です。巻き込んでしまった申し訳なさでいっぱいになります。

「いつものことですから。義妹がごめんなさい・・・」
「お嬢様が謝ることではありません。・・・あの方はいつもお嬢様の執事や侍女をいじめているのですか?」
「そうなの。私専属じゃなくなればきっと大丈夫だから・・・すぐ変更させるわ。」

 なるべく安心してもらえるように、笑顔で言いました。
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別視点は閑話としてお楽しみください。読み飛ばしてもらっても結構です。
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