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 平凡でいて、魔術のみに専念する。そんな野望を抱いて入学したものの・・・。

「君がフランだね」
 入学早々に私に話しかけてきたのはこの国の第一王子、ロイ様だ。
 ほとんど家から出たことない私でも知ってる。

「はい、お初にお目にかかります。ロイ様」
 ロイは少し苦笑いを浮かべた。
 どうしたのだろうか。

 しかし、すぐに優しい笑顔に戻った。
 ロイ様が私に話しかけたせいで注目の的だ。平凡とは程遠い・・・。

「魔術の実技、とても素晴らしかったと聞いた」
「ロイ様のお言葉、ありがたく思います」
「そんな堅苦しくなくていい」
「ですが・・・」
「まあいい、実は話があるんだ。入学式の後、私の部屋に来てもらえるかな」
 驚きつつも承諾の返事をした。
 でも、なんで。なにかしたのかな。どれだけ考えても思い当たる節などなかった。


 それは今もである。Honorの建物の一番奥、ロイ様専用の応接室だ。私の部屋以上に大きい。
 さらに奥の寝室から出てきたロイ様が言う。
「やあ、フラン。呼び出して申し訳ない」
 これぞ王子様って感じの整った顔に、サラサラと輝いて揺れる金色の髪。これは目に毒だ。

「いえ、ご用件とは?」
「いや、実は気になっていてな」
 ロイ様が真剣な顔で私を見つめる。見れば見るほど綺麗な顔。

「君からは常に魔力の匂いがする」
「匂い、ですか?」
「あぁ、私は魔力を匂いで感じ取る」

 そう言ってロイ様は近づいてくる。
「ち、近いです。」
「やはり、髪と、胸元か」

 私は驚いてなにも言えない。魔力は最小限にとどめて、かつ見た目は常に変わっているはずである。

「どうして、常に魔法を使っているんだ?」
 言ったほうがいいのかな。でもな。

「そうか、言わないのか」
 無言になる・・・でも、
「でも、ロイ様だって、右の横腹のところ魔術を使っていますよね」
「・・・どうしてそう思う?」

 一瞬、躊躇する。お父様に言ったら「そんなの見えたことない」と言われて、それ以降誰にも言っていなかったけど、ロイ様はさっき『匂い』といった。
 もしかしたら、同じかもしれない。そんな期待を込めて言う。
「僕、見えるんです。魔力が」

「そうか、『見える』のか。これを言い当てられたのは2回目だ」
 嬉しそうに笑って言った。
 なんで嬉しそうなんだ、という疑問はさておき、私以外にも言い当てた人がいるのかと少し感心する。
 もしかしたら見える人なのかもしれない。ぜひ会ってみたい。

 すると、急にロイ様が自身のシャツをめくる。
 え、やめてください。そう言う前に目に飛び込んでくる。
 黒い、しかもただの黒ではなく漆黒の影が。

「どうしたのですか。すごく、悪い魔力です」
「それもわかるんだな」
 こくり、と頷く。

「これは私がまだ幼い時に攫われて、その時につけられた呪いだ」
「呪い、ですか」
「あぁ。これは私が死ぬまで続く呪いだと言われた。本来、この呪いで数年と生きたものはいないというが、私は自分の魔力と聖女様の力でどうにか6年、生きてきた」
「6年もその呪いを!?」

「あぁ」そう言うロイ様は少し辛そうな顔を見せた。
「近くで、見てもよろしいですか」
「いいよ」

 ロイ様の体には魔法陣が書かれていた。これは高度な・・・。あれ、この模様って。
「キームーン地域の呪いですか?」
 ロイ様が驚いた顔をする。私は続ける。

「たしか、ここの文字はその地域特有のものです。それに、闇の神を信仰している者達の祈りの言葉。こっちには夜が長いとありますし・・・って、ロイ様?」
 ロイ様が呆然としている。話しすぎたかな。

 覗き込むとロイ様はいつもの爽やかな顔に戻った。
「いや、驚いただけだ。私が半年以上かかってつき止めた真実に一瞬でたどり着いたのだから」
 そんなにかかっていたのか。

「でも、それがわかっているならどうして呪いを解く方法が・・・」
「その真実にたどり着いた後、すぐにキームーンに向かった。しかし、そこはすべてがなくなっていた。内乱で、人々も言葉も本も呪いの方法も、呪いの消し方も全て」
「そんな・・・」

「だが、フラン。君はこの文字を知っていた。何か知っていることはないか」
 ロイ様が真剣な眼差しを向ける。
「あぁ、うちの本棚に・・・って」

 私は青ざめる。
 ロイ様は私の異変に気づいて問う。
「フラン、どうした?」
「キームーンが滅亡したのはいつ頃ですか?」
「たしか、私に呪いがかけられたすぐ後のことらしい。6年前の12月頃だ」
「そんな・・・」
「そんな?」

「実は、その頃、書斎で火災が起きました。火災と言っても本数冊が燃え、すぐに消し止めたのですが、燃えた本は跡形も残っていなくて・・・・実は、それらはキームーンについての本でした」
 まだ読みかけの本もあったから、とても悲しかったのを覚えている。

 ロイ様の大きな目がさらに見開く。
「そうなのか?!」
「はい」
 ロイ様を呪い殺すべく、呪いにかかわるものを全て消去するとは、とてもじゃないけどありえない。
 そう考えたら、もしかしたら内乱によって滅亡したというのも、何か裏があったのかもしれない。

 ロイ様はしばらく考えたあと、こう言った。
「フラン、ありがとう」
 と。そしてこう続けた。
「もし良ければだが・・・女性を巻き込むのは気がひけるが、私を助けてはくれないだろうか」

「お断りします!僕の平凡な学生生活のために!」と言おうとしたが、一つ、気になった。
「い、いま、女性って・・・?」
「あぁ、君はフランソワだろ?」
「!!?!」

「君にも、支部長にも世話になった。改めて礼を言う。だか、彼はその本のありかを覚えていないようだったな。図書館かな?とか言ってたからね」
 私、感謝されることした記憶ないんですけど。

 私が目をパチクリさせていると手が伸びて頬に触れる。
「ロ、ロイ様?」
「やはり、変わらずかわいらしいな」
「はい・・・?」

 私はさらに固まる。なにをいってるんだろう。この美形は。頭おかしくなったのか。

「フラン。いや、フランソワ。」
 ロイ様が私を見つめて言う。

「私を助けてくれないか?」
 じゃないと、女だって言いふらすよ。なんて言葉が聞こえてきそうなほどの圧に負けて、私は頷いてしまった。

 これが私の運命を変えてしまったと知るのはもう少し後の話だ。
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