義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍

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一見可哀そうで変わってるあの子

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俺はロイ。

隣国との商売で潤っているこの国の豪商、クローバー商会の次男、

シンとの最初の出会いは今から15年前。

隣国からの漫遊で無理を言って街歩きをしていたときに出会ったのがまだ3歳のシンだった。


シンはシンのお母様そっくりで可愛いんだけど、お父様似でどこか達観していてクールな性格をしていた。
それがものすごくミスマッチで、だけどだからこそ魅力的で。
俺は一目で虜になった。

聞けば母親は隣国の出身だという。


アクアリウム公爵家といえば、筆頭公爵家だ。
その令嬢が隣国の伯爵家に嫁いでいるとは意外だったが、クールで頼りになる伯爵の人柄と才覚に惚れたのだろうと納得した。

ヴェール領は山間だが、どちらかというと山林より岩山が多く、鉱山があるものの宝石というより鉄や銅などの鉱物が採れる山だった。
だが、資源はいつか尽きる。
伯爵は、今ある鉱物を再利用する研究を進めていたが、領民には理解が得られないようだと言っていた。

まあ、俺もあの頃はまだ3歳で、そう言ってたな~と聞き流してたのだが、数年経って、いかにシンの父親が先見の明のある立派な男だったかがよくわかった。

そりゃあ、自分の右腕として置いておくわけだ。


「ね。ロイ。またあそぼ。また、くるよね?」

首を傾げて、KA WA I I !!!

「ああ。かならず。へい……ちちにおねがいして、まいとしこのじきにあそびにくる!わた……おれのことを忘れるなよ!」


俺たちは親友になった。
毎年夏には、クローバー商会の世話になって、数か月滞在して遊んだ。



そして、5歳になったあの日。






「うあぁあああん。うわぁあああん。」

馬車の事故で………。彼の両親は還らぬ人になった。

幼い彼を一人残して。
悲しみに暮れるシンを、俺はただ、後ろから見守るしかなかった。


彼の周りには、彼の後見人になってくれそうな人は父方の祖父くらいだった。
しかし、最近体を壊して床から起き上がれないという。
父親には一人、平民になった弟がいたようだが、父親の介護のために葬儀には出席していなかった。

母親の方は隣国出身で、この国に後ろ盾は少なかったのだ。

葬儀に来ていたのは、結局、隣国から飛んできた母方の親族だけだった。


「シン。バティスタ王国へいらっしゃい。あなたの両親の葬儀なのに、ヴェール家は誰もこないなんて。こんなんじゃ、あなた一人残って、どんな扱いを受けるかわかったものじゃないわ。アクアリウム公爵家はいつでもあなたを待ってますからね。それから、私の両親………オレリアン公爵家もね。アナベルのことがショックで弱ってしまったけれど、本当は貴方に弟ができたら、アナベルが持っていた爵位を継がせる予定だったの。貴方に継がせたいって言ってたわ。だから……。」


「おばあさま。ありがとうございます。………でも。父と母が守って来たこの土地を、僕、今は守りたいの。」

健気な。


だが。


俺は、秘密裏に調べていたことを、その場に集まっている彼らに告げた。

【実家の所有する影】を使えば、全てを明るみにするくらいわけはない。



おそらく、悲しんだふりをして、あの強欲で放逐された男は、伯爵家にやってくる。
シンは幼く、そして自分しか「伯爵代行」ができる血筋の者はいないから。



それでも、あの家に学校を卒業するまで留まることを決めた君。

自分の身を守らせるためにわざと美貌を損なわせて、

彼の助けになればと、実家から家庭教師を呼び寄せ、早々に魔法を習得させ、家事に領地経営にとこき使われる君を支援した。


「今は誰もいないんだろ?あいつら大したことしていないくせに、遊ぶのだけは大好きだからな。」

庭の草むしりに混じって、手伝う。

「うん、でも。転移魔法とか覚えてよかった。できないことは向こうで保護したうちの元使用人たちをこっそり呼んで助けてもらえるもん。できないと、叩かれるから大変だったんだぁ。」

「隣国に、いけばいいのに。」

そしたら、俺も守ってやれるのに。


「うーん。なんか、だんだん腹が立ってきたんだよね。家事は魔法使えてちょちょいのちょいって出来るようになってきたし、もう少し魔法覚えたら、もっと楽になるし。やらされてること自体は苦にはならないから…。我慢できるから大人になるまで我慢してもいいかなぁって。だってさあ、僕が真実を知ってることも知らないわけでしょ?どかーんと、こう、思いっきりやっちゃうのもすっきりするかもなぁって。」

「ふーん。それならさぁ、その時に思いっきり悔しがらせるために、転移魔法使って、隣国で教育を受けないか?家事に裂く時間が減ったのなら、学校もこっそり通えそうだろ?シンならすぐスキップできるだろうから、向こうで身を立てようぜ!」





それから時間がたち、私たちは18歳になった。

もうすぐ卒業式だ。

本当に待ちに待った卒業式。

シンが立派であればあるほど、あいつらの反応が楽しみでならない。




衣装は私がとびっきりのものを準備しよう。

その時はそうだな、私もただのロイから、ロイ=フォン=バティスタへ。
正体を明かしてみようか。


反応が楽しみだ。
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