悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る

竜鳴躍

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異国の人

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イースト王国は愚かな権力者たちのお陰で、この世界の地図から消えた。

権力者同士で争って、共倒れ。

独特の文化で栄えた美しい王国で、金を加工する技術にも長け、我々とは異なる学術体系を持ち、魔法は使えないが、その代わりに医療や科学が進んだ先進的な国の一つだった。


私は王家の影を束ねる家の者だが、表向きは高級娼館を経営している王家の閨教育係の家系……。
裏の顔として、イースト王国の状況を確認しながら、内乱で行く当てもなくなった者たちの中から娼館にスカウトするために、その地を訪れていた。

何名か目ぼしい者を手下の者に送らせ、ファーマ王国との国境近くの街で酒を呑んでいると、怪しげな声が聞こえて来た。



「……本当に、ファーマ王国に受け入れてもらえるのですね!」

「ああ……。俺たちは顔が利くんだ…。」


…。現在、娼婦や奴隷として以外に、イースト王国からの難民を受け入れることはしていない。

何故なら、異国の人間を大量に受け入れるということは責任が伴う。

自国の民との軋轢も生みかねず、残念ながら今の国王陛下は決断力がない。思い切った対策をとる力がない。

他の国々が難民を受け入れ始めて、国際社会からの評価を気にして、やっと重い腰を上げるタイプだ。


―――きっとこいつらは、奴隷商人だ。


「しかし、タダで橋渡しはできない。俺たちだって危険を冒すんだ。」

「そう…ですよね。でも、ここまでくる間に持って来た財産は…………。」

「君はイースト王国では貴族だったんじゃないか?身綺麗で見目がいい。」


「はい……。」


「君が一緒に連れて行きたい者たちは、君の領民か?」


「…………はい。」


「それじゃあ、君が代価を払わなければな。一晩。俺たちの相手をしてくれたら、お前たちをファーマ王国に連れて行ってやる!」

「……俺のカラダでいいのなら……!」


はぁ……!


「交渉成立!マスター、上の部屋借りるぜ。」

「あいよ。」


「……っ!」

立ち上がろうとして、異国の青年の体がふらつく。

困惑しているようだが、飲み物に媚薬が入っていたに違いない。



「ちょっと待った!」


柄にもなく、正義感が湧いて出た。
騙されている元貴族の青年を放っておけない。



「あぁあん!?なんだ、お前。」

「なんだもかんだもない。お前たちは奴隷商人だろう。今、ファーマ王国は難民の受け入れをしていない。こちらからあちらへ連れていっているのは、娼婦と奴隷だけだ。」

「なっ!騙したのかっ!」

「はん!騙される方が悪いんだ!……ったく、世間知らずの美人のぼっちゃんで楽しんで、奴隷として売ってやろうと思ってたのによぉ!こいつの連れてんのは、ガキやら老人が多いんだ。これから仕込んでやって、こいつなら性奴隷として高く売れるって思ったのに!」

「はなせ、はなせっ!」



「マスター。弁償する。」

私は、奴隷商人たちの骨をへし折って、私の部下に引き渡してやった。

我が国は奴隷の売買は認めていない。

私が暴れたせいで、酒や皿がいくつか割れたし、机が破損したが、宣言どおり弁償してやった。


「おい、君。大丈夫か。」



「……っ、は、はぁ………んっ。」


カウンターの下にうずくまっていた青年は、熱い吐息を吐き、熱に浮かされていた。
粗悪な、キツイ媚薬のせいで。

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