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行方不明の聖女
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「法王様、たいへんですっ!」
「何事だ!?」
キリキリ痛む胃のあたりを掴み、法王は立ち上がった。
「マーガレットがいません!」
「なっ……」
「昨日でようやく治療が終わったから、今日から外に出ない仕事をさせようと思っていたのに、いなくなったんです。」
「…………どうしましょう、法王さま。」
「まずは、陛下と男爵家に報告をしよう。……あぁ、もう…もうっ。」
(マーガレットは本当に、アレン様を逆恨みしていた。もしかしたら…ニューイーストに向かったかもしれない。このあたりでは性病の発生源で有名になったから手助けをする者などいないだろうが、ちょっと街を越えれば助ける者もいるだろう。あれだけ若く美しく、男を手玉にとることに長けた娘だ。)
「念のため、ニューイーストと公爵家にも文を出しておくこととしようか…。」
「台所に林檎しかないなんてしけてたわね。まあいいわ、日持ちするし。」
髪と顔をローブで隠し、質素なエプロンドレスを身に着けて、マーガレットは荷馬車でニューイーストに向かっていた。
自分だけが不幸になるなんて許せない。
そんなに大層な人ならば、自分も幸せにしてほしい。
マーガレットは昔を思い出していた。
母親は貴族の令嬢だったけど、父親はその平民の使用人だった。
駆け落ちしたはいいものの、ご令嬢だった母には生活力がなく、お金を稼ぐことも家のことも何もできない。
最初は恋にうかれてよかった。
でも、だんだん、何もできない女の面倒をみることが父には苦痛になってしまったし、母も湯あみも十分にできない生活が耐えられなくなってきた。
だけど、私ができてしまった。
物心ついたときには、二人は破綻していた。
それでも実家に帰らなかったのは、母のプライドだろう。
相変わらず何もしない母に代わって、一人で家事も育児も仕事もしなければならない父は、体力の限界だった。
私は幼いころから、父の手伝いで家事をしていた。
「かわいそうに、マーガレット。あなたは私にそっくりで美しいのに。あなたは本当は貴族の子なのにね。」
「お前さえ生まれなければ……。あいつを男爵家に送り返すなり修道院に送るなりして、俺は自由に慣れたんだ。あああ、どうして俺は!!!!!!」
一時の恋愛で破綻した愛。
両親は一度だって頭を撫でてくれなかった。
愛してくれなかった。
必死で母親の話相手になっても、出てくるのは愚痴ばかり。
父親の手伝いをしても、当たり前だと言わんばかり。
外で食堂の手伝いをして、給金をもらっても、それは父親の酒や母親の化粧品代に消えた。
愛情が欲しかった。
早く誰かのお嫁さんになりたかった。
だけど、体を許した男たちは、その時は大事にしてくれるけど、お嫁さんにはしてくれなかった。
でも、大事にしてもらえた瞬間が嬉しくて、また相手を探して。
それが噂になって、はしたない娘だと囁かれた。
父親は過労で亡くなり、そうなると世話をしてもらえなくなった母親も亡くなった。
遺品を整理していると、母親の持ち物から叔父の連絡先が出てきたので、連絡をとってもらい、叔父の家に迎えてもらった。
いい人たちだったが、奥さんの憐れみの視線が嫌だった。
「何事だ!?」
キリキリ痛む胃のあたりを掴み、法王は立ち上がった。
「マーガレットがいません!」
「なっ……」
「昨日でようやく治療が終わったから、今日から外に出ない仕事をさせようと思っていたのに、いなくなったんです。」
「…………どうしましょう、法王さま。」
「まずは、陛下と男爵家に報告をしよう。……あぁ、もう…もうっ。」
(マーガレットは本当に、アレン様を逆恨みしていた。もしかしたら…ニューイーストに向かったかもしれない。このあたりでは性病の発生源で有名になったから手助けをする者などいないだろうが、ちょっと街を越えれば助ける者もいるだろう。あれだけ若く美しく、男を手玉にとることに長けた娘だ。)
「念のため、ニューイーストと公爵家にも文を出しておくこととしようか…。」
「台所に林檎しかないなんてしけてたわね。まあいいわ、日持ちするし。」
髪と顔をローブで隠し、質素なエプロンドレスを身に着けて、マーガレットは荷馬車でニューイーストに向かっていた。
自分だけが不幸になるなんて許せない。
そんなに大層な人ならば、自分も幸せにしてほしい。
マーガレットは昔を思い出していた。
母親は貴族の令嬢だったけど、父親はその平民の使用人だった。
駆け落ちしたはいいものの、ご令嬢だった母には生活力がなく、お金を稼ぐことも家のことも何もできない。
最初は恋にうかれてよかった。
でも、だんだん、何もできない女の面倒をみることが父には苦痛になってしまったし、母も湯あみも十分にできない生活が耐えられなくなってきた。
だけど、私ができてしまった。
物心ついたときには、二人は破綻していた。
それでも実家に帰らなかったのは、母のプライドだろう。
相変わらず何もしない母に代わって、一人で家事も育児も仕事もしなければならない父は、体力の限界だった。
私は幼いころから、父の手伝いで家事をしていた。
「かわいそうに、マーガレット。あなたは私にそっくりで美しいのに。あなたは本当は貴族の子なのにね。」
「お前さえ生まれなければ……。あいつを男爵家に送り返すなり修道院に送るなりして、俺は自由に慣れたんだ。あああ、どうして俺は!!!!!!」
一時の恋愛で破綻した愛。
両親は一度だって頭を撫でてくれなかった。
愛してくれなかった。
必死で母親の話相手になっても、出てくるのは愚痴ばかり。
父親の手伝いをしても、当たり前だと言わんばかり。
外で食堂の手伝いをして、給金をもらっても、それは父親の酒や母親の化粧品代に消えた。
愛情が欲しかった。
早く誰かのお嫁さんになりたかった。
だけど、体を許した男たちは、その時は大事にしてくれるけど、お嫁さんにはしてくれなかった。
でも、大事にしてもらえた瞬間が嬉しくて、また相手を探して。
それが噂になって、はしたない娘だと囁かれた。
父親は過労で亡くなり、そうなると世話をしてもらえなくなった母親も亡くなった。
遺品を整理していると、母親の持ち物から叔父の連絡先が出てきたので、連絡をとってもらい、叔父の家に迎えてもらった。
いい人たちだったが、奥さんの憐れみの視線が嫌だった。
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