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悪役令息はスラムに追放されました

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「とんでもないパーティーでしたね。」

公爵家の豪奢な馬車の中で、向かいに腰掛けた黒髪黒目の騎士の落ち着いた声が静寂を打つ。


カエサル=プレート。

ファーメット公爵家の傍流にあたるプレート伯爵家の次男で、僕の子どもの頃からの親友で大切な側近だ。
幼いころから太陽の下に安心して出られない僕を守ってくれた。

「まあ、せいせいしている。」


「アレン様は婚約してからずっと殿下に塩対応でしたものね。」



王族同士、子どもの頃から僕は王家に呼ばれていた。
それは年の近い親戚同士、将来は腹心になるかもしれないということもあっただろうし、あの馬鹿殿下を出産後、難産で子が望めなくなった陛下たちにとっては、王弟である僕のお父様………ファーメット公爵を除けば次に継承権を持つ僕に王族の教育を施す必要があったからでもあった。


年の比較的近い高位貴族の子どもたちを交えた交流の中で、何をとち狂ったかあのアホ殿下は従兄弟でもある僕に、ある日突然こうのたまった。


『決めた!おれさまはアレンを妃にする!』


「アレは酷かった……。自分でもえらいと思う。よく発狂せずに8年間耐えたと思う。」


『アルバートっ!?アレンは次期公爵で、もう後継者教育も終わっ…』

『やだやだやだやだやだやだやだやだアレンじゃなきゃやだぁ!だってアレンがいちばんおしとやかでかわいいんだもんっアレンじゃなきゃやだやだやだやだやだやだやだやだやだ』

『あああっもうっみっともない、10歳にもなって寝っ転がって手足をバタバタするんじゃありません!!!!』

『やだやだやだやだやだやだ…『あぁああああああああああ!!!!もうっ!!!!馬鹿っ、このお馬鹿っ!』


「僕も悪かったのかな…。あの時は普通に親戚づきあいだと思ってたから、距離感も近かったし…。おしとやかっていうのはどうかと思うけど。屋内で大人しくしたり、外で出てもなるべく動かずに傘の下にいたのはアルビノだからだし。」


今までを振り返るに、ふっと遠い目になってしまう。

あまりにアルバートが酷いものだから、逆に陛下たちはアルバートに王の品格はないかもしれないと思った。だけど、王位継承権をはく奪…とまでは当時決心しきれず、僕が妃なら何とかなるかも?と思い始め(たぶん思考が疲れてきた)お父様を説得して婚約をするはめに…。

婚約が解消されないかなぁ、と一縷の望みをかけて、以降、塩対応を徹底してきたわけなのだが、むしろよく今まで婚約が続いたものだ。

解消するならいつでも望むところだったものを。


「アレン様、これからいかがなされますか。とりあえず馬車は今、この国のスラム…。北の国境にある王領区に向かっていますが。本当によろしいのですか?」

「ああ、僕は本当にスラムに行くつもりだよ。そりゃあ行く振りをして領地に隠れていたって、お父様がなんとかしてくださるだろうけど、弟のローレンも立派に後継者教育を終えているわけだし、今更後継に戻るべきじゃない。僕が領地に戻ったら、弟が困るだろう?」


「そうしますと?」


「全く非がない・王位継承権のある公爵令息である僕を・領主もいないほったらかしの王領区に行かせる……ということは、『僕にこの地が拝命されたものだ』と僕は解釈する。」


「なるほど。」

カエサルの薄い唇がニッと弧を描いた。


「魔法通信でお父様に手紙を出しておいて。お父様経由で陛下の決裁とれば、今からでも今日付けで認可することも可能でしょ。正式にスラムを僕個人に与えられた領地に。大体向こうに非があるわけだし、持て余している無能な王家に代わって、スラムを改革してみせようじゃないの。」

権限のない婚約者では思うところがあっても何も手を打てなかったけど、拝命さえあれば色々やれる。



「それでこそアレン様です。このカエサル、最後までお供しましょう。」


「フッ。スラム?国一番の豊かな土地に変えてみせるさ。この僕がいるところが、国の中心だ。」






雑草の駆除も行き届いていない、荒れ果てた地。

廃墟のような建物に、目の落ちくぼんだ浮浪者が住む。

照明も、なにもない。

明日を生きるのにも困る者たち。


そんな場所に、煌びやかな馬車が停まる。


なんだなんだ、お貴族様か。

どうしてこんなところに。

様子を見に来た者、物盗りに現れた者。


彼らの気配を察しながらも、カエサルのエスコートで優雅にアレンは降り立った。


「僕の名前はアレン=ファーメット。僕が来たからには希望ある明日を約束しよう。」


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