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王妃の怒りと院長の正体

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あれから………どのくらい時間がたったのか。

全然分からない。


(ゔ…。喉がいたい…。)



最初のうちは声も出したくなくて抗っていた。

殺してやると思いながら、シーツを掴んで痛みを逃がしていたら指が白んで。


そのうち、たぶん、どうしようもないことなんだろう。

慣れていくと痛みの代わりに快感があがってきて。

気が付けばみっともなく声をあげるのを止められなくて。

心は置いてけぼりのまま、体は慣れた。


それがすごく情けなくて、なんとも言えない気持ちになり、こぼれた涙はあいつが舐めた。

あいつ。


不敬でもなんでもいい、あいつの言うことが正しいなら俺も王子なんだろうし。あいつなんてあいつで十分だ。



下半身がだるくて、ナカが熱を持って入口が腫れているような違和感がある。

腰骨も痛いし、開きっぱなしだった足の関節も痛いし、最悪だ。


それ以外の体の不快はないから、きっと俺がオチている間にでもあいつが自ら洗ったんだろう。

熱を持つ下腹部に手をやると、食事を抜いているはずなのに微妙に膨れている。


態勢の楽さを優先して、仰向けに膝を立てると、ごくごくわずかに中から伝うものを感じた。



ああ。この体に、たくさん注がれたのだ。



亡き前王の血筋を嫌って、俺を排除したがる奴がまだ残っているのか。
それともよっぽど俺を逃したくないのか。

あいつは俺を孕ませたがっている。

孤児院を盾にされている俺が、どこに逃げるっていうんだ。

大体俺を誰だと思っている。『マスカレード』だと知っているくせに。

人質さえいなければ、とっくに逃げている。
それだけの力が俺にはある。



一生、結婚せずに院長の手伝いに納まるつもりだったから、捧げる相手も予定もなかったし、処女性はどうでもいいんだけど、好きにされたのは許せない。



こんな状況なら、早くに俺は懐妊するだろう。
俺はよい母親になれるのだろうか。
院長のような、母親になりたい。
あいつを愛せなくても、子どもは愛せるかもしれない。



「ふぅ……。院長も、あいつらも元気かな…。ちゃんとあいつ、孤児院の面倒見てくれたのかな。経営するための予算がもらえていたら、俺も耐えた甲斐があるんだけどな。」


隣にいたはずのシーツの皺は残したまま、触るとひんやりして、気を失っている間に部屋を出て久しいことが分かる。

王太子なので、仕事もあるんだろう。



トントン。


ノックの音。



「王妃オニキスです。アイビッシュ。私は貴方の父の弟になります。私の息子……クリストファが昨日、貴方を連れ帰ってこの部屋に押し込めたと聞きました。開けて、いいでしょうか?」


どことなく、王妃の言葉には怒りが混じっている。


「どうぞ。」俺の叔父か。





後ろに誰かを従えて入って来た王妃は、背筋をピンとして貴公子然とした美形。
クリストファは金髪だけどそれを黒髪黒目にして少し線を細くしたような、凛とした人に見える。

「……っ!あの、馬鹿息子が………っっ!!!ごめんね、私の息子がサルで!!あの子が君をずっと好いて、探し続けていたのは知っていたけど、まさかこんなに拗らせていたなんて!!!!」


散々犯され尽くされた可哀そうな俺の状態を見た王妃が、ベッド際の絨毯に膝をついて俺の手を握る。

あれ?


もしかして、この人俺の味方じゃね?


「俺がいた孤児院を盾にされて…。」


「あんの、馬鹿莫迦バカ息子がああアアアアアアアアア!!!!!!」


「アイビー!!!」

怒りの形相になる王妃の後ろにいたのは、俺の大好きな院長!
院長どうしてここに?

なんで王妃様と一緒に行動してるの?

疑問符が飛び回る中、ぎゅっと抱きしめられる。


「王太子殿下が大切にする、幸せにするというから信じていたのに!こんなことなら渡さなければよかった…!」


「アイビッシュ。こちらの院長……。いや、あなたの母君だったエメラルダ=フォン=プリティッシュ元王子の祖国、プリティッシュ王国から王子の輿入れについてきた側近のシルヴァ=ブリリアント公爵令息はね。革命後、攫われた貴方を守ってくださっていたんだよ。」

え??院長って貴族だったの??しかも、俺の母親の側近??

「プリティッシュ王国にこの人ありと言われた美貌の人で、社交界の花だった人が、孕み腹なのに誰とも結婚せず、市井に潜んで46歳になるまで…。何たる献身。本当にありがとうございます。」

王妃は院長に向かって頭を下げた。



「私の忠誠はエメラルダ様に捧げていますから、当たり前です。そんなことより、こんなことをする王子にはアイビーを任せられません。私が連れて帰ります!」

院長は、そんな王妃に目もくれずに、ぎゅっと俺を抱きしめる力を強めて言い切った。

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