36 / 45
あれから10年
しおりを挟む「………どうですか。思い出しましたか?宰相閣下」
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
肩を激しく上下させながら、息も絶え絶えな宰相閣下の姿に同情する気は一切起きない。体を拘束され口を塞がれては魔法も使えない。未だに困惑して目を彷徨わせている宰相閣下に溜息が出る。彼は前回の事が蘇っても自分の何が悪かったのか全く理解していなかった。それどころか、後悔すらしていないときた。
「あの大公家に今回もしてやられましたね。いや、今回の貴方は喜々として大公家に尻尾を振って協力してましたね。その結果がコレだ。貴方の大事な国は内乱で滅亡寸前だ。ああ、国じゃない。王家と現政権が、でした」
あからさまな皮肉が効いたのか、宰相の目は怒りで血走っていた。そんな目で睨まれても怖くもなんともないし、むしろ滑稽だった。
その怒りは自分が馬鹿にされたというものだ。どこまでも自分が可愛いのだ。それに無自覚なのが余計に質が悪い。
前回で、ブリジット様を失った原因の一つがこの男の存在に有る。
真実を知った時は『被害者の父親』に早変わりだ。面の皮が厚いにも程がある。
当時、宰相という立場と共にまだ公爵でもあった。ブリジット様の実父であり公爵家当主でありながら娘を糾弾する側に立つとはどういう了見だろうか。
この男は被害者側ではなく加害者側だ。
ミゲル様は情に厚い。
悪く言うと情に脆い処があった。義父として涙ながらに謝罪すれば許されると本気で思っていたようだが、謝罪する時期はとっくに過ぎていた。しかもその事に気付かなかった。寧ろ、終わった頃に言われたせいで逆にミゲル様の怒りを買ってしまった。
そもそも、娘が冤罪を掛けられてそれを鵜呑みにした男だ。
ブリジット様を信じず、追い込んだ人間の一人だろうに。
理解に苦しむ。
結果的にそれらの行動が仇となったわけだ。
宰相の地位も公爵の地位も何もかも取り上げられた。
ブリジット様の件が起こる前から何かと「父親」として思うところはあったようだ。
それでもブリジット様の実父。
他の者達と同類にはできなかった。
ミゲル様は義父を屋敷の地下牢に幽閉した。
普通の幽閉では飽き足らなかったのだろう。
日の光が当たらない場所で生涯を閉じる事を望んだ。
親子として和解など以ての外だという考えは心の中をのぞくまでもなかった。
今回は、ブリジット様を王家にとられる事なく無事だ。
内乱が終結すれば、ミゲル様とブリジット様の双方がこの国の頂点に立たれる。
都合の悪いことは直ぐに忘れる男は、「父親」という名目を恥ずかしげもなく晒すだろう。若い二人を支えるとか何とかいって。
自分が裏切って踏みにじってきたという事すら忘れて――
「実の娘を裏切っておいて、義理の息子が許すと本気で思っているところは今も昔も変わらない。未来のある二人のために貴方は邪魔なんです」
この男は今度こそ報いを受けるべきだ。
23
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
ペイン・リリーフ
こすもす
BL
事故の影響で記憶障害になってしまった琴(こと)は、内科医の相澤に紹介された、精神科医の篠口(しのぐち)と生活を共にすることになる。
優しく甘やかしてくれる篠口に惹かれていく琴だが、彼とは、記憶を失う前にも会っていたのではないかと疑いを抱く。
記憶が戻らなくても、このまま篠口と一緒にいられたらいいと願う琴だが……。
★7:30と18:30に更新予定です(*´艸`*)
★素敵な表紙は らテて様✧︎*。
☆過去に書いた自作のキャラクターと、苗字や名前が被っていたことに気付きました……全く別の作品ですのでご了承ください!
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる