虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。

ドロップ伯爵家の朝

毎朝狭くて暗い離れで、食べ物がなくて、精霊の導きで捨てられたネギやニラの根っこをこっそり拝借して、それを自分で植えて育てて食べて。

肉は運よく離れの近くまで鳥が飛んできたときに魔法で落として食べた。

壁に生えたキノコを食べて酷い目にあったけど、普通の人間だったら死んでいたかも。

なんだかんだと幼い身で生き延びたのは、とても運がいいことで、自分に流れる『特別な血』もあるだろうけれど、いつも周りにふよふよと浮いて見守ってくれている精霊たちが助けてくれたからだと思う。


侯爵家は服も食べ物も何も用意してくれなかったから、本当に酷い生活だった。


着るものは離れにある適当なシーツや古着を自分で繕って着た。


街にいたときの方が、よっぽどいい暮らし。


大きくなってからはコッソリ冒険者のバイトして外で食べることができたけれど、それまでは本当に大変だった。



使用人にまで陰口を叩かれて。

何も知らないくせに。

本邸にいるリュージュはリュージュお母様じゃないのに。

みんな騙されてて。

侯爵令息だけど、手は荒れてて。




……………。


ふとん、ふっかふかぁ。





柔らかい朝日に目を覚ますと、夕べの嵐が嘘のように穏やかだった。


明るくなった部屋の中は、落ち着いたオフホワイトを基調とした部屋で。

夕べも素敵な調度品のセンスある部屋だなって思ってたけど、手入れも行き届いていて本当に素敵。


「奥様、朝の御仕度をさせていただきます。」


30代半ばくらいの侍女頭のスージーさん。
綺麗な所作で、どこかの高位貴族の令嬢じゃないかってくらい素敵。
誰かのお嫁さんなのかなぁ。

そうだよなあ。

茶色の髪を編み込んでアップして、たれ目気味の瞳は緑色で。
年齢より若々しく見えるし、とっても可愛いモン。

この人が売れ残ってるって言うなら世の中がおかしいよ。



「ねえ、スージー。これからたくさん教えてね。まずは屋敷の中のことと、みんなのことを知りたいなぁ。」

「いいですよ、この屋敷の人間は騎士も含めて、全て元々旦那様の冒険者仲間とその家族なんですよ。家令のスティーブは私の父です。私の弟も執事をしています。ご案内しながら紹介しますね。まずはおめかしをして朝食に向かいましょう。旦那様もお待ちです。」


うふふ、スージー。やさしい。いい匂い。

「お母様みたい…。」


「ありがとうございます。私にも、奥様くらいの子がいてもおかしくなかったんですけどね…。」

「スージー⁉ごめんなさいっ。」


「いいんですよ。婚約者はいたんですけど、ダメになっちゃったんです。彼は他の殿方と結婚しろって言ってくれてたんですけど、私がそんな気になれなくって。案外、お一人様もいいものですよ。」


「スージー、僕、スージーの子どもになるっ。ダメ？」

「あらまあ、こんなかわいい子が出来て嬉しいですわ。」

スージーに髪をといてもらって、ご機嫌の僕が朝ごはんに向かうと、旦那様がピシッと隊服を着て座ってらっしゃる。



「おはようございます。遅れて申し訳ありません。」


「いいんだ、疲れただろう。俺はこれから城へ行くから、ゆっくりおあがり。」


もしかして、僕が来るのを待ってくれたの？
精霊たちがそうだって！


旦那様、やさしい！
明日は早起きしよう！