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清々しい白い結婚宣言(sideエドワルド)

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「おかえりなさいませ、旦那様。奥様。」

教会からそのままドロップ伯爵家につくと、老執事を始め、侍女や侍従が恭しく出迎えてくれた。

使用人には僕たちの親世代のような人たちが多く、若者もいるが、どうやら彼らは老執事……家令や侍女侍従、料理長などの娘や息子になるらしい。


「この結婚は白い結婚になる。男同士なのだからそれがいいだろう。だが、だからといって他に妻をめとることもないし、大事に扱うと誓う。夫というより、父………いや、父にしては年が近すぎるな。兄や友人などと思ってくれ。お前には、俺がいない間の屋敷の管理をお願いしたい。侍女頭のスージーや家令のスティーブから習うといい。まあ、結婚というよりは管理職として就職したと思ってくれた方がいいか。」

なんと。

お尻の穴の危険を覚悟して嫁いだのだが、そういう行為はやらなくていいらしい。
ありがたい。


男が恋愛対象という質ではない。
旦那様は美形だし嫌悪感は感じないから、目を閉じていれば大丈夫…とは思うが、やらなくていいなら越したことはない。
よく知らない男に抱かれるというのは、ものすごく苦痛だ。

「ありがとうございます。実家では後継者ではありませんでしたので、そういう教育は受けてはおりませんが、勉強は好きです。初めはうまくできないかもしれませんが、なるべく早くお役に立てるよう頑張ります。」

「ところで、ティアの荷物は後から届くのか?」


旦那様は僕から預かった古いトランク一つを片手に真っすぐと見つめた。

「いえ。僕の荷物はこれで全てです。」


「そうか…。」


僕の部屋は日当たりのいい部屋らしい。
外が雷雨で、もう遅いから屋敷の周りも内装もよく見ることができないが、調度品のセンスがいい。
旦那様は平民出身なのに、意外。

この日は湯あみをして、二人で夕餉を食べ、それで終わった。









「スティーブ。」

「はい、旦那様。」

「ティアのものを揃えてやってくれ。遠慮するようならば、俺の命令だと。」

「承知いたしました。」

信頼する家令は、俺が幼い頃からの付き合いだ。
俺にとって、親のようなもの。

きっと彼ならいいようにしてくれるだろう。


隣の部屋にいる彼。

ティア=シャワーズ侯爵令息。


迎え入れるにあたり、調べた。


ふぅっと息を吐き、窓の向こうの夜空の月星にまさに『淑男』というべき彼の花嫁姿を思い浮かべる。
男なのに線が細く、小柄で、男としてあるべき骨格も感じさせず、美しい女性と言われても信じてしまう程の儚い美貌。
黒い髪に銀の虹彩が浮かんだ濃い青の瞳に白い肌。
彼自身には何の問題もない。
自分に子を作らせたくない陛下の思惑は分かっていたが、それに歯向かう時期でもなく、受け入れた。
だが、彼のためにも、それは正解だった。




母親は酒場の踊り子『ローズ』。
赤い髪にそばかすの浮いた肌、だがとてもグラマラスな体型で華やかな顔立ちの美女。
何故かとても魅力的で、愛妾や第二夫人の習慣のないこの国にあっても、細君がいながら彼女に傾倒する男は多かったという。
侯爵もその中の一人で、事もあろうに肉体関係になり、彼が産まれる。

侯爵は一夜の遊びのつもりだったが、子どもができた彼女は侯爵家に向かう。

丁度、夫人も時を同じくして妊娠しており、侯爵は手切れ金を渡して彼女を追い出した…。

当り前だ。

彼の夫人は隣国ドラゴニアの竜の血を引く王族の娘。
儚くなった先の王の一人娘であり、現在の王からすれば兄の娘にあたる。
政略結婚で例えそこに愛情がなかったとしても、大事にしなければならない相手。

侯爵に相手をされなかった彼女は、酒場を辞め、踊り子を辞め、打って変わったように真面目になり、縫物や読み書き計算を教えながら、市井で彼と2人、慎ましやかに過ごしていたようだ。

しかし無理がたたり、ティアが5つの年に他界…。

そこから侯爵家に引き取られるが、彼は侯爵家の家族からも使用人からも疎まれて、古い離れに閉じ込められるようにして育つ。

市井では利発な子として有名で、母親からかなり高度な学問まで習っていたというのに、体が弱いとか適当な理由をつけて学校にも通わせてもらえず、侍女も侍従もつけてもらえず離れで一人暮らしを…。

虐げられた理由は、彼の容姿にあった。

亡くなったローズは魔女だったという。
侯爵らの言い分は、亡くなったローズが胎の子同士の顔を入れ替えたのだという。

ティアの容姿はドラゴニア王国元王女であるリュージュ夫人に瓜二つ。

夫人の産んだ子息は、赤毛で、どちらかといえば冴えない容姿をしている。


だが、それが何だというんだ。
ティアは悪くないだろう。

それに……彼のこの身の回りの話は、どこか、






真実なのか誰かに嵌められたものなのか。
調べて得られた情報はどこまで信じてよいのか分からない。
例え真実だとしても、子どもに落ち度はない。
衣食住を十分に与えていればいいというものではない。


ともあれ……


「あいつの喉元までもう少し…。それまで、だ。」




時がきたら。

俺は彼と離婚する。

そして、彼を自由にする。

その時、俺の副官にでもなってもらえたら…。



正直、一目で目を奪われた。
彼の生い立ちも全て分かっていて、ぎゅっと心臓が掴まれるように。
彼を守りたい。貴族のご婦人のように溺愛して囲い込みたい。
これが恋なのか愛なのか分からない。
そもそも今日、初めて会ったのだ。
手を伸ばせば、彼の身も心も自分のものになる。
彼を思えば、下半身も熱を帯びる。

だが、手を出すわけにはいかない。

彼の意にそわない行為をするわけにはいかない。

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