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要らない子の結婚式
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万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在するこの世界で、精霊を束ねる女神は皆にあがめられている。
各国はそれぞれ自国を象徴する女神の遣いたる神獣を国名に戴き、神獣と人間の末裔といわれる王家が絶対君主となっていた。
王家はそれぞれ神獣の能力を次代へ継承し、治めていく。
剣の『竜』ドラゴニア
魔の『鳥』ファイアバード
聖の『狐』フォックス……
表向きは温和な王に守られたフォックス王国。
だが、悪しき魔女に魅入られて、綻びが出ていることを、まだ誰も気づいていない………。
チャペルの鐘が鳴る。
生憎の天気もあって、参列者はいない。
雷鳴轟く暗雲の中、結婚式が執り行なわれる。
ずっと秘密だったけれど、精霊の愛し子である僕が、実家で虐げられた挙げ句モノのように嫁がせられることになったから、女神様はお怒りなのかもしれない。
呪われたような結婚式で、淡々と儀式は進められていく。
大柄で逞しい新郎は、ありふれた焦げ茶色の髪とブラウンの瞳ではあるが、その髪は襟足で綺麗に整えられ、清潔感があり、すっきりとした筋の通った鼻筋と凛々しい眉毛、薄い唇に黄金比率の顔立ちで、誰がどう見ても美丈夫である。
その衣装は、たくさんの勲章がついた騎士の正装。
新郎はこの国の騎士団長であり、将軍の地位を賜わった将軍閣下。
平民の出ながら冒険者として名を馳せ、ついに爵位を経てこの地位まで登り詰めた男。
その名前は―――――――
「新郎、エドワルド=ドロップ伯爵閣下。あなたは、ティア=シャワーズを妻とし、神の御名において生涯愛することを誓いますか。」
「はい。誓います。」
低音の落ち着いた声が響く。
その隣にいる僕。
ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪に飾り気のないヴェールを被り、無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を隠す。
それほど豪華ではないが、ある程度の品位が保たれたシンプルなドレス。
男なのにドレス……。
女神様はお怒りのようだけど、僕は、親の決めた……追い出されるような結婚とはいえ、不満はない。
むしろ家から出られただけマシだ。
「ティア=シャワーズ侯爵令息。あなたは、閣下を夫とし、神の御名において生涯ともにすることを誓いますか。」
「誓います。」
男同士なのに結婚だなんて。
平民が爵位を得て、騎士団長、果ては将軍という要職に就いたことが許せない貴族の嫌がらせで、僕という『要らない子(男子)』を妻に押し付ける。
この国は第二夫人や愛妾は許されないから、彼の血が尊い貴族の青い血に混ざることもなければ、後世に続くことはない。
陰謀のような結婚。
僕は問題ないけれど、旦那様にとってはどうなんだろうか。
そんなことを思いながら、僕は、ティア=ドロップになった。
各国はそれぞれ自国を象徴する女神の遣いたる神獣を国名に戴き、神獣と人間の末裔といわれる王家が絶対君主となっていた。
王家はそれぞれ神獣の能力を次代へ継承し、治めていく。
剣の『竜』ドラゴニア
魔の『鳥』ファイアバード
聖の『狐』フォックス……
表向きは温和な王に守られたフォックス王国。
だが、悪しき魔女に魅入られて、綻びが出ていることを、まだ誰も気づいていない………。
チャペルの鐘が鳴る。
生憎の天気もあって、参列者はいない。
雷鳴轟く暗雲の中、結婚式が執り行なわれる。
ずっと秘密だったけれど、精霊の愛し子である僕が、実家で虐げられた挙げ句モノのように嫁がせられることになったから、女神様はお怒りなのかもしれない。
呪われたような結婚式で、淡々と儀式は進められていく。
大柄で逞しい新郎は、ありふれた焦げ茶色の髪とブラウンの瞳ではあるが、その髪は襟足で綺麗に整えられ、清潔感があり、すっきりとした筋の通った鼻筋と凛々しい眉毛、薄い唇に黄金比率の顔立ちで、誰がどう見ても美丈夫である。
その衣装は、たくさんの勲章がついた騎士の正装。
新郎はこの国の騎士団長であり、将軍の地位を賜わった将軍閣下。
平民の出ながら冒険者として名を馳せ、ついに爵位を経てこの地位まで登り詰めた男。
その名前は―――――――
「新郎、エドワルド=ドロップ伯爵閣下。あなたは、ティア=シャワーズを妻とし、神の御名において生涯愛することを誓いますか。」
「はい。誓います。」
低音の落ち着いた声が響く。
その隣にいる僕。
ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪に飾り気のないヴェールを被り、無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を隠す。
それほど豪華ではないが、ある程度の品位が保たれたシンプルなドレス。
男なのにドレス……。
女神様はお怒りのようだけど、僕は、親の決めた……追い出されるような結婚とはいえ、不満はない。
むしろ家から出られただけマシだ。
「ティア=シャワーズ侯爵令息。あなたは、閣下を夫とし、神の御名において生涯ともにすることを誓いますか。」
「誓います。」
男同士なのに結婚だなんて。
平民が爵位を得て、騎士団長、果ては将軍という要職に就いたことが許せない貴族の嫌がらせで、僕という『要らない子(男子)』を妻に押し付ける。
この国は第二夫人や愛妾は許されないから、彼の血が尊い貴族の青い血に混ざることもなければ、後世に続くことはない。
陰謀のような結婚。
僕は問題ないけれど、旦那様にとってはどうなんだろうか。
そんなことを思いながら、僕は、ティア=ドロップになった。
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