上 下
1 / 44

要らない子の結婚式

しおりを挟む
万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在するこの世界で、精霊を束ねる女神は皆にあがめられている。

各国はそれぞれ自国を象徴する女神の遣いたる神獣を国名に戴き、神獣と人間の末裔といわれる王家が絶対君主となっていた。

王家はそれぞれ神獣の能力を次代へ継承し、治めていく。

剣の『竜』ドラゴニア
魔の『鳥』ファイアバード
聖の『狐』フォックス……




は温和な王に守られたフォックス王国。



だが、悪しき魔女に魅入られて、綻びが出ていることを、まだ誰も気づいていない………。










チャペルの鐘が鳴る。

生憎の天気もあって、参列者はいない。

雷鳴轟く暗雲の中、結婚式が執り行なわれる。

ずっと秘密だったけれど、精霊の愛し子である僕が、実家で虐げられた挙げ句モノのように嫁がせられることになったから、女神様はお怒りなのかもしれない。

呪われたような結婚式で、淡々と儀式は進められていく。

大柄で逞しい新郎は、ありふれた焦げ茶色の髪とブラウンの瞳ではあるが、その髪は襟足で綺麗に整えられ、清潔感があり、すっきりとした筋の通った鼻筋と凛々しい眉毛、薄い唇に黄金比率の顔立ちで、誰がどう見ても美丈夫である。
その衣装は、たくさんの勲章がついた騎士の正装。

新郎はこの国の騎士団長であり、将軍の地位を賜わった将軍閣下。
平民の出ながら冒険者として名を馳せ、ついに爵位を経てこの地位まで登り詰めた男。
その名前は―――――――

「新郎、エドワルド=ドロップ伯爵閣下。あなたは、ティア=シャワーズを妻とし、神の御名において生涯愛することを誓いますか。」

「はい。誓います。」

低音の落ち着いた声が響く。

その隣にいる僕。
ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪に飾り気のないヴェールを被り、無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を隠す。

それほど豪華ではないが、ある程度の品位が保たれたシンプルなドレス。
男なのにドレス……。

女神様はお怒りのようだけど、僕は、親の決めた……追い出されるような結婚とはいえ、不満はない。

むしろ家から出られただけマシだ。

「ティア=シャワーズ侯爵令息。あなたは、閣下を夫とし、神の御名において生涯ともにすることを誓いますか。」

「誓います。」

男同士なのに結婚だなんて。

平民が爵位を得て、騎士団長、果ては将軍という要職に就いたことが許せない貴族の嫌がらせで、僕という『要らない子(男子)』を妻に押し付ける。

この国は第二夫人や愛妾は許されないから、彼の血が尊い貴族の青い血に混ざることもなければ、後世に続くことはない。

陰謀のような結婚。

僕は問題ないけれど、旦那様にとってはどうなんだろうか。



そんなことを思いながら、僕は、ティア=ドロップになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】睨んでいませんし何も企んでいません。顔が怖いのは生まれつきです。

cyan
BL
男爵家の次男として産まれたテオドールの悩みは、父親譲りの強面の顔。 睨んでいないのに睨んでいると言われ、何もしていないのに怯えられる日々。 男で孕み腹のテオドールにお見合いの話はたくさん来るが、いつも相手に逃げられてしまう。 ある日、父がベルガー辺境伯との婚姻の話を持ってきた。見合いをすっ飛ばして会ったこともない人との結婚に不安を抱きながら、テオドールは辺境へと向かった。 そこでは、いきなり騎士に囲まれ、夫のフィリップ様を殺そうと企んでいると疑われて監視される日々が待っていた。 睨んでないのに、嫁いだだけで何も企んでいないのに…… いつその誤解は解けるのか。 3万字ほどの作品です。サクサクあげていきます。 ※男性妊娠の表現が出てくるので苦手な方はご注意ください

英雄の恋人(♂)を庇って死ぬモブキャラですが死にたくないので庇いませんでした

月歌(ツキウタ)
BL
自分が適当に書いたBL小説に転生してしまった男の話。男しか存在しないBL本の異世界に転生したモブキャラの俺。英雄の恋人(♂)である弟を庇って死ぬ運命だったけど、死にたくないから庇いませんでした。 (*´∀`)♪『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』の孕み子設定使ってますが、世界線は繋がりなしです。魔法あり、男性妊娠ありの世界です(*´∀`)♪

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍
BL
アリアは、前王の遺児で本来は第一王子だが、殺されることを恐れ、地味メイクで残念な王女として育った。冒険者になって城から逃げる予定が、隣国の残酷王へ人質という名の輿入れが決まって……。 俺は男です!子どもも産めません! エッ。王家の魔法なら可能!? いやいやいや。 なんで俺を溺愛するの!?

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...