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私の青い薔薇

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「今日はここまでっ!各自、疲れをとる様にッ!いいか、いつなん時我々の力が必要になるか分からない。その時に万全の体制をとっておくのも我々の仕事である。つまり、休むのも仕事。遊ぶのも構わないが、節度を守る様に。以上、解散!」


「はっ!騎士団長!」


訓練着でひとしきり模擬戦に打ち込んだ後、疲れた体で整列した彼らは、軍人らしく真っすぐに立つ目の前の騎士団長に向かって一糸乱れぬ敬礼をした。


ベル=ドゥ=パルファン。

パルファン王国の末の王子―――第三王子である彼は、フローラル子爵家から嫁いだ妃としては身分の低い側妃の産んだ子どもである。

艶やかな赤みがかった金髪は綺麗に襟足で整えられ、前髪はゆるやかに流し、耳にかけられている。
緑と青のオッドアイは、この国の王族にはよくある瞳で、上背はあるものの、スラリとして、鍛えても筋肉のつき方が違うのか、細さを感じる体躯で、腰は細く、顔もどこか女性的で、長い睫毛が影を落とし、パッチリした瞳と通った鼻筋、小さい口元が麗しい。

だが、そんな見た目とは裏腹に、幼少から分をわきまえて王弟として兄をを支えるつもりだったのだろう彼は、勉学に励み、魔法や剣を磨き、今では実力で齢二十、第3王子にして騎士団長という役職についている。



母親の身分が低くなければ。
ベル様が次の王であればよかったのに。

そういう声もあるほど、彼は優秀で、凛々しく、麗しい。だが、当の本人が謙虚に否定する。


努力家で、思いやりのある彼を部下たちはとても敬愛していた。







「………休むのも仕事なのは貴方もですよ、お分かりですかね。」

部下の前から去り執務室に向かう彼に、隣を歩む副官である騎士団副団長のカルス=イオ=ブルーローズは呆れる様にため息をついた。
筆頭公爵に次ぐ公爵家の次男で、ベルの学友だった彼もまた優秀で、同い年だ。


「どうせあなたのことですから、執務室につけば遠見と聴覚の魔法で国中を見通すのでしょう?それで何かあれば転移で自ら出向くのですよね。」

衛兵の仕事だと思いますが。

「衛兵は私の管轄ではないとはいえ、民になにかあってからでは遅い。それに、急ぐ案件でなければ衛兵長にテレパシーで声を飛ばして教えているぞ。」


「細微まで気を配り国民を守るのはすばらしいことですが、あなただっていつまでも生きているわけではないでしょう。人には寿命があります。そんなふうにしていると部下が育ちませんよ。内政のことにまで手を出していますよね?」


「直接してないよ。助言を求められたから助言しているだけで。私は、役に立たない末端の王族なのだから、父や兄上たちのお役に少しでも立ちたいんだ。」

「………そう思っているのはあなただけなのかもしれませんよ。」

カルスは青い髪を無造作にかき揚げ、隣の上官を見る。

妄信的に家族を支えようとする健気な末の王子。
だが、あまりに優秀すぎる彼を疎んでいる派閥もあるし、第二妃の産んだ第二王子との仲は良好に見えるが、正妃や王太子である第一王子は正直嫌いだ。
筆頭公爵はどうみても自分が国を思いのままにしようとしており、正妃は筆頭公爵の娘だ。
あんな女を妃にしなければよかったのにと思うが、政治でどうしようもなかったのだろう。

陛下が正妃をコントロールしてくれればと思うが、陛下は年々弱るばかりで、今は部屋で療養し、お会いすることもない。

まさか…と思うが、調べることもできない。


だから、彼の行く末がとても心配なのだ。

それに、正妃や第一王子は気づいているのだろうか。

めんどくさいことや仕事を押し付けられて、本人は難なくこなしているが、彼がもしいなくなったりでもしたら、もはや国は回らない。

怠惰に慣れた者は、突然働き者になることも、能力を発揮することもないのだから。


彼を守るため、何度諫めようとしたか分からない。




母君を幼い頃に亡くされた我が君。

身も心も美しいベル。







「ベル。特訓に付き合ってくれないか。」

執務室につくなり、ベルは目を閉じて数分。国に何も異変がないことを確認すると、すらすらと書類仕事を片付けた。

私がある程度整理をつけてあるとはいえ、ベルにかかればものの1時間もあればすべての業務は終わってしまう。

お茶を出してゆっくりしているときに、第一王子が入って来た。

筆頭公爵や正妃にそっくりの、茶色の髪と瞳の第一王子のロワは、スラリとした美丈夫でベルより4歳年上だが、何かにつけベルを呼び出す。

「いいですよ。兄上の部屋に伺えばいいでしょうか。」

ロワ王子はニヤリと口元を歪めると、執務室をぐるりと見まわした。

「……たまにはここでいいんじゃないか。」

「ここでですか。構いませんが。……すまないが、仕事も終わりだし副団長も帰ってくれ。私は兄上と一緒にいるから。」


「……分かりました。」


いつも通りのベルに、ベルの背後でニヤニヤ笑うロワ王子。
嫌な感じがして、私は執務室を出て行った振りをして、身を潜めた。










「お前は本当に従順だ。ベル。」

「はい、兄上。私はの役立たずの末端の王族です。父上や兄上たちのお役に立てるのが幸せです。兄上のお役に立てるのなら、この体をお使いください。」


ベルがカッチリとした騎士団の団服を脱いでいく。

叫びそうな口元を両手でふさいで、私は気が遠くなりそうだった。

本当は止めたかった。

ロワ王子を殴って、今すぐ私の青い薔薇ベルを救い出したかった。


「さあ、ベル。お前の女の部分を広げて、挿れやすいようにしろ。」


「はい、兄上。ベルには赤ちゃんはできないので、存分に練習ください。」

「ああっ、もうすぐ婚約者と結婚、するからなっ。お前で練習して、初夜でひいひい言わせてやる。」


前を広げて飛び出した粗末なものを、ベルの中に突き立てる。
ベルは一瞬苦しそうに、そしてずっと、足が揺れるのが見えた。


「―――――ああ、ヨかった。後始末は自分でやっておけよ。」


満足げにロワ王子が出て行き、私は震える声で感情を押し殺しながらソファの前に行き、ぐったりするベルを見下ろした。



なんで気づかなかったのだろう。


ベルの体には、小ぶりな男根はついているが、その奥に、女のもののように重なり合うものがあり、そこから白いものを……太ももや尻を汚していた。


「……団長は男でも女でもあったのですね。」


「副団長。見ていたのか。」

閉じられていた瞳が開けられ、目が合う。ベルはゆっくりとソファに起き上がり、私は自分の上着をベルにかけた。


「男としても女としてもどっちにもなれない。子どもができないんだ。子どもができたとしても、こんな妙な体では王女としてどこかへ嫁ぐのはできなかっただろうけれど。」

だからベルは、出来損ないの体だと。役に立たない末端の王族だと。

それをベルに洗脳のように吹き込んだのは、あの正妃なのだろう。忌々しい。

「14の時に、ロワ兄上の初めての相手を。私も初めてだったから痛かったけど……。変なのを相手にして、赤ちゃんが出来たり、病気になったり、付きまとわれたら大変だし。女遊びしてるって醜聞も避けたいから、私は丁度良かったんだよ。お役に立てるなら……。だからいいんだよ。」


彼自身上背があるが、それでも鍛えられた普通の男の体である私の方がガッシリしているし、身長もある。

抱きしめると、意外とすっぽりとおさまった。



ベルは自分がどんな酷いことをされていたのか分かっていない。



陛下は、陛下はこのことを知っているのか。

いや、知らないはずだ。

何とかして陛下にお会いし、陛下をお救いしよう。


それから……。




ベル。敬愛する副団長としてではない。心から愛する私の青い薔薇。

多少時間がかかってしまいますが、私があなたをお救いします。






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