王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました

竜鳴躍

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ウインター王国

約束

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「いやだっ!」

「ギャッ」

がぶっと噛みついて痛がった隙に飛び出す。
血の味が気持悪い。

ズボンは履いているけど上着は着乱れて、みっともない格好だけど、今は気にしている場合じゃない。



部屋だと思っていた場所は上客のための客室で、他に誰も客はのっていない。

こんな奴でも王子には違いないから、お金はあるのだろう。
きっと僕を………モノにするために、貸切ったのかもしれないし、船を船員ごと買い取ったのかもしれない。


甲板に誰もいない。


外へ出ると、まだ出港していないようで安心した。


(はやく……早くどこかへ!とりあえず身を隠して…!!)


この国の人間なら僕のことを知っているはず。
だから、人のいる場所にさえいければ助けを呼べる!


船から降りる階段の場所を探す。



「もぉ~~~~~。困ったおてんばちゃんだなぁ。」

血の出た肩を押さえて、あいつがきた。



「や、やだっ、近寄るな!」


「そんなにレナードがいいなら、ずっとレナードの顔でいてもいいんだよ?」

顔がレナードに変わる。


「顔を変えたって、全然レナードと違う!レナードはそんな下品なカオじゃない!レナードに謝れ!」



「なんだよもう…。優しくしてやってるのに!そんなに乱暴にしてほしいならしてやるよ!」

「……ッ!!!」


男の腕が伸びる。





<ダメッ!>

<よくもアレックスを!!!>

光の玉。

精霊さんたちが来て、男を弾き飛ばした。



「なっ!お前たちどうやって……ッ!」




「アレックスを返してもらおう。」

白い早馬に乗って、レナードは精霊たちを追ってきた。

その背後からは、ウインター王国の騎士たち。



船の外。


目視は出来る程度の、離れた崖の上。


「レナード!!」


「アレックス!目を伏せろ!」
レナードの声で、思わず僕は目を閉じる。


「お前馬鹿か?そんなところから何が―――――――





俺は、ずっと鍛錬してきた。
アレックスを守れる男になりたかったから。



ヒュッ。







アレックスは弓を弾き、その弓は秋月雹太の眉間に刺さった。






ガタン。


大きな音がする。



<アレックス。もう大丈夫よ。>

<あなたの旦那様はちゃんとあなたを守ったわ。>



「アレックス、遅くなってごめんね。ルカは無事だよ。それから、警護の体制と護衛の配備を見直したからね。」

ぎゅっと抱きしめてくれる腕。

レナードの匂い。本物の匂い。

上着を僕にかけてくれて、そして、背後のそれを僕は目にすることなく、船を降りた。



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