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ウインター王国
その頃のスプリング王国
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その晴れた日の朝。
ウインター王国では各地で教会の鐘が鳴り、王太子夫夫の間に王子が誕生したことが祝福とともに知らされた。
友好国にもその知らせは飛び、王太子妃の祖国であるスプリング王国へも伝えられる。
「第一子が!おめでたいわね。宰相、執事長。国の代表としてお祝いに向かっていただけないかしら。………そうね、1週間くらい滞在してきて?」
執務室で報告を受けたサザンドラ王妃は、にっこりとほほ笑んで二人に伝えた。
宰相はアレックスの父であり、執事長はレナードの育ての父である。
「1週間……ですか?いいの、でしょうか。」
今まで王家にこき使われ、宰相は休みはおろか外遊に出たこともない。
執事長も同様で、本当にいいのかな?と顔を見回す。
「以前ならいざしらず今なら1週間くらいなんでもないわ。私を中心に騎士団も事務方も統率がとれているし、今まで休めなかったのですもの。可愛い『孫』に会ってらっしゃい。」
ふふふ、と笑うサザンドラにコンフォート公爵もクリフォート伯爵も感謝した。
「では、私の代わりに次期公爵のルビーと婿のアメルを念のため寄こしますので。」
「そうね。お願い。ルビーたちは入れ違いで向かうといいわね。初めての出産は育児に不安があるというし。最初の一月くらい身内の方がいてくれればアレックスも安心でしょう。向こうの王族はよくできた方々だから良くしていただいているとは思うけれど、やっぱりどうしても遠慮してしまうでしょうしね。」
スプリング王国の加護は少しずつ弱くなっているのを感じる。
だが、それが普通だ。
サザンドラは各国に要請してそれぞれの災害対策のスペシャリストを招き、急ピッチで防災マニュアルの整備やら防波堤の建造、非常時用の備蓄、地下シェルターの整備を進めた。
今まで災害を気にすることがなかったため、こういった対策の予算や被害に遭った場合の国民への支援金の予算をもうける必要がなかったが、これからはいざという時のため予算を確保する必要がある。
サザンドラは少しだけ税金を上げたが、支出も見直し、特に王族にかかる経費を削減した。
特にアイリとグレイシャスの散財が酷かった。
散財をさせないようにし、横領がなくなって支出が健全になったことで、上げる税率も最小限で済んだ。
農作物の品質も高め、ONLY ONEのスプリングブランドとして、替えの効かないものにしていった。
もはやウインター王国でさえ自国で食料が賄える時代。
この国には農業以外の産業はすぐには根付かない。
それでも外貨を稼げるように。
「お疲れ様です。」
「ん、ありがと。」
サザンドラはお茶を淹れてくれたレイナに微笑んだ。
レイナのお腹にはこの国の次代がいる。
子どもの頃に一目ぼれをした大切な存在に感謝する。
レイナはサザンドラの執務室の傍らでソファに座り、サザンドラのためにお茶をいれたり食事を手配する以外は、子どものために縫物をしている。
それがとても幸せだ。
離宮に押し込めたグレイシャスは、結婚式以来姿を見ていない。何の仕事の役にも立たない男で、あれが陛下なんて、実権が自分にあってよかったと思う。
マール前陛下は、毒を盛られ、弱った躰で遺言を書き、押印を押した。
ベッドの住人でも最低限の仕事はできるように、ベッドに玉璽を隠し持っていたし、ペンや紙もサイドテーブルに常に置いてあったとはいえ、動ける時間には限りがあったはずだ。
最後の瞬間に優先したことは、犯人を書き記すことよりも国民のために息子から実権を奪うことだった。
「さ、仕事仕事。」
サザンドラはペンを走らせた。
「さぁ、グレイシャス様。ご飯の時間ですよ。」
「………食べたくない。」
動きやすい服を着たマリリンは、グレイシャスの側妃扱いだ。
「私が作りました。陛下のお口に入るものは全部私が材料を調達して作ってます。毒なんて入っていないですよ。」
「…………美味しくない。」
「すみません、料理にまだ不慣れで。でもきっと上手になりますから。何か食べていただかないと、お体に触りますわ。」
「私なんて生きていても仕方ないだろう。向こうは子が出来たらしいし、私が死んだとしても辻褄があう。ただ離宮で生きているだけだし、生きているだけで国庫の無駄だ。私なんていないほうがいい。」
父親が毒殺されたことから、自分も用なしになった今、毒殺されるとグレイシャスは思い込んでいる。
「いないほうがいいなんて言わないで…。少なくとも私は悲しいです。」
「マリリン…。」
グレイシャスはマリリンを見た。
自分の手がついていたとはいえ、美しいマリリンなら嫁の貰い手がないこともなかったはずだ。
それなのに、彼女は側妃になることを選び、ここにいる。
指は慣れない炊事で傷だらけで、荒れてしまって。
金髪は一つ結びに括られて。
「なんで君は。私には子種がないんだぞ。私といても自分の子ももてないのに。」
「貴方は遊び相手の一人だったでしょうが、私には貴方が唯一だからです。貴方は本来とても純粋な方だと思います。だからこそお母さまの影響を受けてしまったのだと。振る舞いは確かにあまりいいとは言えませんでしたけど、寂しさの表れだと思っていました。」
本当の意味で、アイリは息子さえ愛していなかった。
息子は自分の満足を高めるための道具でしかない。
だからこそ、アイリの用意したマジックベリーのジュースを飲んでしまったのではないか。
グレイシャスは愛を知らない、愛を求めるひとだった。
そのストレスが傲慢にさせていたのだとマリリンは考えていたので、彼を守りたい、愛をあげたいと思っていた。
「私も同じなんです。私は頭が悪くて…、実家では期待されていない娘でした。だからですかね。勝手に親近感を持っていたのです。グレイシャス様。私のために生きてください…。子がいなくてもいいのです。二人で楽しく生きましょう。」
「うん……。」
自分は表向き陛下として、行事の時には仕事がある。
マリリンが愛してくれるなら、『お飾りの陛下』だけど、やってみよう。
他に何もすることがないのだから、社交のために他国のことを勉強してみよう。
与えられた仕事くらい完璧にやって、少しは国のために役立てたら。
そういう風に前向きな気持ちになるのも、そう遠くない未来。
ウインター王国では各地で教会の鐘が鳴り、王太子夫夫の間に王子が誕生したことが祝福とともに知らされた。
友好国にもその知らせは飛び、王太子妃の祖国であるスプリング王国へも伝えられる。
「第一子が!おめでたいわね。宰相、執事長。国の代表としてお祝いに向かっていただけないかしら。………そうね、1週間くらい滞在してきて?」
執務室で報告を受けたサザンドラ王妃は、にっこりとほほ笑んで二人に伝えた。
宰相はアレックスの父であり、執事長はレナードの育ての父である。
「1週間……ですか?いいの、でしょうか。」
今まで王家にこき使われ、宰相は休みはおろか外遊に出たこともない。
執事長も同様で、本当にいいのかな?と顔を見回す。
「以前ならいざしらず今なら1週間くらいなんでもないわ。私を中心に騎士団も事務方も統率がとれているし、今まで休めなかったのですもの。可愛い『孫』に会ってらっしゃい。」
ふふふ、と笑うサザンドラにコンフォート公爵もクリフォート伯爵も感謝した。
「では、私の代わりに次期公爵のルビーと婿のアメルを念のため寄こしますので。」
「そうね。お願い。ルビーたちは入れ違いで向かうといいわね。初めての出産は育児に不安があるというし。最初の一月くらい身内の方がいてくれればアレックスも安心でしょう。向こうの王族はよくできた方々だから良くしていただいているとは思うけれど、やっぱりどうしても遠慮してしまうでしょうしね。」
スプリング王国の加護は少しずつ弱くなっているのを感じる。
だが、それが普通だ。
サザンドラは各国に要請してそれぞれの災害対策のスペシャリストを招き、急ピッチで防災マニュアルの整備やら防波堤の建造、非常時用の備蓄、地下シェルターの整備を進めた。
今まで災害を気にすることがなかったため、こういった対策の予算や被害に遭った場合の国民への支援金の予算をもうける必要がなかったが、これからはいざという時のため予算を確保する必要がある。
サザンドラは少しだけ税金を上げたが、支出も見直し、特に王族にかかる経費を削減した。
特にアイリとグレイシャスの散財が酷かった。
散財をさせないようにし、横領がなくなって支出が健全になったことで、上げる税率も最小限で済んだ。
農作物の品質も高め、ONLY ONEのスプリングブランドとして、替えの効かないものにしていった。
もはやウインター王国でさえ自国で食料が賄える時代。
この国には農業以外の産業はすぐには根付かない。
それでも外貨を稼げるように。
「お疲れ様です。」
「ん、ありがと。」
サザンドラはお茶を淹れてくれたレイナに微笑んだ。
レイナのお腹にはこの国の次代がいる。
子どもの頃に一目ぼれをした大切な存在に感謝する。
レイナはサザンドラの執務室の傍らでソファに座り、サザンドラのためにお茶をいれたり食事を手配する以外は、子どものために縫物をしている。
それがとても幸せだ。
離宮に押し込めたグレイシャスは、結婚式以来姿を見ていない。何の仕事の役にも立たない男で、あれが陛下なんて、実権が自分にあってよかったと思う。
マール前陛下は、毒を盛られ、弱った躰で遺言を書き、押印を押した。
ベッドの住人でも最低限の仕事はできるように、ベッドに玉璽を隠し持っていたし、ペンや紙もサイドテーブルに常に置いてあったとはいえ、動ける時間には限りがあったはずだ。
最後の瞬間に優先したことは、犯人を書き記すことよりも国民のために息子から実権を奪うことだった。
「さ、仕事仕事。」
サザンドラはペンを走らせた。
「さぁ、グレイシャス様。ご飯の時間ですよ。」
「………食べたくない。」
動きやすい服を着たマリリンは、グレイシャスの側妃扱いだ。
「私が作りました。陛下のお口に入るものは全部私が材料を調達して作ってます。毒なんて入っていないですよ。」
「…………美味しくない。」
「すみません、料理にまだ不慣れで。でもきっと上手になりますから。何か食べていただかないと、お体に触りますわ。」
「私なんて生きていても仕方ないだろう。向こうは子が出来たらしいし、私が死んだとしても辻褄があう。ただ離宮で生きているだけだし、生きているだけで国庫の無駄だ。私なんていないほうがいい。」
父親が毒殺されたことから、自分も用なしになった今、毒殺されるとグレイシャスは思い込んでいる。
「いないほうがいいなんて言わないで…。少なくとも私は悲しいです。」
「マリリン…。」
グレイシャスはマリリンを見た。
自分の手がついていたとはいえ、美しいマリリンなら嫁の貰い手がないこともなかったはずだ。
それなのに、彼女は側妃になることを選び、ここにいる。
指は慣れない炊事で傷だらけで、荒れてしまって。
金髪は一つ結びに括られて。
「なんで君は。私には子種がないんだぞ。私といても自分の子ももてないのに。」
「貴方は遊び相手の一人だったでしょうが、私には貴方が唯一だからです。貴方は本来とても純粋な方だと思います。だからこそお母さまの影響を受けてしまったのだと。振る舞いは確かにあまりいいとは言えませんでしたけど、寂しさの表れだと思っていました。」
本当の意味で、アイリは息子さえ愛していなかった。
息子は自分の満足を高めるための道具でしかない。
だからこそ、アイリの用意したマジックベリーのジュースを飲んでしまったのではないか。
グレイシャスは愛を知らない、愛を求めるひとだった。
そのストレスが傲慢にさせていたのだとマリリンは考えていたので、彼を守りたい、愛をあげたいと思っていた。
「私も同じなんです。私は頭が悪くて…、実家では期待されていない娘でした。だからですかね。勝手に親近感を持っていたのです。グレイシャス様。私のために生きてください…。子がいなくてもいいのです。二人で楽しく生きましょう。」
「うん……。」
自分は表向き陛下として、行事の時には仕事がある。
マリリンが愛してくれるなら、『お飾りの陛下』だけど、やってみよう。
他に何もすることがないのだから、社交のために他国のことを勉強してみよう。
与えられた仕事くらい完璧にやって、少しは国のために役立てたら。
そういう風に前向きな気持ちになるのも、そう遠くない未来。
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