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師匠は弟子の不遇にざまぁしたい
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一臣の歌は、インディーズだけどSNSで拡散されて、話題になっていた。
今はいい時代だね。
たまに、振り返る人はいるけれど、髪を切って眼鏡をかけた俺のことを、Linだと気づく人はいない。
少し、寂しい気がするけど、ありがたい。
このままきっと、忘れられて、何年かしたら「あの人は今」に呼ばれるんだろうなー。
劣化したなんて思われたくないから、この美貌は維持したいところ。
一臣のプロデュースは基本俺がやっているけど、こまごましたことは、元マネージャーの由紀子さんがやってくれている。
俺が急にやめちゃったから迷惑をかけた。
一臣は目立つのが嫌いみたいだから、今の世の中に合わせた、こういった感じの芸能活動をやる個人事務所をやるのもしいかもしれないな。
一臣ごめんね、俺のエゴ。
俺は歌を作りたい。
そのために、一臣にどうしても歌手になってもらいたいんだ。
ーーそして、もし、ちゃんと軌道に乗って、もしそのとき由紀子さんに居場所がなくなってたら、由紀子さんを雇いたい。
自分の昼食の買い出しに、駅前のスーパーに行った帰り。
カラオケハウスの前に、似つかわしくない黒塗りの高級車が停まっていた。
車から青い顔をした由紀子さんが出てくる。
俺は、察して、車の中に乗った。
前の事務所の社長。
品のいいスーツを纏った、初老の女性が、やわらかいシートの上に座っている。
小柄だが、迫力がある。
「困るのよ。」
「声帯痛めてるんで、もう無理です。歌手は。」
「休めば、回復しないことはないらしいじゃない。」
「俺の売りは広い音域です。俺の歌いたい歌も。元々、俺の音域はそこまで広くなかった。作りたい歌を歌ってくれる人がいなかったから、自分で練習して、すこしずつ広げただけです。一度休んだら、前のようには無理ですよ。」
「一臣くん、だったかしら。」
体がこわばる。
「北欧系のクォーターね。今はダサいけど、子どもの頃は凄くかわいい子で評判だったみたい。磨けば光るわね。それに、その子、今SNSで話題の子でしょ?」
あのインディーズの曲、あなたの曲よね?
「……一臣には手を出さないでください。」
「インディーズだけではもったいないわ。プロデュースはあなたに任せてあげる。その代わり、あなたも仕事しなさい。」
「歌えませんよ。」
「引退宣言しちゃったんだから、歌手はもういいわよ。歌は、その子に歌ってもらうわ。歌手じゃなくてもいろいろあるでしょう、あなたハンサムなんだし。大体契約期間残ってるんだから。それじゃあね、また。」
社長は去っていった。
車を降りる前、由紀子さんがものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「ふーーーーー。なんだか、一臣の顔を見たくなっちゃったな。」
駅前からバスを乗り継いで、一臣から聞いていた学校に行ってみる。
一臣の学校でも、彼の歌は評判のようだ。
でも、学校での一臣は、地面しかみていない。
だれも、話しかけない。誰とも話さない。
みんなが一臣をいないものとして扱っている。
息をひそめて、そこにいるだけ。
影のように。
一臣が、何かを探している。
探し物は、ゴミ箱にあったようだ。
くちゃくちゃになった用紙を、あわててのばしている。
先生に渡しているから、課題だったようだ。
なんか、
ふつふつとしてきた。
一臣はきれいなんだぞ。
見た目だけじゃない、心もとっても。
歌声も天使のようだ。
こんなだから、一臣は目立たないようにする癖がついていたのか。
あんなやつら、ざまあしたい。
今はいい時代だね。
たまに、振り返る人はいるけれど、髪を切って眼鏡をかけた俺のことを、Linだと気づく人はいない。
少し、寂しい気がするけど、ありがたい。
このままきっと、忘れられて、何年かしたら「あの人は今」に呼ばれるんだろうなー。
劣化したなんて思われたくないから、この美貌は維持したいところ。
一臣のプロデュースは基本俺がやっているけど、こまごましたことは、元マネージャーの由紀子さんがやってくれている。
俺が急にやめちゃったから迷惑をかけた。
一臣は目立つのが嫌いみたいだから、今の世の中に合わせた、こういった感じの芸能活動をやる個人事務所をやるのもしいかもしれないな。
一臣ごめんね、俺のエゴ。
俺は歌を作りたい。
そのために、一臣にどうしても歌手になってもらいたいんだ。
ーーそして、もし、ちゃんと軌道に乗って、もしそのとき由紀子さんに居場所がなくなってたら、由紀子さんを雇いたい。
自分の昼食の買い出しに、駅前のスーパーに行った帰り。
カラオケハウスの前に、似つかわしくない黒塗りの高級車が停まっていた。
車から青い顔をした由紀子さんが出てくる。
俺は、察して、車の中に乗った。
前の事務所の社長。
品のいいスーツを纏った、初老の女性が、やわらかいシートの上に座っている。
小柄だが、迫力がある。
「困るのよ。」
「声帯痛めてるんで、もう無理です。歌手は。」
「休めば、回復しないことはないらしいじゃない。」
「俺の売りは広い音域です。俺の歌いたい歌も。元々、俺の音域はそこまで広くなかった。作りたい歌を歌ってくれる人がいなかったから、自分で練習して、すこしずつ広げただけです。一度休んだら、前のようには無理ですよ。」
「一臣くん、だったかしら。」
体がこわばる。
「北欧系のクォーターね。今はダサいけど、子どもの頃は凄くかわいい子で評判だったみたい。磨けば光るわね。それに、その子、今SNSで話題の子でしょ?」
あのインディーズの曲、あなたの曲よね?
「……一臣には手を出さないでください。」
「インディーズだけではもったいないわ。プロデュースはあなたに任せてあげる。その代わり、あなたも仕事しなさい。」
「歌えませんよ。」
「引退宣言しちゃったんだから、歌手はもういいわよ。歌は、その子に歌ってもらうわ。歌手じゃなくてもいろいろあるでしょう、あなたハンサムなんだし。大体契約期間残ってるんだから。それじゃあね、また。」
社長は去っていった。
車を降りる前、由紀子さんがものすごく申し訳なさそうな顔をしていた。
「ふーーーーー。なんだか、一臣の顔を見たくなっちゃったな。」
駅前からバスを乗り継いで、一臣から聞いていた学校に行ってみる。
一臣の学校でも、彼の歌は評判のようだ。
でも、学校での一臣は、地面しかみていない。
だれも、話しかけない。誰とも話さない。
みんなが一臣をいないものとして扱っている。
息をひそめて、そこにいるだけ。
影のように。
一臣が、何かを探している。
探し物は、ゴミ箱にあったようだ。
くちゃくちゃになった用紙を、あわててのばしている。
先生に渡しているから、課題だったようだ。
なんか、
ふつふつとしてきた。
一臣はきれいなんだぞ。
見た目だけじゃない、心もとっても。
歌声も天使のようだ。
こんなだから、一臣は目立たないようにする癖がついていたのか。
あんなやつら、ざまあしたい。
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