15 / 26
消えたランスロット
しおりを挟むこんなに気持ちが浮かない夏休み前なんて初めてだ。
いつもなら待ち遠しくて堪らないのに...。
食堂で列に並んでいると、俊也に気づいた一部の生徒がなにやらコソコソ話してる。
黒髪になってるのが珍しいんだと思うけど...髪色の変化くらいで注目を浴びる俊也、て気の毒だな、て感じる。
もし俺が俊也のように金髪で黒髪にしたとしても特に話題なんかにはならないだろう。
不意に食堂を見渡し、視線が辿り着いた先には遥斗くんと和斗くんが並んで食事していた。
仲良さそうな笑顔の二人。
...やっぱり、付き合ってるとかなのかな。
トレイに食事を乗せて貰い、俺は意を決して遥斗くんと和斗くんの前に向かった。
「ちょ、樹」
涼太が驚いた様子で引き止めようとしたけど。
二人の前にトレイを置き、立ち竦んだ俺を二人が見上げた。
その瞬間、なんとも言えない違和感を覚えた。
一卵性の双子だから、同じ顔なのは確かなのに、遥斗くんはきょとん、とした眼差し、兄の和斗くんの瞳は細められ険しかった。
「なに?てか、誰?お前」
...和斗くんのセリフに、遥斗くんは俺の事を和斗くんに話してない事に気づいた。
遥斗くんが、
「知らない。席間違えてない?」
と、まるで、俺をそこから離したいかのようだった。
ゴクリ、喉を鳴らして、席に座った。
「....質問があって」
「....質問?」
和斗くんが険しさを変えずに訝しんだ。
「....徒歩で移動中のあなたですが、うっかり寝坊してしまい、このままでは大事な待ち合わせに遅れてしまいそうです。さて、どうしますか?」
以前、俊也にされた心理テストだ。
その後、涼太からアレはサイコパス診断だと聞いた。
サイコパスは事故や事件を作り上げて理由にするのらしい。
「なにそれ。心理テストかなんか?」
遥斗くんの問いに頷くと、しばらく、遥斗くんは斜め上を向き、うーん、と唸り、
「ごめん、もう一回」
先程の俊也の心理テストを反芻した。
「大事な待ち合わせ、か。相手とかその待ち合わせの事情もあるな。友達とかなら待ってて貰うし、無理なら帰って貰う。けど、大事な人だったり、遊びじゃない、こう、今は学生だけど、仕事とかだったら、上司に連絡したりあるだろうし...」
思いがけず、遥斗くんは真剣に考えてくれた。
「まあ、そうだな。悪い、遥斗、自販機でコーヒー買って来てくんない?いつもの奴」
「えっ、うん、いいけど」
「悪いな」
和斗くんの笑顔に遥斗くんも微笑みを返し立ち上がり、食堂の入口にある自販機に向かっていく。
その背中を見つめた。
「サイコパス診断だろ、それ」
「えっ」
慌てて和斗くんに視線を戻す。
和斗くんは箸を持ったまま口元を歪め、笑みを含んでた。
「しょーもな。てかさ、俺たちをサイコパスとでも思った訳?めっちゃ失礼だよな」
「....ごめん」
「つーか、サイコパスとは無縁なんで、俺はさ」
....俺は?
遥斗くんはどうなるんだろう。
真剣に考えていた遥斗くんとは明らかに違う。
「....和斗くん、このテスト知ってたんだね」
「まあな」
「...遥斗くんを自販機に行かせたのは...診断の内容を知ってたから....?」
はっ、と和斗くんが笑った。
「勘繰りすぎ。サイコパスなんじゃねー?お前」
「....」
唖然とし、言葉を失った。
「お待たせ、兄さん」
「ああ、サンキュ」
「ううん」
途端、和斗くんは狡猾な笑みを消し、遥斗くんを見上げ優しく微笑み、缶コーヒーを受け取った。
0
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
まるでおとぎ話
志生帆 海
BL
追い詰められて……もう、どうしたら……どこへ行けばいいのか分からない。
病弱な弟を抱えた僕は、怪しげなパーティーへと向かっている。
こちらは2018年5月Twitter上にて募集のあった『絵師様アンソロジー企画』参加作品の転載になります。1枚の絵師さまの絵に、参加者が短編を書きました。
15,000程度の短編になりますので、気軽にお楽しみいただければ嬉しいです。

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです
チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》
歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。
ほのぼのです。よろしくお願いします。
※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる