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ユリウス元王子と孤児のハル
怪しい子
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「……おはようございます。」
ぶかぶかの子ども用の服を着て、申し訳なさそうに挨拶をするハルに、私はなるべく笑顔を作った。
これでも長いこと『王子』をしていたのだ。
笑顔を作るのは得意だ。
彼に対して、同情や憐れみといった感情、彼の親に対して憤りを覚える怒りの感情を見せてはいけないと思った。
私だって聖人君子ではない。
可愛そうな人を見れば、同情や憐れみはどうしても覚える。
だが、本人にそういった感情を気づかせるのは失礼だ。
「ハル、寝汗をかいているだろうから、一度お風呂に入って、頭を洗ってあげよう。長いこと酷い生活をしていたから、丁寧に綺麗にしないと。うちはお客様商売だから、身だしなみはとても大事なんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
半年、路上生活をしていたのだ。髪の毛に虫もくっついていたから、夕べ綺麗に駆除はしたが、念のため根気よく続ける必要がある。
彼が休んだ後、彼を通した床や部屋の中は、きれいに拭き掃除をした。
髪の毛に卵や取り忘れが残っていないことを確認し、枕やシーツ、汚れ物の洗濯を始める。
風呂場で洗濯のやり方を彼に教え、後は自分で洗ってもらっている間に、朝ごはんを準備した。
夕べは残り物しかなかったからな。
温めたパン、目玉焼きに厚切りベーコンを焼いたもの。
野菜サラダにオレンジジュース。
これだけあったらまずまずだろう。
今夜は、もっとちゃんと作ろう。
具だくさんのシチューは好きだろうか。
「あの、洗えました…。」
風呂場から声が聞こえた。
「ハル、それじゃあ洗濯物はそのままにして、着替えたらおいで。朝ごはんにしよう。」
下洗いをしたら、ハウスキーピングの人に他の洗い物と一緒に洗濯をお願いしよう。
「うわぁあ。おいしい…。僕、こんなおいしい朝ごはん、初めてです…っ。」
目をキラキラさせて、ごはんをもぐもぐと食べている姿が愛らしい。
「私の料理の腕もなかなかだろう?…と言いたいところだが、温めたり焼いたりしただけなんだ。サラダは洗って千切っただけ。ハルでもできるよ?」
それなら今度は僕が作ってみたいです、というので、明日の朝は一緒に作ることにした。
「店長、おはようございます。」
1階の店舗から声が聞こえる。
従業員が出勤してきたらしい。
「申し訳ない、今開ける。」
窓から顔を出して、慌てて降り、カギを開けた。
従業員のケント、ギル、サリー、クララ。
皆、平民だがしっかりしている者たちだ。
王子時代にこっそり商会を始めたころからの付き合いで、彼らの中でも年配のケントは店長代理を任せていたから、
私が元王子であることも知っている。
黒髪で短髪、ちょっと彫りの深い顔の渋いおじさん系のケントは38歳。奥さんと12歳の男の子の子持ち。
こげ茶の髪にグレーの瞳のギルは24歳。たれ目が優し気な雰囲気で、サリーと交際中。
茶色の髪と青い眼のサリーは18歳。そばかすがチャーミングな女の子。計算が早くて頼りになる。
金髪にも見える茶色の髪に緑の眼のクララは20歳。おっちょこちょいなところはあるが、ムードメイカーで接客はうまい。
遅れて、ハウスキーピングのジョシュアがやって来た。
ジョシュアは15歳。黒髪黒目の男の子で、家計を助けるために働いていて、若いのに家事の達人だ。
「あれ?珍しいですね。2階からいい匂いがする。店長が朝からまともな食事をしているなんて。」
「ああ。ちょっと、子どもを養うことにしたんだ。私は結婚しないだろうから。親に恵まれなくてね。虐待されていたんだよ。悪い親だったがちゃんとした家の子だったから、教育はされている。ただ、今は体が良くないから、しばらくは店には出さずに、私の手伝いで書類関係をやってもらおうと思っているんだ。」
隠しているのも変だから、ハルを紹介しよう。
今はがりがりだけど、取り合えず今の説明でおかしくはない、はず。
「ハル、みんなを紹介するよ。おいで。」
「……はい。」
おずおずと、顔を出す。
「ハルです、よろしくお願いいたします。」
その姿に、守ってあげたいと思えるか、素性の怪しい子だと思うか。
五分五分なくらいには、ハルの見た目は傷んでいて、特にハウスキーピングのジョシュアは冷たい視線を向けていた。
ぶかぶかの子ども用の服を着て、申し訳なさそうに挨拶をするハルに、私はなるべく笑顔を作った。
これでも長いこと『王子』をしていたのだ。
笑顔を作るのは得意だ。
彼に対して、同情や憐れみといった感情、彼の親に対して憤りを覚える怒りの感情を見せてはいけないと思った。
私だって聖人君子ではない。
可愛そうな人を見れば、同情や憐れみはどうしても覚える。
だが、本人にそういった感情を気づかせるのは失礼だ。
「ハル、寝汗をかいているだろうから、一度お風呂に入って、頭を洗ってあげよう。長いこと酷い生活をしていたから、丁寧に綺麗にしないと。うちはお客様商売だから、身だしなみはとても大事なんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
半年、路上生活をしていたのだ。髪の毛に虫もくっついていたから、夕べ綺麗に駆除はしたが、念のため根気よく続ける必要がある。
彼が休んだ後、彼を通した床や部屋の中は、きれいに拭き掃除をした。
髪の毛に卵や取り忘れが残っていないことを確認し、枕やシーツ、汚れ物の洗濯を始める。
風呂場で洗濯のやり方を彼に教え、後は自分で洗ってもらっている間に、朝ごはんを準備した。
夕べは残り物しかなかったからな。
温めたパン、目玉焼きに厚切りベーコンを焼いたもの。
野菜サラダにオレンジジュース。
これだけあったらまずまずだろう。
今夜は、もっとちゃんと作ろう。
具だくさんのシチューは好きだろうか。
「あの、洗えました…。」
風呂場から声が聞こえた。
「ハル、それじゃあ洗濯物はそのままにして、着替えたらおいで。朝ごはんにしよう。」
下洗いをしたら、ハウスキーピングの人に他の洗い物と一緒に洗濯をお願いしよう。
「うわぁあ。おいしい…。僕、こんなおいしい朝ごはん、初めてです…っ。」
目をキラキラさせて、ごはんをもぐもぐと食べている姿が愛らしい。
「私の料理の腕もなかなかだろう?…と言いたいところだが、温めたり焼いたりしただけなんだ。サラダは洗って千切っただけ。ハルでもできるよ?」
それなら今度は僕が作ってみたいです、というので、明日の朝は一緒に作ることにした。
「店長、おはようございます。」
1階の店舗から声が聞こえる。
従業員が出勤してきたらしい。
「申し訳ない、今開ける。」
窓から顔を出して、慌てて降り、カギを開けた。
従業員のケント、ギル、サリー、クララ。
皆、平民だがしっかりしている者たちだ。
王子時代にこっそり商会を始めたころからの付き合いで、彼らの中でも年配のケントは店長代理を任せていたから、
私が元王子であることも知っている。
黒髪で短髪、ちょっと彫りの深い顔の渋いおじさん系のケントは38歳。奥さんと12歳の男の子の子持ち。
こげ茶の髪にグレーの瞳のギルは24歳。たれ目が優し気な雰囲気で、サリーと交際中。
茶色の髪と青い眼のサリーは18歳。そばかすがチャーミングな女の子。計算が早くて頼りになる。
金髪にも見える茶色の髪に緑の眼のクララは20歳。おっちょこちょいなところはあるが、ムードメイカーで接客はうまい。
遅れて、ハウスキーピングのジョシュアがやって来た。
ジョシュアは15歳。黒髪黒目の男の子で、家計を助けるために働いていて、若いのに家事の達人だ。
「あれ?珍しいですね。2階からいい匂いがする。店長が朝からまともな食事をしているなんて。」
「ああ。ちょっと、子どもを養うことにしたんだ。私は結婚しないだろうから。親に恵まれなくてね。虐待されていたんだよ。悪い親だったがちゃんとした家の子だったから、教育はされている。ただ、今は体が良くないから、しばらくは店には出さずに、私の手伝いで書類関係をやってもらおうと思っているんだ。」
隠しているのも変だから、ハルを紹介しよう。
今はがりがりだけど、取り合えず今の説明でおかしくはない、はず。
「ハル、みんなを紹介するよ。おいで。」
「……はい。」
おずおずと、顔を出す。
「ハルです、よろしくお願いいたします。」
その姿に、守ってあげたいと思えるか、素性の怪しい子だと思うか。
五分五分なくらいには、ハルの見た目は傷んでいて、特にハウスキーピングのジョシュアは冷たい視線を向けていた。
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