人魚姫は復讐する~婚約破棄してくれてありがとうございます~

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
11 / 12
マジック王国で

魔女と毒林檎

しおりを挟む
トールと結婚して、幸せな日々。


今日は、キシリトール殿下と王妃様とお茶会。

殿下は美味しいお菓子を作って待っていてくれるし、王妃様は美味しいお茶を用意してくれるし、僕だけなにもないの。


トールは歌えばいいって言うけど、そういうことじゃないよ。



結局何も準備出来なくて、お茶会をするお庭に向かって歩いていたら、紫色のマントのフードを深くかぶったお婆さんに声をかけられた。

フードから見える鼻の頭には、深い古傷があって痛々しい。



「お婆さん。迷ってきたの?ここはお城の庭だよ。見つかったら怒られちゃうから、案内してあげる。」


お婆さんはしわがれた声で、困り果てた。

「せっかく林檎を売りに来たのに。ここは市場じゃないのかい。もう足腰痛くて、たまらないねえ。」


とてもかわいそう。
それに、採れたての真っ赤な林檎は、手土産になるかも?


「お婆さん。じゃあ今日だけ特別。丁度お茶会があるから、僕が買ってあげる。」

「まあ、なんて親切な男の子。じゃあ、ぜひ1個味見をしておくれよ。」


僕は、林檎に手をのばした。






「お母様。マリーン、遅いですね。」

キシリトール殿下は、お茶会の会場で自分が焼いたベイクドチーズケーキを切り分けながら、なんだか嫌な予感がしていた。


「お母さま、ごめんなさい。ちょっと待っていて。いやな予感がするから、迎えに行ってくる!」

「わかったわ、でも気を付けて!トールとギャバにも連絡しておくから!」


キシリトール殿下が駆けていくと、丁度、怪しい老婆から手渡された真っ赤な林檎を、マリーンが齧ったところだった。


「マリーン!やめるんだ!吐き出せ!マリーン!!」


「⁉ 殿下、ごめんなさい。迎えに来てくれたの?」
マリーンには遠くから叫ぶキシリトールの声は届いていたが、何を言っているか詳細までは聞こえていなかった。

「いいから、吐き出せ!」
走りながら、キシリトールが叫ぶ。


魔法が使えないマリーンには分からないかもしれない。

だが、彼の側にいる怪しい老婆からは、黒い魔力が漂っている。


「ーーーーうぅっ!」

マリーンがその場で膝をついた。


その瞬間、老婆がフードを脱ぐ。



その顔は、だいぶ老けてはいたけれど…


「……ビ、ビビアン…。なぜ…っ。」




どうしてそんなに年をとっているのか。

どうして結界を破ってこの国へ来れたのか。



「…ふふふ。お前だけ幸せになるなんて許せない。リチャードは死んだ。子を残さずに。あいつ、種無しだったんだ!お父様は死に、私は王太子妃とは名ばかりの子を産むだけの王家の奴隷。でもねえ、どんなに頑張っても子は出来なかったんだよ!!私のせいなものか、あのフニャチンが!なのに、どんなにしても子を作れとそれが私たちの贖罪だと王が言うから頑張ったのに、お前たちの子を分けてもらって王位を継がせるって言うんだよ!じゃあ、俺は何!!?なんなのさ!あいつが無理だってんなら、王の子だって産んでやったのに!だから、憎い憎いお前を殺すために!」


自分の若さを代償に、結界を破ったのさ。


ビビアンは高笑いをする。


「この毒は今に全身をまわる。お前は泡のようになって消えてしまうんだよ。死体も残さずに!」

墓にも入れない。

トールは愛する妻の亡骸を抱くことも弔うこともできない。

いい気味だ!!!




「…お前は、本当の悪い魔女だ!」

キシリトールは、かつて自分を捕えていた魔女を思い出していた。

マリーンを芝に寝かせて、自分の髪に魔力をこめる。


「………何っ!?」


しゅるりと伸びた黒髪が、ビビアンの四肢を拘束した。

「任せたよ、二人とも!」


「ああ、任せろ!」

「よくも、マリーンを!!」


林の陰からギャバとトールが飛び出し、二人で、ビビアンの首をはねた。


「ギャアアアアアアア!!!!!!」


一瞬のことで、首をはねてしばらくビビアンはハクハクと口を動かして目を剝いていたが、やがてこと切れた。






「マリーン、マリーン!」

トールがマリーンに駆け寄る。

抱きしめると、力のない体は、泡のようになって端から消えかかっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?

一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう) 湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」 なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。 そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」 え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか? 戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。 DKの青春BL✨️ 2万弱の短編です。よろしくお願いします。 ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする

葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』 騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。 平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。 しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。 ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

お互いβだって言ったよね!?

わさび
BL
幼馴染の僕たちは2人ともβだ。 そのはずなのにどうしてこうなった...!?!?1話完結予定

処理中です...