上 下
5 / 12

これが私たちの復讐

しおりを挟む
「陛下、妃殿下。息子へのこれまでの扱い。王太子の振る舞い。もう私は我慢ができません。うちは、幸い隣国との境にあります。実は以前からお誘いはあり……。わが領は隣国へ移ります。」

マリーンの父親は、恭しく、だが厳しい言葉を述べた。


「父上。俺は母方の籍に移ります。」

そこへトールも続く。


公爵の妻は隣国の公爵の令嬢だった。
また、トールの亡くなった母親も、庶子とはいえ隣国の王女だったのだ。


「なっ………!お前たち!?」



慌てふためく陛下を遮り、ファンファーレが響く。

突然現れたのは白髪の紳士。
マントを翻し、供と現れたのは、魔法使いの王国と云われるマジックランドの国王陛下だった。

「カヌレよ。こんな恐ろしい人間がいるところには、誰だってもういられないだろう。彼らは私が保護する。新しい国境には早速バリアをはらせてもらうよ。」


「マジックよ!! 宰相は処刑する!処刑するから!!」

「ヒイイ! 私はリチャード様のためにい!!」

「お父様あ!お父様が処刑されたら、僕はどうなるの!! リチャード様はああだし、あいつの魔法が解けたから、そのうち僕の声だって!!」

切り傷を負った鼻の頭の皮膚を押さえながら、ビビアンは叫んだ。
鼻の傷は、一生残るかもしれない。
それに、声の美しさが失われれば、彼はもう歌手としては難しいだろう。


「呆れたわ。息子も共犯なんて。ビビアンの声の美しさも、マリーンを代償に得ていたのですね。」

「くそう! トール。トールうう!!」
リチャードはずっとトールを睨んで、犬のように唸っている。


「……全く地獄絵図のようだ。この国の行く先は暗いな。さて、マリーン。全ては君の手紙のおかげだよ。よく今まで頑張ったね。」

マジック陛下は、マリーンを労り、優しい笑みを浮かべる。
大好きなトールに似た笑顔。


「ありがとうございます。トールも頑張ってくれている。だから、僕も自分が出来ることを、と思ったのです。
そちらなら、恐ろしい魔法も効かないだろうと。うちの領地の併合と、貴国での父の爵位をありがとうございました。」


「お安い御用だ。次期国王の妃の実家は大事にしないとな。」

「次期国王!?」

リチャードとカヌレ陛下がはもる。


「ああ、うちには王子が一人いることはいるが、どうしても騎士団長に嫁ぎたいらしい。どうしたものか考えていたら、かわいい妹が遺した息子がこちらへ来たいというじゃないか。」


「そうです。俺はマジックランドの王太子になります。向こうの王子も喜んで下さっています。だから、よかったな、リチャード。お前の王太子は揺るがない。どんなにポンコツでも。ビビアンの顔に傷をつけた責任をとって、妃にするといい。悪い魔女の素養がある王妃に自分勝手ですぐキレる王の国など相手にしたくないから、国交は絶たせてもらうが。」


「トール……お前。私たちを捨てるのか……?」

「かわいいリチャードは残りますよ、陛下。それでは皆様、ごきげんよう?」


うっとりするほど素敵なトール。
社交も青春も何もかも打ち捨てて、僕に捧げてくれた人。

阿鼻叫喚の中、僕はトールにエスコートされて、マジック陛下と父に伴われて城を出た。



この結末が、僕の復讐。

婚約破棄して下さって、ありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

眠れぬ夜の召喚先は王子のベッドの中でした……抱き枕の俺は、今日も彼に愛されてます。

櫻坂 真紀
BL
眠れぬ夜、突然眩しい光に吸い込まれた俺。 次に目を開けたら、そこは誰かのベッドの上で……っていうか、男の腕の中!? 俺を抱き締めていた彼は、この国の王子だと名乗る。 そんな彼の願いは……俺に、夜の相手をして欲しい、というもので──? 【全10話で完結です。R18のお話には※を付けてます。】

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

悪役令息だったはずの僕が護送されたときの話

四季織
BL
婚約者の第二王子が男爵令息に尻を振っている姿を見て、前世で読んだBL漫画の世界だと思い出した。苛めなんてしてないのに、断罪されて南方領への護送されることになった僕は……。 ※R18はタイトルに※がつきます。

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

婚約破棄に異議を唱えたら、王子殿下を抱くことになった件

雲丹はち
BL
双子の姉の替え玉として婚約者である王子殿下と1年間付き合ってきたエリック。 念願の婚約破棄を言い渡され、ようやっと自由を謳歌できると思っていたら、実は王子が叔父に体を狙われていることを知り……!?

騎士団長である侯爵令息は年下の公爵令息に辺境の地で溺愛される

Matcha45
BL
第5王子の求婚を断ってしまった私は、密命という名の左遷で辺境の地へと飛ばされてしまう。部下のユリウスだけが、私についてきてくれるが、一緒にいるうちに何だか甘い雰囲気になって来て?! ※にはR-18の内容が含まれています。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

処理中です...