55 / 78
恋愛相談
しおりを挟む
「………スミス。私の相談も聞いてくれる?従弟として。」
「えっ。僕でいいのかな…。」
騎士団の演習場で備品の整理をしているところへ押しかけるようになってしまったアーサーは、申し訳なさに顔を覆いながら項垂れた。
「こんなことスミス以外には相談しにくいよ…。エアロはなんだか怒りそうだし、陛下は相談にならなそうだし…。あの人は恋愛ごとに失敗したことがないから…。」
「僕たちって似た者同士なのかもね…。自分に自信がなくって。」
スミスはあの晩、遅くまで剣の練習をする親友を眺めていた。
同じ学園で出会った、運命の番。
運命の番だからってわけじゃないけど、スミスは彼の人間性に惹かれている。
努力家でおおらかな、太陽みたいな。
ケニー=ブライアン辺境伯令息。
でも、自分に自信がなくて。
地味で眼鏡でちびの、なんのとりえもない、公爵家のみそっかす。
こんな自分が、ゆくゆくは騎士団長として国の英雄になろうという彼の伴侶に相応しいと思えない。
自分が運命の番ですなんて、運命を免罪符に彼にすり寄ることもおこがましい。
フェロモンの匂いを消すように、いつも香料の強い香水でごまかした。
でも、どうしても諦めきれない。
せめて、遠くから見ていたい。
そう思って、穴場スポットだった城の廊下で彼を見ていた。
傷のなめ合いかもしれないけれど、アーサーが心情を理解して寄り添ってくれただけで、心強く感じたのだ。
「どうぞ、何があったのですか?」
「仕事が忙しいのは確かなんだけど…。なかなかローゼと一緒にいられる時間がとれなくて。そうしたら、暫く伯父上のところにいるって、城を出て行ってしまったんだ。」
「えっ……。たいへんじゃないですか!」
「仕事をしに城へは通っているみたいなんだ。でも、避けられているみたいで、ここのところずっと会えていない。やっぱり、私がへたれで初夜がきちんとできていないから呆れられているんだろうか。」
「王太子妃殿下に限って、一度や二度の閨の失敗くらいで呆れるってことはないと思いますよ。慈愛の塊みたいな方じゃないですか!」
「うぅ…。」
「早く迎えに行くべきですよ!」
「あ!今日は王太子殿下が視察ですか?」
張りのある声。
「ケニー!」
想い人の出現に、スミスの頬はさっと桃色に染まった。
「今日は?」
アーサーはケニーのセリフに引っかかる。
「昨日、王太子妃殿下が視察に来られてて、特にスミスの働きぶりを見て感心されていたのです。お忍びだったのか、柱の影に隠れてごらんになっていたので、小声でお声をかけたのです。」
「王太子妃殿下がぼくを!!?」
も……もしかして…。
さぁっと、スミスは顔色を青くした。
アーサー!!!きょとんとしないでっ!
「えっ。僕でいいのかな…。」
騎士団の演習場で備品の整理をしているところへ押しかけるようになってしまったアーサーは、申し訳なさに顔を覆いながら項垂れた。
「こんなことスミス以外には相談しにくいよ…。エアロはなんだか怒りそうだし、陛下は相談にならなそうだし…。あの人は恋愛ごとに失敗したことがないから…。」
「僕たちって似た者同士なのかもね…。自分に自信がなくって。」
スミスはあの晩、遅くまで剣の練習をする親友を眺めていた。
同じ学園で出会った、運命の番。
運命の番だからってわけじゃないけど、スミスは彼の人間性に惹かれている。
努力家でおおらかな、太陽みたいな。
ケニー=ブライアン辺境伯令息。
でも、自分に自信がなくて。
地味で眼鏡でちびの、なんのとりえもない、公爵家のみそっかす。
こんな自分が、ゆくゆくは騎士団長として国の英雄になろうという彼の伴侶に相応しいと思えない。
自分が運命の番ですなんて、運命を免罪符に彼にすり寄ることもおこがましい。
フェロモンの匂いを消すように、いつも香料の強い香水でごまかした。
でも、どうしても諦めきれない。
せめて、遠くから見ていたい。
そう思って、穴場スポットだった城の廊下で彼を見ていた。
傷のなめ合いかもしれないけれど、アーサーが心情を理解して寄り添ってくれただけで、心強く感じたのだ。
「どうぞ、何があったのですか?」
「仕事が忙しいのは確かなんだけど…。なかなかローゼと一緒にいられる時間がとれなくて。そうしたら、暫く伯父上のところにいるって、城を出て行ってしまったんだ。」
「えっ……。たいへんじゃないですか!」
「仕事をしに城へは通っているみたいなんだ。でも、避けられているみたいで、ここのところずっと会えていない。やっぱり、私がへたれで初夜がきちんとできていないから呆れられているんだろうか。」
「王太子妃殿下に限って、一度や二度の閨の失敗くらいで呆れるってことはないと思いますよ。慈愛の塊みたいな方じゃないですか!」
「うぅ…。」
「早く迎えに行くべきですよ!」
「あ!今日は王太子殿下が視察ですか?」
張りのある声。
「ケニー!」
想い人の出現に、スミスの頬はさっと桃色に染まった。
「今日は?」
アーサーはケニーのセリフに引っかかる。
「昨日、王太子妃殿下が視察に来られてて、特にスミスの働きぶりを見て感心されていたのです。お忍びだったのか、柱の影に隠れてごらんになっていたので、小声でお声をかけたのです。」
「王太子妃殿下がぼくを!!?」
も……もしかして…。
さぁっと、スミスは顔色を青くした。
アーサー!!!きょとんとしないでっ!
12
お気に入りに追加
317
あなたにおすすめの小説
琥珀いろの夏 〜偽装レンアイはじめました〜
桐山アリヲ
BL
大学2年生の玉根千年は、同じ高校出身の葛西麟太郎に3年越しの片想いをしている。麟太郎は筋金入りの女好き。同性の自分に望みはないと、千年は、半ばあきらめの境地で小説家の深山悟との関係を深めていく。そんなある日、麟太郎から「女よけのために恋人のふりをしてほしい」と頼まれた千年は、断りきれず、周囲をあざむく日々を送る羽目に。不満を募らせた千年は、初めて麟太郎と大喧嘩してしまい、それをきっかけに、2人の関係は思わぬ方向へ転がりはじめる。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
旧題:オメガの猫獣人
「後1年、か……」
レオンの口から漏れたのは大きなため息だった。手の中には家族から送られてきた一通の手紙。家族とはもう8年近く顔を合わせていない。決して仲が悪いとかではない。むしろレオンは両親や兄弟を大事にしており、部屋にはいくつもの家族写真を置いているほど。けれど村の風習によって強制的に村を出された村人は『とあること』を成し遂げるか期限を過ぎるまでは村の敷地に足を踏み入れてはならないのである。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
落第騎士の拾い物
深山恐竜
BL
「オメガでございます」
ひと月前、セレガは医者から第三の性別を告知された。将来は勇猛な騎士になることを夢見ていたセレガは、この診断に絶望した。
セレガは絶望の末に”ドラゴンの巣”へ向かう。そこで彼は騎士見習いとして最期の戦いをするつもりであった。しかし、巣にはドラゴンに育てられたという男がいた。男は純粋で、無垢で、彼と交流するうちに、セレガは未来への希望を取り戻す。
ところがある日、発情したセレガは男と関係を持ってしまって……?
オメガバースの設定をお借りしています。
ムーンライトノベルズにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる