8 / 78
婚約者になったのに
しおりを挟む
「やぁ、義理の息子よ。どうだい、王妃教育は進んでいるのかい?進んでいるのだろうね、君のことだから。」
あれから俺と王太子になったアーサーはめでたく婚約者同士となり、俺は王太子の婚約者として将来の王妃教育を受けるため、店の経営をしながら城へ通っている。
イスリスはすっかりメッキが剥がれて塔に押し込められたし、その母親と元ラム伯爵家の一族は平民になって農場へ送られた。
アムール伯爵家は伯爵家のままだけどワイズマン家が乗っ取ったようなもので、伯爵夫人やその子どもたちは特に肩身の狭い想いをしているとか。
カリスはワイズマン家の派遣した事務員の下で事務仕事や営業をさせてみたけれど、全く使い物にならなくて、『アルファの癖に。やっぱりアルファだから優秀だというのは間違ったソースらしいですね。』とベータの職員に言われてブチ切れ、今ではマリアンヌ夫人や妹のマリエッタと一緒にお母様の開発する化粧品や毛髪の染料の治験者になっているようだ。最終的には治るだろうけど、自慢の肌や髪は荒れるだろう。
「ええ、あと1週間もあれば終わるんじゃないですかね。それから陛下、まだアーサーとは『婚約者』ですので…。」
「固いこというな。どうせあっという間に結婚式だ。だが……まあ、そうだな。イスリスの派閥は復権を企んでるし、どうせ大したこたできねぇだろうが、お前の元婚約者は今更お前に執着してるみたいだし。まだまだ波乱は続きそうだ。よその国の王族や有力貴族も、アーサーとの縁談を破談にさせてお前に取り入ろうとしているみたいだぜ。気を付けろよ。」
自分の妃と一応子どもを切り捨てたというのに、全く気にも留めていない。
いや、本当は最初から愛していたのは、アーサーとその母親である前正妃様だったのだ。
にっと笑う陛下は不敵だ。
陛下の仮面を取り払った彼は、先代勇者で、本来王位には彼の兄がつく予定だったのだという。
自由奔放に諸国を渡り、冒険者として名を馳せ、婚約者の公爵令嬢をヒーラーにして連れまわし(いや、聖女たる彼女が望んでいたのかもしれないが)、気が付けば名誉を得てしまい、国民の人気が後押しして、兄から王位を奪ってしまう形になった。
「はぁ…。それ程先を見通せて、どうしてラム伯爵家から妃をとったんです。側妃をとるにせよ、もっとマシな家もあったでしょうに。」
「仕方ねぇだろ?それが最善な未来だったんだ。結局、オデットは早逝しちまったけどさ。」
聖女・オデット。スワン公爵家の令嬢で、聖女…。アーサーの母親。
『未来』とはいったい。陛下は先読みができるのか?
「俺は特異点だ。何度もやり直しをしているんだよ。やりすぎてもうやり直しはできないけどな。」
別の誰かが特異点になれば別かもしれないが…。と陛下は呟いた。
陛下でなければ頭がおかしくなったかとしか思われない言葉だ。
「特異点?」
「そうだ。ある時間軸では、アーサーの性格はあんなふうじゃなかったさ。どちらかといえば俺に似ていたかな。あいつの自尊心を砕き、自信をなくさせたのはラム伯爵家の陰謀であり、オディールやイスリスだ。おっと、わかっているならなんで助けなかったか、っていいたそうだな?あいつらをどうにかしようとしたことはあったぞ?だけど、どんなに手を尽くしてもアーサーは暗殺されてしまった。オデットもそうだ。オディールと結婚をしないようにしたこともある。だが、あれらはライバルになりそうな令嬢を害していったし、オデットもその過程で少女時代に殺されてしまった。妃にだけしてイスリスを作らないようにしても、その場合もオデットとアーサーは殺された。結局、国民や本当に大事なものへの被害を最小限にするためには、大人しく妃にして、監視するしかなかった。」
因みに、あんな女抱けるわけがないから、幻覚を見せて男娼に抱かせたんだけどな。
「はぁ。イスリスは陛下の子ではなかったのですね。」
「本当は俺の子じゃなく男娼の子だと教えてやらなかっただけでも感謝してほしい。」
陛下と別れ、俺はアーサーのもとへ行く。
婚約者だからな。
お茶会だ。
「や、やぁ、ろ、ろーぜっ。」
前髪を綺麗に整えて、王子様然とした美形がいるが、性格というものはそんなに簡単に直るものではない。
たとえ、歪められたものだとしても。
菫色の瞳はまっすぐ俺を見つめるが、どこかオドオドしている。
白い生地に金糸で縁取られた衣服は上質で、シミやほつれ一つなく、彼を侮っていたラム伯爵の息がかかった使用人は全て解雇され、入れ替えられたことが分かった。
彼の母親がつくった薔薇園のテーブルセットに腰掛けようとすれば、彼は自ら椅子を引いてくれた。
「会いたかったよ、アーサー。聞いてくれ、見立てではあと1週間で妃教育も終わる。」
「すごい!さすがローゼは優秀だね!」
「だから、結婚式もすぐにできる。式の準備さえできればね。」
「ち、父から3か月後はどうかと。僕たちも参列者も準備が必要、だから、って…。それで、ね、あの…。」
「ふふ。アーサーは本当に可愛い。」真っ赤に熟れて。トマトみたいだ。
「かっ、かわっ…。」はわわわ!
「……俺のことはどう思ってるの?」
「………ローゼは、きれい…。」
すっと手を握る。
「俺たちの結婚式の準備について、話そう?アーサーの宮に連れて行ってよ。」
「う、うん…。」
手を繋いで。すこし冷えてきた庭を後にする。
お揃いの服を着て、アクセサリーをつけて。みんなから祝福されて、素敵な結婚式にしよう。
「婚約者なんだから、キスくらいしてもいいんだよ?」
「えっ。」
がんばります、と答えが返って来た。
あれから俺と王太子になったアーサーはめでたく婚約者同士となり、俺は王太子の婚約者として将来の王妃教育を受けるため、店の経営をしながら城へ通っている。
イスリスはすっかりメッキが剥がれて塔に押し込められたし、その母親と元ラム伯爵家の一族は平民になって農場へ送られた。
アムール伯爵家は伯爵家のままだけどワイズマン家が乗っ取ったようなもので、伯爵夫人やその子どもたちは特に肩身の狭い想いをしているとか。
カリスはワイズマン家の派遣した事務員の下で事務仕事や営業をさせてみたけれど、全く使い物にならなくて、『アルファの癖に。やっぱりアルファだから優秀だというのは間違ったソースらしいですね。』とベータの職員に言われてブチ切れ、今ではマリアンヌ夫人や妹のマリエッタと一緒にお母様の開発する化粧品や毛髪の染料の治験者になっているようだ。最終的には治るだろうけど、自慢の肌や髪は荒れるだろう。
「ええ、あと1週間もあれば終わるんじゃないですかね。それから陛下、まだアーサーとは『婚約者』ですので…。」
「固いこというな。どうせあっという間に結婚式だ。だが……まあ、そうだな。イスリスの派閥は復権を企んでるし、どうせ大したこたできねぇだろうが、お前の元婚約者は今更お前に執着してるみたいだし。まだまだ波乱は続きそうだ。よその国の王族や有力貴族も、アーサーとの縁談を破談にさせてお前に取り入ろうとしているみたいだぜ。気を付けろよ。」
自分の妃と一応子どもを切り捨てたというのに、全く気にも留めていない。
いや、本当は最初から愛していたのは、アーサーとその母親である前正妃様だったのだ。
にっと笑う陛下は不敵だ。
陛下の仮面を取り払った彼は、先代勇者で、本来王位には彼の兄がつく予定だったのだという。
自由奔放に諸国を渡り、冒険者として名を馳せ、婚約者の公爵令嬢をヒーラーにして連れまわし(いや、聖女たる彼女が望んでいたのかもしれないが)、気が付けば名誉を得てしまい、国民の人気が後押しして、兄から王位を奪ってしまう形になった。
「はぁ…。それ程先を見通せて、どうしてラム伯爵家から妃をとったんです。側妃をとるにせよ、もっとマシな家もあったでしょうに。」
「仕方ねぇだろ?それが最善な未来だったんだ。結局、オデットは早逝しちまったけどさ。」
聖女・オデット。スワン公爵家の令嬢で、聖女…。アーサーの母親。
『未来』とはいったい。陛下は先読みができるのか?
「俺は特異点だ。何度もやり直しをしているんだよ。やりすぎてもうやり直しはできないけどな。」
別の誰かが特異点になれば別かもしれないが…。と陛下は呟いた。
陛下でなければ頭がおかしくなったかとしか思われない言葉だ。
「特異点?」
「そうだ。ある時間軸では、アーサーの性格はあんなふうじゃなかったさ。どちらかといえば俺に似ていたかな。あいつの自尊心を砕き、自信をなくさせたのはラム伯爵家の陰謀であり、オディールやイスリスだ。おっと、わかっているならなんで助けなかったか、っていいたそうだな?あいつらをどうにかしようとしたことはあったぞ?だけど、どんなに手を尽くしてもアーサーは暗殺されてしまった。オデットもそうだ。オディールと結婚をしないようにしたこともある。だが、あれらはライバルになりそうな令嬢を害していったし、オデットもその過程で少女時代に殺されてしまった。妃にだけしてイスリスを作らないようにしても、その場合もオデットとアーサーは殺された。結局、国民や本当に大事なものへの被害を最小限にするためには、大人しく妃にして、監視するしかなかった。」
因みに、あんな女抱けるわけがないから、幻覚を見せて男娼に抱かせたんだけどな。
「はぁ。イスリスは陛下の子ではなかったのですね。」
「本当は俺の子じゃなく男娼の子だと教えてやらなかっただけでも感謝してほしい。」
陛下と別れ、俺はアーサーのもとへ行く。
婚約者だからな。
お茶会だ。
「や、やぁ、ろ、ろーぜっ。」
前髪を綺麗に整えて、王子様然とした美形がいるが、性格というものはそんなに簡単に直るものではない。
たとえ、歪められたものだとしても。
菫色の瞳はまっすぐ俺を見つめるが、どこかオドオドしている。
白い生地に金糸で縁取られた衣服は上質で、シミやほつれ一つなく、彼を侮っていたラム伯爵の息がかかった使用人は全て解雇され、入れ替えられたことが分かった。
彼の母親がつくった薔薇園のテーブルセットに腰掛けようとすれば、彼は自ら椅子を引いてくれた。
「会いたかったよ、アーサー。聞いてくれ、見立てではあと1週間で妃教育も終わる。」
「すごい!さすがローゼは優秀だね!」
「だから、結婚式もすぐにできる。式の準備さえできればね。」
「ち、父から3か月後はどうかと。僕たちも参列者も準備が必要、だから、って…。それで、ね、あの…。」
「ふふ。アーサーは本当に可愛い。」真っ赤に熟れて。トマトみたいだ。
「かっ、かわっ…。」はわわわ!
「……俺のことはどう思ってるの?」
「………ローゼは、きれい…。」
すっと手を握る。
「俺たちの結婚式の準備について、話そう?アーサーの宮に連れて行ってよ。」
「う、うん…。」
手を繋いで。すこし冷えてきた庭を後にする。
お揃いの服を着て、アクセサリーをつけて。みんなから祝福されて、素敵な結婚式にしよう。
「婚約者なんだから、キスくらいしてもいいんだよ?」
「えっ。」
がんばります、と答えが返って来た。
33
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。
オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。
結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった
釦
BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。
にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる