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カルテ24:アヤじゃなきゃ嫌だ
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突風が治まって目を開けると、そこは今までいた大学の丘ではなく。
広い神社の中のような、日本家屋。
赤くて太い柱のある、屋敷。
その、中だった。
ザッと白装束の人たちが俺に膝をつく。
「新しい『長』様。おめでとうございます。これより引継ぎの儀を始めたく存じます。」
「長?長は狐太郎様でしょう?」
「狐太郎様は歴代の中で最も長く長を務めました。長を務めるに足る後継者が生まれたからには、長を引退します。」
「帰して。俺はまだ学生だし――――――」
「長さまに外の世界は不要でございます。」
「長さまの務めはこの地にいて、結界の管理をすることでありますれば。」
「俺には……伴侶が…」
「人間の伴侶など長さまには不要でございます。神族の頂点となる貴き方の伴侶に人間など相応しくありません。」
「人間を娶れば、外の世界に傾倒してしまうでしょう?長さまはカミ島のことだけを考えておればいいのです。」
「人間など薄情なもの。しばらくすれば長さまのことなど忘れて他の者と番うでしょう、そのような不義理な者、忘れておしまいになった方が長さまのためでございますよ。今なら傷は浅い。」
「俺は―――アヤがっ
「長さまのお相手は雄がよろしいのですよね。やんごとなき家系から選りすぐりの美形を選びましょう。」
「拒否する!」
「貴方に拒否権はございませぬ。長の身の回りのことは全て我らに権限がございます。貴方はただ結界に力を注いでおればいいのです。」
「狐太郎様は抱く側だったから思い通りにいきませんでしたが、抱かれる側ならば簡単。優しくお姫様のように抱いてくれますよ。すぐに虜になるでしょう。」
「ややもすぐにできるでしょうな。狐太郎様は最近は妻に手をつけませんなんだからな。」
いやだ、いやだ、いやだ…!!!
「あっ!長さま!」
屋敷のふすまを開ける。どこまでいっても同じようなふすま。
本当に逃げられないのだろうか。
ぽすっと、何か柔らかいものに当たった。
「おや、あらまぁ。貴方様が新しい長さまですね。」
「まぁまぁ、なんて可愛らしい方かしら。」
凄くきれいな、40代くらいのご婦人たち。
その部屋の中では、5人のご婦人たちが引っ越しの準備をしているようだった。
「貴方たちは?」
「私たちは狐太郎様の妻ですわ。とはいっても、あの方は指一本触れませんでしたが。」
「元々あの方は妻を娶りたくないと仰っていたらしいですわ。あの白装束らが私たちをこんな女の巣に押し込めて。」
「岐里は貴方の侍従だったでしょう?あの子に意地悪して悪かったと思ってるわ。でも、そうでもしないとあの子だけでも自由になれないでしょう?実家から縁を切られて行き場のない私たちと違って、あの子には行き場がありましたもの。」
「狐太郎様は、私たちに新しい居場所と充分な生活費を用意してくださったの。だから、これから新しい人生の始まり。欲を言えば、もう少し若い頃ならね…。まだぎりぎり出産可能とはいえ、もうフリーの殿方の相手になるような年でもないし。愛人や後妻は嫌ですもの。」
そうなんだ…。
「じゃあ、少し、若くなる?」
俺の権能は時間の操作。もう既に消失しているものの時間は変えられないけれど。
手に力を籠めると、ほわほわした光が出る。
奥様達を包むように広がり、彼女たちは若返った。
「きゃああ!嬉しい!嫁いできたころのようよ!」
「これでひと花咲かせられるわ!」
とたとた、と足音が聞こえてくる。
あいつらだ!
「長さま、運命は変えられないかもしれない。アイツらからは逃げられない。だけれど、少しの間、心の整理をする時間くらいは私たちが守ってあげます。」
「さ、狐太郎様のところへ。ここが入口ですよ。」
奥様達とあの白い人たちの声が聞こえる。
その声が遠くなる先に、狐太郎様の本体があった。
広い神社の中のような、日本家屋。
赤くて太い柱のある、屋敷。
その、中だった。
ザッと白装束の人たちが俺に膝をつく。
「新しい『長』様。おめでとうございます。これより引継ぎの儀を始めたく存じます。」
「長?長は狐太郎様でしょう?」
「狐太郎様は歴代の中で最も長く長を務めました。長を務めるに足る後継者が生まれたからには、長を引退します。」
「帰して。俺はまだ学生だし――――――」
「長さまに外の世界は不要でございます。」
「長さまの務めはこの地にいて、結界の管理をすることでありますれば。」
「俺には……伴侶が…」
「人間の伴侶など長さまには不要でございます。神族の頂点となる貴き方の伴侶に人間など相応しくありません。」
「人間を娶れば、外の世界に傾倒してしまうでしょう?長さまはカミ島のことだけを考えておればいいのです。」
「人間など薄情なもの。しばらくすれば長さまのことなど忘れて他の者と番うでしょう、そのような不義理な者、忘れておしまいになった方が長さまのためでございますよ。今なら傷は浅い。」
「俺は―――アヤがっ
「長さまのお相手は雄がよろしいのですよね。やんごとなき家系から選りすぐりの美形を選びましょう。」
「拒否する!」
「貴方に拒否権はございませぬ。長の身の回りのことは全て我らに権限がございます。貴方はただ結界に力を注いでおればいいのです。」
「狐太郎様は抱く側だったから思い通りにいきませんでしたが、抱かれる側ならば簡単。優しくお姫様のように抱いてくれますよ。すぐに虜になるでしょう。」
「ややもすぐにできるでしょうな。狐太郎様は最近は妻に手をつけませんなんだからな。」
いやだ、いやだ、いやだ…!!!
「あっ!長さま!」
屋敷のふすまを開ける。どこまでいっても同じようなふすま。
本当に逃げられないのだろうか。
ぽすっと、何か柔らかいものに当たった。
「おや、あらまぁ。貴方様が新しい長さまですね。」
「まぁまぁ、なんて可愛らしい方かしら。」
凄くきれいな、40代くらいのご婦人たち。
その部屋の中では、5人のご婦人たちが引っ越しの準備をしているようだった。
「貴方たちは?」
「私たちは狐太郎様の妻ですわ。とはいっても、あの方は指一本触れませんでしたが。」
「元々あの方は妻を娶りたくないと仰っていたらしいですわ。あの白装束らが私たちをこんな女の巣に押し込めて。」
「岐里は貴方の侍従だったでしょう?あの子に意地悪して悪かったと思ってるわ。でも、そうでもしないとあの子だけでも自由になれないでしょう?実家から縁を切られて行き場のない私たちと違って、あの子には行き場がありましたもの。」
「狐太郎様は、私たちに新しい居場所と充分な生活費を用意してくださったの。だから、これから新しい人生の始まり。欲を言えば、もう少し若い頃ならね…。まだぎりぎり出産可能とはいえ、もうフリーの殿方の相手になるような年でもないし。愛人や後妻は嫌ですもの。」
そうなんだ…。
「じゃあ、少し、若くなる?」
俺の権能は時間の操作。もう既に消失しているものの時間は変えられないけれど。
手に力を籠めると、ほわほわした光が出る。
奥様達を包むように広がり、彼女たちは若返った。
「きゃああ!嬉しい!嫁いできたころのようよ!」
「これでひと花咲かせられるわ!」
とたとた、と足音が聞こえてくる。
あいつらだ!
「長さま、運命は変えられないかもしれない。アイツらからは逃げられない。だけれど、少しの間、心の整理をする時間くらいは私たちが守ってあげます。」
「さ、狐太郎様のところへ。ここが入口ですよ。」
奥様達とあの白い人たちの声が聞こえる。
その声が遠くなる先に、狐太郎様の本体があった。
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