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カルテ16:長様と岐里

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「お、お帰りなさいませ!狛様、文様!」


いつも楚々としている岐里が着乱れた和装で現れる。


「岐里?どうしたの。それに長さま………」
そんな追剥に遭ったような格好で…。


「だって暇なんじゃもん。岐里も帰ってこんし。」


長様はポンと金色の狐耳と9本の尻尾を出して、ソファの上であぐらをかいた。

「?」

「何じゃ知らんのか。岐里はワシの嫁じゃ。」

「えっ。伴侶は人間を連れてくるのではないですか?」

それに…長の嫁なのに、何故岐里はうちの侍従を?
元々そうだとしても、普通は辞めるよね?


「長の役目は島とこの世界を繋ぎつつ、外界から切り離すことじゃ。カミ島の核と言ってもいい。代々、血筋の中に現れる『長を継ぐ者』に役目を継いでいく。そして、役目を継ぐまで長の時間は止まるのじゃ。」

長は勝手に台所の冷蔵庫を開け、缶ビールを開けた。

プシュっ。


「ぷはっ!酒も美味くなったのぅ!」


「狐太郎様っ!………この話はもうやめましょう。文様もこれから仕事がありますから。文様は軽く、でよろしいですね。」


「なんだか疑問が消えないんだけど…。」

ちらりとアヤを見る。


伴侶はアヤが、いい。

――――――俺じゃなくていいなら、同じ種族同士の方がいいんじゃないか?
そう言われるのが怖い。

表情を変えないアヤは、どう思っているんだろう。






「何っ!酒を呑むのが仕事とな!なんと羨ましい!そんな天国のような仕事がこの世にあるとは。」

「嫌な相手でもニコニコ、話を聞いてやるのが仕事ですし。何も考えてねぇわけじゃないですよ。」

「わしもやる!やりたい!!」


蟒蛇のような長さまは、アヤにくっついてバイト先に向かってしまった。



「ねえ、岐里。なんで長さまのお嫁さんなの?」

食器洗いを手伝いながら、隣の岐里に尋ねる。

「長さまだけは外に出られません。あの島が存在するために重要な存在だからこそ、『長』になった瞬間から拘束される。外に伴侶を探しに行って、そのまま帰ってこなくなったら困るから……。『長』は中で伴侶を迎えるのです。神族同士では出生率が低いですからね。なるべく強い力を持った者で家を継がない者が伴侶に選ばれます。私の他にも妻はいますよ。」

私なんて、端っこの妻ですから。嫁いでもそのまま、白犬家で侍従をしているのです。


「……そうなんだ。その割には、長さまは岐里が大好きみたいだったけど。」


「長さまの屋敷には、私の他の5人の奥方がいらっしゃいます。あんなところにいたくありません。それに、私は狛さまの成長を見守ってまいりました。私の大切な狛様が幸せになるのを見るまでは、白犬家を離れたくありませんよ。」

岐里ありがとう。大好き。


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