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カルテ14:穏やかな日々が育む

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「まーた今日もこっち来てる。」


バイトから帰って布団を捲ると、コマが丸くなって眠っている。

可愛いな…。



コマを抱いて眠ると、悪夢を見なくて済む。
コマに癒されている自分がいる。


たくさんの助けられなかった犬や猫の死骸。

檻の中で重なって。

乱雑に埋められる彼らの顔。


焼き付いて離れなくて、臨床でも罪のない命を殺すことになるんだと思うと、フラッシュバックが起きて、吐き気がした。

分かってる。


臨床とそれとは違うって。

獣医になるなら、仕方のないことなんだって。

そのための命を、これから救う命のために活かさなければならない。
そこまでして学ぶからには、立派な獣医にならなければ。


俺は甘いのだ。



施設上がりで碌な定職にもつかず、その日暮らしをしていた俺には貯金もないし、頼れる親も親族もいないから、割のいいバイトで自分で学費と生活費を工面している。

今は生活をこいつの家が面倒見てくれて助かっているけど、やっぱり学費を貯金しておきたいからバイトは続けている。

暴走族時代に親身になってくれた先輩の店だから、融通してもらえて助かっている。



岐里さんに分かりやすい嫉妬をしてくれやがって。

少しは俺のこと、好きだって思ってもいいか?





「お前、俺がお前のこと好きになったって言ったら。どんな顔すんのかな…。」




ベッドに入って抱きしめる。

人型になっても引っ込まない耳と尾。

これもいつか自在に出し入れできるようになるんだろう。


ぎゅっと抱きしめると、ぺろ、と鼻を舐められた。


裸で同じベッドに寝てるのに、何もしない自分を褒めてほしい。











マンションの外では浮浪者が見上げている。

「文……、いい暮らししてんなぁ…。母さんは死んだ。俺くらい助けてくれてもいいんじゃないか…。」

通りかかるのを捕まえようと待ち構えているが、なかなかうまくいかない。
子どものくせに、俺だって気づかない。


チッと舌打ちをしながらねぐらの公園に向かうと、泣き黒子のある艶っぽい和服の男が立っていた。


「文様の妨げになるような危険分子は排除せねばなりません。」


「お前…!!??…は、これは親子の問題だ、あいつがどんな金持ちとねんごろになったか知らねぇが、余裕があるなら親を援助して当たり前だろう!」

「貴方は親ではありません。あなた方は、子どもの頃から文様を虐待していたではありませんか。動物にするやつは人にもする。特に、自分より弱い者に。子ども、とかね。奥方が死んだのもあなたのせいでは?出所してから働かず、奥方だけを朝から晩まで働かせて――――――――


「は、排除って…何をする気だ……!」


岐里は右手を男の額に当てた。


「デリート。」


「ふ、あ………。」


力なく崩れ落ちた男をねぐらに座らせ、岐里は去った。


コマの母親の権能は、物の形を変えることと、物質を転移すること。

岐里の権能は、「人」の記憶を改ざんすること。


神族には使えない上、危険なため長に管理されている力だが、主のためなら使うことができる。



「ああ、手が汚れてしまいました。」

岐里は呟く。


嫌な予感がする。
暇を持て余した自分の夫が、きっと来る。

あの人にも困ったものだ。


あの人が関わりたがる前に、こいつを片づけて正解だ。

もう、こいつは二人の前に姿を現さないだろう。
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