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聖女
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「なによ………私はいつだって幸せになりたいだけだった。なのに?処刑?私は死ぬの?」
暗い独房の中で、乱れ髪の薄汚れた女は声を震わせた。
私はヒロイン。
聖女なのに…。
「母さんが書いた手紙を陛下らに届けるよ。廃嫡した王子と罪を犯したふしだらな元聖女の子なんて、死刑かよくても生涯幽閉だろうね。血を残したくないだろうし、孕み腹にもならない。母さんは姉さんみたいに悪質じゃなかった。結果として貴族社会を混乱はさせたけど、母さんが当時唱えた平等の理念は、医療や教育に反映されている。令息同士で取りあいになって、女王様扱いになったから国家反逆罪になっただけだ。」
「婚約者がいる人に手を出したのは一緒よ………。」
母さんもヒロインだったはずなのに断罪された。
だけど当時陥落した人たちの孕み腹になっただけで、攻略対象の子を産んで許されている。
手元には私とルリアナだけしか残らなかったけど、事実婚状態の元王子の父親は生活と生計を営む場を整えるくらいの資産はあったし、生活に困ることなくそれなりに幸せに見えた。
王妃になれなかっただけで、ある意味ハーレムエンドだった。
それなのに、私は処刑!?
「姉さんはテロリストだよ。魔物までけしかけるなんて。魔物の血を回収して納めている商人を色仕掛けで騙して、納品させずに隠し持ったんだろ?浄化の力を特訓したいとか言い張って。」
冷ややかに見下ろす弟に、ぐっと言葉が詰まる。
「そんな風だから聖女の力も微妙なんだ。母さんの力はああ見えても本物なのに。姉さんが力が弱いのは、心が醜いから。いつも自分のことしか考えない。姉さんはね、誰も愛していないんだよ。愛してるのは自分だけ。」
ルリアナの目から涙が一筋落ちたが、暗がりのためにミリアナは気づかなかった。
壁際に立って様子を見ていたケインだけが気づく。
このルリアナはまともな性質のようだ。
親に罪がなければ王子だっただろうに。
シェルが教育したのだろうか。
立ち居振る舞いや雰囲気は平民のそれではない。
「いい?姉さん。残酷なことを言ってあげる。姉さんが落とそうとしたアーモンド隊長はね、ピンキー男爵令息の親友の一人だよ。姉さんが狙った人はみんなみーんな、姉さんが嫌だって。ワイル様はアーモンド隊長の婚約者になったよ。姉さんのことはもう知らない。父さんも母さんも、姉さんなんかもう知らないって。ピンキー男爵も養子関係を解いたよ。姉さんにはもう、なんにもないの。誰も、姉さんを愛さない。だってそうだよね、姉さんが誰も愛していないんだもの。愛してくれない人を愛するわけないよね。」
母さんの言うことを聞いて、真面目に普通に生きていれば。
養女になった先で男爵の家族と仲良くなっていれば。
愛してくれた人はいただろうに。
「あ、ああぁああぁ…。」
視点が定まらなくなり、頭を抱えるミリアナを置いて、ルリアナは踵を返した。
(バイバイ、姉さん。………いや、おかあさん。どんなにひどい貴方でも、今世こそは愛されたかった。でもやっとわかった。僕が虐待されていたのは、愛してもらえなかったのは、僕が悪かったんじゃない。貴方には元々愛がないんだ。)
父さんも母さんもいて、今の両親は愛してくれる。
「騎士様、ありがとうございました。それでは私は帰ります。手紙をよろしくお願いいたします。『予言の聖女』の手紙です。あの人は罪は犯しましたけど、腕は確かですから。この国のためにお納めくださいませ。」
優雅なカーテンシー。淑女の笑みを浮かべて、ルリアナは地下牢の階段を上がった。
ケインもともに上り、見送る。
騎士団近くの飲み屋で両親と働いていると聞いて、そのうち行こうと思った。
下から女のものと思えない咆哮が響く。
暗い独房の中で、乱れ髪の薄汚れた女は声を震わせた。
私はヒロイン。
聖女なのに…。
「母さんが書いた手紙を陛下らに届けるよ。廃嫡した王子と罪を犯したふしだらな元聖女の子なんて、死刑かよくても生涯幽閉だろうね。血を残したくないだろうし、孕み腹にもならない。母さんは姉さんみたいに悪質じゃなかった。結果として貴族社会を混乱はさせたけど、母さんが当時唱えた平等の理念は、医療や教育に反映されている。令息同士で取りあいになって、女王様扱いになったから国家反逆罪になっただけだ。」
「婚約者がいる人に手を出したのは一緒よ………。」
母さんもヒロインだったはずなのに断罪された。
だけど当時陥落した人たちの孕み腹になっただけで、攻略対象の子を産んで許されている。
手元には私とルリアナだけしか残らなかったけど、事実婚状態の元王子の父親は生活と生計を営む場を整えるくらいの資産はあったし、生活に困ることなくそれなりに幸せに見えた。
王妃になれなかっただけで、ある意味ハーレムエンドだった。
それなのに、私は処刑!?
「姉さんはテロリストだよ。魔物までけしかけるなんて。魔物の血を回収して納めている商人を色仕掛けで騙して、納品させずに隠し持ったんだろ?浄化の力を特訓したいとか言い張って。」
冷ややかに見下ろす弟に、ぐっと言葉が詰まる。
「そんな風だから聖女の力も微妙なんだ。母さんの力はああ見えても本物なのに。姉さんが力が弱いのは、心が醜いから。いつも自分のことしか考えない。姉さんはね、誰も愛していないんだよ。愛してるのは自分だけ。」
ルリアナの目から涙が一筋落ちたが、暗がりのためにミリアナは気づかなかった。
壁際に立って様子を見ていたケインだけが気づく。
このルリアナはまともな性質のようだ。
親に罪がなければ王子だっただろうに。
シェルが教育したのだろうか。
立ち居振る舞いや雰囲気は平民のそれではない。
「いい?姉さん。残酷なことを言ってあげる。姉さんが落とそうとしたアーモンド隊長はね、ピンキー男爵令息の親友の一人だよ。姉さんが狙った人はみんなみーんな、姉さんが嫌だって。ワイル様はアーモンド隊長の婚約者になったよ。姉さんのことはもう知らない。父さんも母さんも、姉さんなんかもう知らないって。ピンキー男爵も養子関係を解いたよ。姉さんにはもう、なんにもないの。誰も、姉さんを愛さない。だってそうだよね、姉さんが誰も愛していないんだもの。愛してくれない人を愛するわけないよね。」
母さんの言うことを聞いて、真面目に普通に生きていれば。
養女になった先で男爵の家族と仲良くなっていれば。
愛してくれた人はいただろうに。
「あ、ああぁああぁ…。」
視点が定まらなくなり、頭を抱えるミリアナを置いて、ルリアナは踵を返した。
(バイバイ、姉さん。………いや、おかあさん。どんなにひどい貴方でも、今世こそは愛されたかった。でもやっとわかった。僕が虐待されていたのは、愛してもらえなかったのは、僕が悪かったんじゃない。貴方には元々愛がないんだ。)
父さんも母さんもいて、今の両親は愛してくれる。
「騎士様、ありがとうございました。それでは私は帰ります。手紙をよろしくお願いいたします。『予言の聖女』の手紙です。あの人は罪は犯しましたけど、腕は確かですから。この国のためにお納めくださいませ。」
優雅なカーテンシー。淑女の笑みを浮かべて、ルリアナは地下牢の階段を上がった。
ケインもともに上り、見送る。
騎士団近くの飲み屋で両親と働いていると聞いて、そのうち行こうと思った。
下から女のものと思えない咆哮が響く。
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