4 / 144
可愛い弟分
しおりを挟む
「びっくりするくらい、少ない荷物でしたね。」
カカは、眠ってしまったリリアンを膝の上に乗せて、呟いた。
すぅすぅと寝息を立てて眠っている幼子。
男性、特に身長の高い細身の眼鏡をかけた男を前にすると、一瞬だが体をこわばらせる。
伯爵家の家令がまさにそうで、彼に虐げられているのかと思ったらそうではなかった。
虐待とまでは言い難い、でも、明らかに冷遇はされている。
他の子どもたちはいつも新品の綺麗な服を身に着けているのに、リリアンだけが誰かのおさがり。
ある時は端切れを綺麗に縫い合わせたベストと左右で生地の違うパンツを身に着けていた。
それは、画期的であか抜けていて、思わず声をかけた。
驚くことに、まだ幼い子が自分で作ったと聞いて驚いた。
リリアンの荷物を持ってきてくれた侍女――――――彼女だけが赤ん坊の時からリリアンの側にいてくれたらしいが、彼女に洋裁道具を用意してもらい、自分で縫ったのだという。
先ほど別れた彼女の髪には、ピンクの布でできた髪飾りがあった。
ケイト=ブルックリン男爵夫人だったか。
これを機に暇を貰うと言っていたから、こっちで雇えないか打診してみよう。
「そんなことよりカカオ。そろそろ姉さんからお前を返せと煩いんだが?」
「嫌ですよ。僕が公爵家に戻ったら婚約者がどうのと煩いじゃないですか。それに、あの王太子…、年が近いうえに親戚だからって側近候補の筆頭なんですよ。僕は叔父さんのようにのびのびしたいんです。あのクズの側近なんて死んでもゴメンですし、あんな阿婆擦れたちに言い寄られるなんて考えただけでも鳥肌が立つ。僕はこの子がいいな…。まだ熟してないけど、この子はオメガ。僕のオメガだと思う。ほのかに香る薔薇の香り…、癒される。」
「カカオ。この子、男性恐怖症だろう。ビジネスライクに扱う分には平気のようだが、好意を向けると途端に逃げるだろうよ。無理強いだけはするんじゃないよ。」
「当り前です。まだ大人になるまではたっぷり時間がある。僕のことを好きになって。それからでしょ?」
「ふむ、そうなるだろうと思ってね。リリアンは私の養子にしておいたよ。あいつら、自分の子の出生届も出してなかった。おそらくだが、オリーブ嬢をオメガとして申請している節がある。伯爵も伯爵夫人もオメガの女性には嫌悪感がないようだが、男性に相当の嫌悪感があるね。」
「オメガで男性は珍しいですし…。差別はありますからね。でもだからって出生届を偽るなんて、バレたらたいへんなことになるでしょうに。」
「双子で、リリアンは死にかけていたらしいからね。死亡届を既にだしていたのかもしれないね。」
お茶会にも参加させてもらえず、「存在しない子」として狭い箱に閉じ込められていたリリアン。
新しいおうちについたら、いっぱいお絵描きをしよう。
そして、たくさん服を作ろう。
リリアンが望むように、その才能をのばしてあげたい。
カカは、眠ってしまったリリアンを膝の上に乗せて、呟いた。
すぅすぅと寝息を立てて眠っている幼子。
男性、特に身長の高い細身の眼鏡をかけた男を前にすると、一瞬だが体をこわばらせる。
伯爵家の家令がまさにそうで、彼に虐げられているのかと思ったらそうではなかった。
虐待とまでは言い難い、でも、明らかに冷遇はされている。
他の子どもたちはいつも新品の綺麗な服を身に着けているのに、リリアンだけが誰かのおさがり。
ある時は端切れを綺麗に縫い合わせたベストと左右で生地の違うパンツを身に着けていた。
それは、画期的であか抜けていて、思わず声をかけた。
驚くことに、まだ幼い子が自分で作ったと聞いて驚いた。
リリアンの荷物を持ってきてくれた侍女――――――彼女だけが赤ん坊の時からリリアンの側にいてくれたらしいが、彼女に洋裁道具を用意してもらい、自分で縫ったのだという。
先ほど別れた彼女の髪には、ピンクの布でできた髪飾りがあった。
ケイト=ブルックリン男爵夫人だったか。
これを機に暇を貰うと言っていたから、こっちで雇えないか打診してみよう。
「そんなことよりカカオ。そろそろ姉さんからお前を返せと煩いんだが?」
「嫌ですよ。僕が公爵家に戻ったら婚約者がどうのと煩いじゃないですか。それに、あの王太子…、年が近いうえに親戚だからって側近候補の筆頭なんですよ。僕は叔父さんのようにのびのびしたいんです。あのクズの側近なんて死んでもゴメンですし、あんな阿婆擦れたちに言い寄られるなんて考えただけでも鳥肌が立つ。僕はこの子がいいな…。まだ熟してないけど、この子はオメガ。僕のオメガだと思う。ほのかに香る薔薇の香り…、癒される。」
「カカオ。この子、男性恐怖症だろう。ビジネスライクに扱う分には平気のようだが、好意を向けると途端に逃げるだろうよ。無理強いだけはするんじゃないよ。」
「当り前です。まだ大人になるまではたっぷり時間がある。僕のことを好きになって。それからでしょ?」
「ふむ、そうなるだろうと思ってね。リリアンは私の養子にしておいたよ。あいつら、自分の子の出生届も出してなかった。おそらくだが、オリーブ嬢をオメガとして申請している節がある。伯爵も伯爵夫人もオメガの女性には嫌悪感がないようだが、男性に相当の嫌悪感があるね。」
「オメガで男性は珍しいですし…。差別はありますからね。でもだからって出生届を偽るなんて、バレたらたいへんなことになるでしょうに。」
「双子で、リリアンは死にかけていたらしいからね。死亡届を既にだしていたのかもしれないね。」
お茶会にも参加させてもらえず、「存在しない子」として狭い箱に閉じ込められていたリリアン。
新しいおうちについたら、いっぱいお絵描きをしよう。
そして、たくさん服を作ろう。
リリアンが望むように、その才能をのばしてあげたい。
2,085
お気に入りに追加
2,601
あなたにおすすめの小説
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる