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番外編
それは奇跡のような…
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幼い頃。
離れにいる弟の存在を知った。
自分より骨太でがっしりしているように見える弟。
髪の色や瞳の色はお父様によく似ていた。
あの子のお母様は平民なのだとお母さまから聞いた。
はっきりと差別的な言葉を聞いたことはない。
だけれど、お母様はあの子と仲良くしてほしくないのだな、と感じた。
だからいつも、あの子を気にすることはなくって、たまに自分の部屋のある二階の窓から、離れにいるあの子が友人らしきオレンジ色の髪の子と遊んでいるのを見て、胸が少しもやっとするくらいだった。
その「もやっ」は、たぶん嫉妬だったのだ。
本当だったら、産まれたときから一緒にいて、遊んであげたり、絵本を読んであげたり、自分が習ったことを教えてあげたり、そういうことが出来たはずなのにって。
それは兄としての気持ちだったと思う。
それがいつから変容したのだろう。
後継を奪われたとき?
いや、あの時は令息らしい教育なんて私ほどしっかり受けさせてもらえていなかっただろうに、自分の力で王太子の側近になって、近衛隊の騎士になって、商売をやって、思ってもいなかったやり方で領地の収入を上げ、領民の生活を豊かにした手腕に惚れ惚れして、感嘆していたくらいで。
<ああ、仕方ないな。ジェームズの方が後継に相応しい>と、公爵家当主になる予定の令嬢の婿に行くことを、すんなり了承した。
無だった。
私の感情は、ジェームズに対する想いを理解するでもなく、他の一切に関心を持てず、だから嵌められたときは戸惑った。
廃嫡されて追い出されて、娼館に売られそうになって、感情が初めて動いたけど、ひどく混乱していて。
父親に対する恨みを抱く前に、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
何もしていないのに責められて、友人を失い、汚名を着せられて。
「秘密の薔薇」に助けてもらって、保護者も、住まいも、ジェームズが守ってくれたことを知って、初めて私の心に真っ赤な薔薇が咲き、世界が色づいたのだ。
兄弟だと思っていたのに兄弟じゃなくて。
想いが通じ合って。
そうして一緒になれる。
奇跡のようだ。
「—-----本当は、スティーブの体に誰も触れてほしくなかった。だけど、『そういう店に堕とすこと』が、あの女の指示だったんだ…。」
初夜の夜は抱き合って眠って、今日は二日目。
「……私と寝るのは嫌?」
「嫌なものか。何百回、何千回、スティーブを抱くことを想像して一人で果てたと思っているんだ。ただ、スティーブは嫌だったろうに、申し訳ないと思って。怖い想いをたくさんさせただろ?」
「オーナーが守ってくれたから。ジェームズがオーナーを雇ってくれたんだろう?」
「……アバッキオは信頼できるし、面倒見がよくて有能だからな。いい人がいてよかったよ。」
「ジェームズ、きて?」
遠慮がちなジェームズを誘う。
手を伸ばすとすぐに触れることができたそこは、大きく固く膨らんで、今にも蕾が弾けそうなのに。
ジェームズのなら喜んで口にできそうだけど、最初は自分の中にたくさん出してほしい。
あの桃を食べると、不思議なことに、愛している人と体を交わしたくなる。
心が素直になって、本能が求める。
体の中から、濡れてくるような気がする。
何かが香る。
子が産める体に造り替わっても、女性じゃないから妊娠しづらいのだろうか。
だから、より多く深く愛し合って、確率をあげようとするのではないだろうか。
私の香りにジェームズは欲情して、そして、私の首筋を噛んだ。
獣のような性交は、桃をくれた神が狐の姿をとる獣神だからなのかもしれない。
神が愛したこの国は、桃を賜った者も多い。
それは、今世の神が、100年かけてようやく得た番にぞっこんでご機嫌だからかも。
だけど、私のように子を孕める男が増えた今。
そしていずれは、ウーロン国でも同様に増えていくことを考えれば。
『桃がなくても子を孕める』種が定着していくのかもしれない。
「幸せだ、」
「わたしも」
指を絡めて口づけをして。
そうしてまた夜は更ける。
離れにいる弟の存在を知った。
自分より骨太でがっしりしているように見える弟。
髪の色や瞳の色はお父様によく似ていた。
あの子のお母様は平民なのだとお母さまから聞いた。
はっきりと差別的な言葉を聞いたことはない。
だけれど、お母様はあの子と仲良くしてほしくないのだな、と感じた。
だからいつも、あの子を気にすることはなくって、たまに自分の部屋のある二階の窓から、離れにいるあの子が友人らしきオレンジ色の髪の子と遊んでいるのを見て、胸が少しもやっとするくらいだった。
その「もやっ」は、たぶん嫉妬だったのだ。
本当だったら、産まれたときから一緒にいて、遊んであげたり、絵本を読んであげたり、自分が習ったことを教えてあげたり、そういうことが出来たはずなのにって。
それは兄としての気持ちだったと思う。
それがいつから変容したのだろう。
後継を奪われたとき?
いや、あの時は令息らしい教育なんて私ほどしっかり受けさせてもらえていなかっただろうに、自分の力で王太子の側近になって、近衛隊の騎士になって、商売をやって、思ってもいなかったやり方で領地の収入を上げ、領民の生活を豊かにした手腕に惚れ惚れして、感嘆していたくらいで。
<ああ、仕方ないな。ジェームズの方が後継に相応しい>と、公爵家当主になる予定の令嬢の婿に行くことを、すんなり了承した。
無だった。
私の感情は、ジェームズに対する想いを理解するでもなく、他の一切に関心を持てず、だから嵌められたときは戸惑った。
廃嫡されて追い出されて、娼館に売られそうになって、感情が初めて動いたけど、ひどく混乱していて。
父親に対する恨みを抱く前に、悲しみで胸が張り裂けそうだった。
何もしていないのに責められて、友人を失い、汚名を着せられて。
「秘密の薔薇」に助けてもらって、保護者も、住まいも、ジェームズが守ってくれたことを知って、初めて私の心に真っ赤な薔薇が咲き、世界が色づいたのだ。
兄弟だと思っていたのに兄弟じゃなくて。
想いが通じ合って。
そうして一緒になれる。
奇跡のようだ。
「—-----本当は、スティーブの体に誰も触れてほしくなかった。だけど、『そういう店に堕とすこと』が、あの女の指示だったんだ…。」
初夜の夜は抱き合って眠って、今日は二日目。
「……私と寝るのは嫌?」
「嫌なものか。何百回、何千回、スティーブを抱くことを想像して一人で果てたと思っているんだ。ただ、スティーブは嫌だったろうに、申し訳ないと思って。怖い想いをたくさんさせただろ?」
「オーナーが守ってくれたから。ジェームズがオーナーを雇ってくれたんだろう?」
「……アバッキオは信頼できるし、面倒見がよくて有能だからな。いい人がいてよかったよ。」
「ジェームズ、きて?」
遠慮がちなジェームズを誘う。
手を伸ばすとすぐに触れることができたそこは、大きく固く膨らんで、今にも蕾が弾けそうなのに。
ジェームズのなら喜んで口にできそうだけど、最初は自分の中にたくさん出してほしい。
あの桃を食べると、不思議なことに、愛している人と体を交わしたくなる。
心が素直になって、本能が求める。
体の中から、濡れてくるような気がする。
何かが香る。
子が産める体に造り替わっても、女性じゃないから妊娠しづらいのだろうか。
だから、より多く深く愛し合って、確率をあげようとするのではないだろうか。
私の香りにジェームズは欲情して、そして、私の首筋を噛んだ。
獣のような性交は、桃をくれた神が狐の姿をとる獣神だからなのかもしれない。
神が愛したこの国は、桃を賜った者も多い。
それは、今世の神が、100年かけてようやく得た番にぞっこんでご機嫌だからかも。
だけど、私のように子を孕める男が増えた今。
そしていずれは、ウーロン国でも同様に増えていくことを考えれば。
『桃がなくても子を孕める』種が定着していくのかもしれない。
「幸せだ、」
「わたしも」
指を絡めて口づけをして。
そうしてまた夜は更ける。
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