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番外編
前侯爵の顛末2(第一夫人の心情)
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テネシー伯爵家は川の流れる穀倉地帯。
だけど、川の汎濫があると、水害で度々農作物に被害がもたらされた。
私はテネシー伯爵家の長女。
ただ一人の娘として、婿を取るはずで。
幼馴染の緑色の髪の庭師の息子と結婚するはずだった。
平民だけどとても優秀なスチーム。
お母さまの実家に養子に行くはずだった。
そうして私と結婚するはずだったの。
夜会であの男が私を見初めるまでは。
あの男は両親を亡くして若くして当主になり、好き放題。うちの被害を補填してやるからと、爵位を盾に私を婚約者にした。
どんなに婚約解消を願っても聞いてくれなかった。
そして無理矢理私を奪った。
領地経営の才能なんてなくて、仕事は家令と私に任せっきり。
だから家は傾いていくばかり。
そもそも領地が王都に近いのが問題なのよ。
海もない畑もない、川が流れているわけでも湖がせせらいでいるわけでもなく、山も何もない、ただ王都から近いだけの高台にある領地は、しいて言えば放牧になら向いているかもしれない。
でも、資源がなければ産業としては厳しい。
そして、目立った特産品のない領地は、王都に接した街の方で商売ができるといっても、よそから仕入れたものだから、たいして儲かっていなかった。
先代はどうやって領地を賄っていたのかしら?と家令に聞いたら、代々質素倹約な方々だったから、馬を育てて売ったり、牛乳や乳製品を作って細々とやってこれたのですって。
ジェームズは有能だわ。こういった産業の他に、人を育てて、仕事にあぶれている人たちを派遣するなんて。
実家はスチームがそのまま養子に入って何とかやっていた。
スチームは平民だけど優秀だし、両親にとても好まれていた。
それに、彼の曾祖父はうちの家系の次男三男だったから、多少は血がつながっている。
親族も私たちのことをよく知っていたから、文句は出なかったらしい。
だけど、まだお嫁さんがいないスチーム。
私たちは本当に愛し合っていたのよ。
夜会で再会したらどうなるか…分かるわよね?
そもそも、あの男は美人とみればあっちにふらふらこっちにふらふら、仮面舞踏会にも参加して浮気三昧なんだから。
こっちだって…。
そう思って、情を交わし合った。
子どもができた。
産まれた子どもは緑色の髪。
スプーン侯爵家の黒は優性遺伝なのに、緑色。
私の先祖にこの色がいるからといって、夫にはぐらかした。
そして、その頃スチームは死んでしまった。
度々氾濫する川をどうにかしようと、調査に行って足を滑らせたらしい。
私は悲しみに蓋をした。
実家は結局、叔父夫婦の優秀な次男に継がせることになった。
それから数年経って、侯爵家の家計はいよいよ火の車になった。
私がもう少し手を加えられたらよかったのだけど、夫は女が口を出すのを嫌った。
馬鹿みたい。
お金のために裕福な大商人の娘を第二夫人にするらしい。
アマンダといって利発そうな可愛らしい雰囲気の娘だった。
彼女は男の子を産んだ。
侯爵家の黒髪黒目を持った男の子。
夫の血が入ったまぎれもない本物の跡取り息子。
離れに追いやって一切の接点を切ったのは、本物であるその子と偽物であるスティーブが比べられないようにという想いが強かったのかもしれない。
比べられたら発覚すると感じていたのかも。
あと、女だてらに領地経営にメスをいれている姿が羨ましかったのかも。
アマンダやジェームズに申し訳なかったわ。
目の前でジェームズに追い出されそうになっているこの人を見ていると、なんともいえない気持ちになる。
ああ、なんで私はこんな人のために人生を使ってしまったのだろうという気持ち。
「リヴァ……!アマンダ…!!お前たちは一緒に来てくれるよな⁉ アマンダは平民だったんだし家事くらいできるだろう⁉」
「私たちはこれから孫も産まれるでしょうし、残りますわ。」
「旦那様だけでゆーーっくり寛いでください。女遊びをしても構わないですけれど、種をまかないようにパイプカットしてさしあげますわね。」
1人で目に入らないところにいてほしい。
永遠に。
だけど、川の汎濫があると、水害で度々農作物に被害がもたらされた。
私はテネシー伯爵家の長女。
ただ一人の娘として、婿を取るはずで。
幼馴染の緑色の髪の庭師の息子と結婚するはずだった。
平民だけどとても優秀なスチーム。
お母さまの実家に養子に行くはずだった。
そうして私と結婚するはずだったの。
夜会であの男が私を見初めるまでは。
あの男は両親を亡くして若くして当主になり、好き放題。うちの被害を補填してやるからと、爵位を盾に私を婚約者にした。
どんなに婚約解消を願っても聞いてくれなかった。
そして無理矢理私を奪った。
領地経営の才能なんてなくて、仕事は家令と私に任せっきり。
だから家は傾いていくばかり。
そもそも領地が王都に近いのが問題なのよ。
海もない畑もない、川が流れているわけでも湖がせせらいでいるわけでもなく、山も何もない、ただ王都から近いだけの高台にある領地は、しいて言えば放牧になら向いているかもしれない。
でも、資源がなければ産業としては厳しい。
そして、目立った特産品のない領地は、王都に接した街の方で商売ができるといっても、よそから仕入れたものだから、たいして儲かっていなかった。
先代はどうやって領地を賄っていたのかしら?と家令に聞いたら、代々質素倹約な方々だったから、馬を育てて売ったり、牛乳や乳製品を作って細々とやってこれたのですって。
ジェームズは有能だわ。こういった産業の他に、人を育てて、仕事にあぶれている人たちを派遣するなんて。
実家はスチームがそのまま養子に入って何とかやっていた。
スチームは平民だけど優秀だし、両親にとても好まれていた。
それに、彼の曾祖父はうちの家系の次男三男だったから、多少は血がつながっている。
親族も私たちのことをよく知っていたから、文句は出なかったらしい。
だけど、まだお嫁さんがいないスチーム。
私たちは本当に愛し合っていたのよ。
夜会で再会したらどうなるか…分かるわよね?
そもそも、あの男は美人とみればあっちにふらふらこっちにふらふら、仮面舞踏会にも参加して浮気三昧なんだから。
こっちだって…。
そう思って、情を交わし合った。
子どもができた。
産まれた子どもは緑色の髪。
スプーン侯爵家の黒は優性遺伝なのに、緑色。
私の先祖にこの色がいるからといって、夫にはぐらかした。
そして、その頃スチームは死んでしまった。
度々氾濫する川をどうにかしようと、調査に行って足を滑らせたらしい。
私は悲しみに蓋をした。
実家は結局、叔父夫婦の優秀な次男に継がせることになった。
それから数年経って、侯爵家の家計はいよいよ火の車になった。
私がもう少し手を加えられたらよかったのだけど、夫は女が口を出すのを嫌った。
馬鹿みたい。
お金のために裕福な大商人の娘を第二夫人にするらしい。
アマンダといって利発そうな可愛らしい雰囲気の娘だった。
彼女は男の子を産んだ。
侯爵家の黒髪黒目を持った男の子。
夫の血が入ったまぎれもない本物の跡取り息子。
離れに追いやって一切の接点を切ったのは、本物であるその子と偽物であるスティーブが比べられないようにという想いが強かったのかもしれない。
比べられたら発覚すると感じていたのかも。
あと、女だてらに領地経営にメスをいれている姿が羨ましかったのかも。
アマンダやジェームズに申し訳なかったわ。
目の前でジェームズに追い出されそうになっているこの人を見ていると、なんともいえない気持ちになる。
ああ、なんで私はこんな人のために人生を使ってしまったのだろうという気持ち。
「リヴァ……!アマンダ…!!お前たちは一緒に来てくれるよな⁉ アマンダは平民だったんだし家事くらいできるだろう⁉」
「私たちはこれから孫も産まれるでしょうし、残りますわ。」
「旦那様だけでゆーーっくり寛いでください。女遊びをしても構わないですけれど、種をまかないようにパイプカットしてさしあげますわね。」
1人で目に入らないところにいてほしい。
永遠に。
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