真面目な近衛騎士は借金返済のために雄っぱぶ嬢になりました。

竜鳴躍

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番外編

イチゴちゃんと私3(オリバーの回想)

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「おじいさま!おばあさま!お父さま!お母さま!」

34年前の冬の日をボクは忘れない。あの時、ぼくはまだたった3歳だった。

帝国を二分した、魅了の王女・スパイシーを支持する王女派と武力の王子・ガラム=マサラを支持する王子派の抗争は、中立の立場を貫き、静観していた僕たちをも巻き込んだ。

どちらの陣営も僕らを引き込もうとして、引き込めないのであれば……と。そして屋敷に火をつけた。

火の熱さと、小さな僕をがれきの隙間からやっと逃がして、灰になって消えてしまった家族を忘れない。



ボクの家は、オリエント帝国の公爵家だった。

元々は、帝国に吸収された小国・ウインド王国の王族だったらしい。


ボクのおじい様おばあ様の代で吸収されたから、ボクは寝物語でしか聞いていないけれど、自然豊かな山岳地帯で、大きな風車が特徴的なお花でいっぱいの国だったんだって。
僕たちは大した戦力もなくて、妖精の血が混ざっている僕らの一族以外はたいして身を守る術などなくて、あっという間に侵略されてしまった。

だけど、なるべく元国民が良い条件で生活できるよう、自治権を求めて自ら差し出したから、僕らは公爵位をもらえたし、民の生活も悪くはなっていない。

綺麗な花の代わりに野菜が育てられて、鉱石は掘り尽くされ、すっかり景色は変わってしまったけど。

人によっては実際に、のんびりとしたウインド王国時代より、近代的なものに囲まれた今の方が幸せだという民もいる。

だから、思うところはあっても大人しく暮らしていた。
重税を課されても、みんなで助け合って乗り切った。
どうしようもない時は、背中の妖精の羽から粉をおとして、進呈して許してもらっていた。

僕の羽は火事の時に燃えてなくなってしまったけど、妖精の粉は万病に効いたらしいよ。




魅了の王女自体は、全く王位簒奪の意思はなかったらしく、戦況は王子の勝利で終わった。
王女は、王子に嫌われてることに気付かないまま、ティーポット王国に嫁に行った。

そして、生き残った貴族たち。

ガラム=マサラは、陛下に即位すると、自分の陣営の貴族を重用した。
王女陣営の貴族は、処刑され、または奴隷に身をやつした。

僕は、ただ、がれきで蹲っていた。
その一帯を面倒見ている修道士が、他の孤児と同じように僕を助けてくれた。


けれど、ガラム=マサラの長男であるターメリック。

ボクと同い年で、お茶会でよくみかけた彼はボクが嫌いだったらしい。
僕たちの一族が王女派だったとか言いがかりをつけて、僕を奴隷商人に売り飛ばした。

僕は綺麗な顔をしていたけど、愛玩用ではなく、戦闘奴隷にするようにというのが、ターメリックの注文だった。



僕は必死に生きて来たよ。
あちこちをこの身一つで戦って、生きて来た。

ジェームズ=スプーンに買われて、戦場から解放された。



ねえ、ドライ。

僕も君も、魔女に人生を滅茶苦茶にされたね。



体は大きくておじさんだけど、僕に弱音を吐く君はとっても可愛かった。
僕にしか、弱音を言えなかったんだよね。

幼子のような君が愛しい。


ずっとずっと、君を大切にするね。


ボクが君に愛をあげる。
君の愛はボクだけのものだよ。
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