真面目な近衛騎士は借金返済のために雄っぱぶ嬢になりました。

幸せの裏の逆恨み

「おなかが大きくなってきたなあ。」
ダージは眦を下げながら、私の腹を撫でる。


「もう、いつ産まれてもおかしくないそうです。」


お腹の皮がこんなにのびるなんて思わなかった。
寝ていても、突っ張るようなときもある。

そんなときは、書類仕事を休んで、ベッドに横になる。

魚の骨の揚げたものや、海藻のサラダをおやつにつまむ。


「もしかしたら、のびた皮はたるんだままかもしれませんけど、赤ちゃんを育むためになったことですから、受け入れています。それも愛しいなって…。ダージは私のおなかがモモンガでも、変わらず愛してくれますか？」

「当たり前じゃないか！オランジェは私がハゲデブになったらキライになるのか？」

「なるわけありません！」

「それと一緒だよ♡」

「ダージ♡」

ぴく、とおなかが内から動いた。

服を捲ってみると、小さな足の形が浮き出ている。

「ダージ、足です！」

「かわいいなあ。元気に生まれてくるんだぞ？お母様をあまり苦しめないように、さっさと腹から出てこい。」

「ダージったら無茶いっちゃだめですよ。お母様は平気ですよ。」




かわいい、かわいい、我が子。

もうじき会える。




とても幸せ。

だけど、その裏では、蠢くものがあった。



路地裏。

スラム街といえるところが存在しない、比較的治安のよいこの国でも、闇はある。

食堂の裏で食べ物を漁る男は、ギラギラとした眼をしている。


「許せない、ティーポット………ッ。王太子め、お前の大切な者を奪ってやる……っ。」


それは無血開城の中、取り逃がした。

オリエント帝国の王太子。

今や浮浪者にしか見えない彼は、

自身の側近を矯正的に身代わりにし、落ち延びた彼は、帝国のこれまでの所業を棚にあげ、婚約者に棄てられたことさえ人のせいにして、逆恨みをしていた。