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おかえり、スティーブ
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さあ、今こそ。兄の名誉を取り戻すとき。
カツカツと憎い女の前に歩む。
優しくてきれいなオランジェや殿下ならきっと、こんな『言い方』はけしてしない。
だが、あえて俺は選ぶ。
狼狽える悪女の耳元で。
「なぁ、今どんな気持ち?信じていた帝国王族の血筋には何の利用価値もなく、欲していた男も、爵位も人のものだ。人の気持ちを考えられず、寄り添うことも知らず、ワガママで独り善がりのお前には、誰一人も味方はいない。」
「!黙れ、貧乏貴族!」
「リーフ公爵家より今は金持ってるし。お前は平民。男爵令嬢より下なの。下。ここにいる誰よりも下。俺は平民だからって差別するわけじゃねーけど、お前は自慢だったもんな?帝国の尊い血、公爵家の令嬢であることが。」
悔しい?と思いっきり微笑んでやる。
「私はっ、公爵家の血筋であることには、変わらないわ!公爵の妹なのよ。無礼者!」
俺が合図をすると、殿下がドライを見た。
「私は当主として、この者を廃嫡します。その上でしかるべき処罰を願います。」
「お兄様!なんでッ、」
「兄君の洗脳は解いたから。もう君のいいなりになる手駒はいないの、誰も。それに、お前はただ平民になるんじゃない。お前は犯罪者だから。」
思考の時間など与えない。
胸元から、オリバーから受け取った記録映像を起動させ、ホールの天井一面に拡大して投影する。
「あ、ああっ、」
『用件でしょうか。お嬢様。』
『またいつぞやのようにしますか。第三者には不貞を匂わせて、偽りの婚約破棄騒動…。』
『そこの男は皆い顔ね。新入り?』
『ええ、こんなかわいい顔をして凄腕の暗殺者ですわ。この家に雇われたいというので連れてきましたの。』
『オリバーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』
『ふぅん、あなた。城に潜り込める?』
『私に潜り込めないところなどありません。』
『よかった。オランジェ=ペコーを始末して頂戴。』
「オリバーはこの日のために潜入させていた俺の部下だ。さあ、これは押しも押されぬ証拠。王太子妃暗殺を企て、そして五年前の我が兄は冤罪だった。」
「オリバーあっ、」
「犯罪者に睨まれても、怖くないよ?」
どこともなく、ひょいと現れたオリバーは、ウインクをしてドライの腕に手を掛ける。
頬を緩ませたドライを見て、鬼のような形相だ。
よくやった。
さらに、目の前に捕えたファーメントの手飼を突き出す。
全員、証言を吐かせ、拘束済みだ。
地下牢から出されたばかりで、ぐったりとしている。
「………ッ、す、みませっ。」
「この水色の女だったな、兄の浮気相手とやらは。先ほどの映像でもあったように、仕組まれたものだった。こいつらも、それぞれ罪に応じて処罰が待っている。元々、犯罪者組織からのスカウトのようだから、重くなるだろうがな。」
「あ、あなたは私に味方がいないって言ったけど、お母様が黙っていないわよ!」
「お前の母親は昔、城で起きた魔物の暴走事件の原因を作った、危険人物だ。騎士として復職させたゴルデン隊長とその息子を、母親の監視役につけた。帝国行きにはなったが爵位も戻ったし、満足しているみたいだぜ?ふたりとももう魅了も洗脳も効かない。母親は魅了の眼を失い、声も失った。帝国から味方などできない。今頃あちらでは、王統が倒され、帝国は解体して小国の集まりとなっているだろう。」
帝国は元々、小国の集まりだ。
生き残りの貴族たちにも不満や暴動の芽はあった。
ダージの封書を携え、あちらこちら。
我が国での事件も誇張し、破滅に追いやってやった。
戦争は、情報だけでも起こすことはできる。
さあ、お前は魅了がないから喉だけやればいいかな?
それとも………。
「今、どんな気持ち?平民より格下の、犯罪者さん?美貌?賢い?どんな美点も悪女なだけで台無しだ。誰も欲しがらない、最底辺の女。タダでヤレたってお前なんか御免だね!それがお前の真実だ!」
「う、うそ、い、いやっ!こうなったら」
ファーメントが何かを出そうとする。
だが、その腕は空で止まり、口にはハンカチが押し込まれていた。
「……セイ殿下、お見事です。」
手筈どおり、潜んでいたセイ殿下は、ファーメントの催眠術を止めてくれた。
手のひらの中にある鈴を奪い、打ち壊す。
「ん、んん!」
「大罪人の口と手を拘束して地下牢へ!そして、スティーブ=スプーンの無罪を認め、貴族籍へ復籍するものとする!」
陛下の声が響き、それからダージ殿下が続ける。
「スティーブ=スプーンは、ジェームズ=スプーンが保護していた。スティーブ、入ってくるがよい。」
緑色の髪のスティーブが、黒のスーツを着て現れる。
「そなたの名誉は回復した。賠償金とされた額の倍を公爵家から補償させる。就きたい職があれば言うが良い。」
「ありがとうございます。名誉が回復しただけで充分でございます。」
「陛下、兄には少しゆっくりしていただきたいと思っています。」
悪女は裁かれ、兄は戻ってきて、ジェームズは兄の肩を支えた。
離れていった友人は微妙な関係のまま、暫く冷ややかな目で見られることもある。
スプーン家に戻っても、跡継ぎは自分で婿入り先もなく、息子の冤罪が晴れたのに喜んだ顔もしない父親と兄の母親。
だけれども。
兄が帰ってくることが、とても嬉しい。
壇上では、オランジェが涙ぐんでいた。
だめだぞ、王太子妃なんだから。
そんなに素直な感情をあらわしては。
カツカツと憎い女の前に歩む。
優しくてきれいなオランジェや殿下ならきっと、こんな『言い方』はけしてしない。
だが、あえて俺は選ぶ。
狼狽える悪女の耳元で。
「なぁ、今どんな気持ち?信じていた帝国王族の血筋には何の利用価値もなく、欲していた男も、爵位も人のものだ。人の気持ちを考えられず、寄り添うことも知らず、ワガママで独り善がりのお前には、誰一人も味方はいない。」
「!黙れ、貧乏貴族!」
「リーフ公爵家より今は金持ってるし。お前は平民。男爵令嬢より下なの。下。ここにいる誰よりも下。俺は平民だからって差別するわけじゃねーけど、お前は自慢だったもんな?帝国の尊い血、公爵家の令嬢であることが。」
悔しい?と思いっきり微笑んでやる。
「私はっ、公爵家の血筋であることには、変わらないわ!公爵の妹なのよ。無礼者!」
俺が合図をすると、殿下がドライを見た。
「私は当主として、この者を廃嫡します。その上でしかるべき処罰を願います。」
「お兄様!なんでッ、」
「兄君の洗脳は解いたから。もう君のいいなりになる手駒はいないの、誰も。それに、お前はただ平民になるんじゃない。お前は犯罪者だから。」
思考の時間など与えない。
胸元から、オリバーから受け取った記録映像を起動させ、ホールの天井一面に拡大して投影する。
「あ、ああっ、」
『用件でしょうか。お嬢様。』
『またいつぞやのようにしますか。第三者には不貞を匂わせて、偽りの婚約破棄騒動…。』
『そこの男は皆い顔ね。新入り?』
『ええ、こんなかわいい顔をして凄腕の暗殺者ですわ。この家に雇われたいというので連れてきましたの。』
『オリバーと申します。どうぞよろしくお願いいたします。』
『ふぅん、あなた。城に潜り込める?』
『私に潜り込めないところなどありません。』
『よかった。オランジェ=ペコーを始末して頂戴。』
「オリバーはこの日のために潜入させていた俺の部下だ。さあ、これは押しも押されぬ証拠。王太子妃暗殺を企て、そして五年前の我が兄は冤罪だった。」
「オリバーあっ、」
「犯罪者に睨まれても、怖くないよ?」
どこともなく、ひょいと現れたオリバーは、ウインクをしてドライの腕に手を掛ける。
頬を緩ませたドライを見て、鬼のような形相だ。
よくやった。
さらに、目の前に捕えたファーメントの手飼を突き出す。
全員、証言を吐かせ、拘束済みだ。
地下牢から出されたばかりで、ぐったりとしている。
「………ッ、す、みませっ。」
「この水色の女だったな、兄の浮気相手とやらは。先ほどの映像でもあったように、仕組まれたものだった。こいつらも、それぞれ罪に応じて処罰が待っている。元々、犯罪者組織からのスカウトのようだから、重くなるだろうがな。」
「あ、あなたは私に味方がいないって言ったけど、お母様が黙っていないわよ!」
「お前の母親は昔、城で起きた魔物の暴走事件の原因を作った、危険人物だ。騎士として復職させたゴルデン隊長とその息子を、母親の監視役につけた。帝国行きにはなったが爵位も戻ったし、満足しているみたいだぜ?ふたりとももう魅了も洗脳も効かない。母親は魅了の眼を失い、声も失った。帝国から味方などできない。今頃あちらでは、王統が倒され、帝国は解体して小国の集まりとなっているだろう。」
帝国は元々、小国の集まりだ。
生き残りの貴族たちにも不満や暴動の芽はあった。
ダージの封書を携え、あちらこちら。
我が国での事件も誇張し、破滅に追いやってやった。
戦争は、情報だけでも起こすことはできる。
さあ、お前は魅了がないから喉だけやればいいかな?
それとも………。
「今、どんな気持ち?平民より格下の、犯罪者さん?美貌?賢い?どんな美点も悪女なだけで台無しだ。誰も欲しがらない、最底辺の女。タダでヤレたってお前なんか御免だね!それがお前の真実だ!」
「う、うそ、い、いやっ!こうなったら」
ファーメントが何かを出そうとする。
だが、その腕は空で止まり、口にはハンカチが押し込まれていた。
「……セイ殿下、お見事です。」
手筈どおり、潜んでいたセイ殿下は、ファーメントの催眠術を止めてくれた。
手のひらの中にある鈴を奪い、打ち壊す。
「ん、んん!」
「大罪人の口と手を拘束して地下牢へ!そして、スティーブ=スプーンの無罪を認め、貴族籍へ復籍するものとする!」
陛下の声が響き、それからダージ殿下が続ける。
「スティーブ=スプーンは、ジェームズ=スプーンが保護していた。スティーブ、入ってくるがよい。」
緑色の髪のスティーブが、黒のスーツを着て現れる。
「そなたの名誉は回復した。賠償金とされた額の倍を公爵家から補償させる。就きたい職があれば言うが良い。」
「ありがとうございます。名誉が回復しただけで充分でございます。」
「陛下、兄には少しゆっくりしていただきたいと思っています。」
悪女は裁かれ、兄は戻ってきて、ジェームズは兄の肩を支えた。
離れていった友人は微妙な関係のまま、暫く冷ややかな目で見られることもある。
スプーン家に戻っても、跡継ぎは自分で婿入り先もなく、息子の冤罪が晴れたのに喜んだ顔もしない父親と兄の母親。
だけれども。
兄が帰ってくることが、とても嬉しい。
壇上では、オランジェが涙ぐんでいた。
だめだぞ、王太子妃なんだから。
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