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愛しい人
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「オランジェ、オランジェっ。」
「でんかっ、」
獣ののように欲情を込めた視線と声が、熱い肌が劣情を呼ぶ。
求められる嬉しさに腕を絡めて縋る。
乙女のように細い腕ではない。
愛しい人は、騎士であるオランジェが縋っても、力負けをすることはない。
それに惚れ惚れすると同時に、せつない気持ちになるのはどうしてだろうか。
「ダージ。ダージって呼んで」
「ダー……ジ、」
5歳で会って、18年間。赤ん坊が大人になるまでの間、ずっと呼び慣れていた言い方を変えるのは難しい。
愛しい相手であったとしても、敬愛する相手であることには限らないから。
彼と彼の愛する者を守ることを生きがいとして追いかけていたのに、彼の愛する者は自分である。
それが、こそばゆく、嬉しく、同時に…。
何度も穿たれたそこは熱く、貪欲にもっと、もっとと殿下の花芯を奥へ誘う。
拓くたびに痛みを伴うはずの蕾は、上手に殿下に解されて、食虫花のように貪ろうとする。
「—--------------っ!あぁっ!」
「オランジェはすっかり胸が好きだね。」
体を埋められたまま、胸や脇や、肩、首筋を舐められると、ぞわぞわとして…、濡れるはずはないのに、濡れる気がする。
「で、……だ、ダージもすき?」
真っ赤な顔でみつめると、殿下も笑う。
「変態だからな。」
殿下はすっかり『変態殿下』で有名だ。
だけど何故か嫌われていなければ、名も落としていないのは、殿下の人柄なのだろう。
城の寝室のベッドは何時だってふわふわで、上質なスプリングは体の衝撃を受け止めた。
幾度となく愛されて、中に放たれた殿下の子胤は、体の奥へ塗り込まれていく。
朝の光を感じても愛されて、子ができればいいなと思う。
朝なのに微睡んで、体が二つになる時、殿下が抱きしめてキスをくれる。
そういう瞬間も、すき。
(うぅ…。最近時間が分からない…。日付が分からないってどうなんだろう。)
愛の行為の後、二度寝をしてしまったことを気にしていると、身支度が出来た頃にジェームズが入ってきた。
「満足に仕事が出来ていなくて済まない。」
「気にすんな。結婚休暇中みたいなもんだろ。それにそれ、体、あまり大丈夫じゃねえだろう?書類仕事やってくれるだけでも充分だよ。世継ぎを宿すのが今の最大ミッションなんだから、誰も文句なんかねえって。」
ジェームズが書類の山を机に置いた。
「オーナーから回復魔法習っておくんだったな。」
「そのうち皆連れてくるよ。マンゴーはカチコチになりそうだけど。」
「私……、やっぱり近衛騎士続けてはいけないのかな?」
「やっぱり近衛騎士、続けたいんだよな。」
「贅沢なことだよね。分かってる、ワガママだ。」
だけど、私は、殿下の騎士でいたい。
幼い日、感じたように。
「そのうちお妃教育始まるけどさ、きっと妃として殿下を支えるのも騎士として支えるのもそれほど変わらないと思うぜ。むしろ、妃になれば多方面でもっと深くお支えすることができるんじゃないか。それに、妃は王の最後の砦だ。最後に王の隣で守るのは騎士じゃなくて妃だから。そう、考えてみたらどうだ?」
「………。」
「お前なら妃の教育も近衛騎士の仕事も両立できるだろう。ていうか、妃教育の方はすぐ終わっちゃうんじゃないか?だから、暫くは近衛騎士のままでいいって隊長も言ってたよ。」
「隊長、ことの成り行きを説明しにいったら、目を丸くしていたなあ……。」
「………全く殿下め。浮かれやがって。オランジェとちゃんと対話もしろっての。」
ジェームズがニヒルに笑う。
「ジェームズ?」
「お前のそれはマリッジブルーだな。」
侍女の侍るその部屋から出て、人気のない廊下に出る。
ジェームズは春が来た親友二人が羨ましい。
どんなに恋焦がれても、実の兄と結ばれるはずもない。
気持を燻らせたまま、久しぶりに家に戻れば、屋敷の本邸には、第二夫人である自分の母親と父親、スティーブの母親がいる。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、ジェームズ。近々副隊長になるそうじゃないか。」
「繰り上がりですよ、妃殿下になりましたので。」
「それでも鼻が高いわ。」
誰もスティーブのことに触れない。
この家では禁句のようになり、実の母親も静かなものだ。
以前はあんなに高圧的だったのに。
黒髪黒目の父親と、菫色の髪に青い眼の母親、銀髪に赤い目のスティーブの母親。
俺がこの色じゃなければよかったのかもしれないな…。
スプーン侯爵家の色を、よりによって俺だけが継いでしまったから。
いつも家での夕食は砂を噛む様だ。
「でんかっ、」
獣ののように欲情を込めた視線と声が、熱い肌が劣情を呼ぶ。
求められる嬉しさに腕を絡めて縋る。
乙女のように細い腕ではない。
愛しい人は、騎士であるオランジェが縋っても、力負けをすることはない。
それに惚れ惚れすると同時に、せつない気持ちになるのはどうしてだろうか。
「ダージ。ダージって呼んで」
「ダー……ジ、」
5歳で会って、18年間。赤ん坊が大人になるまでの間、ずっと呼び慣れていた言い方を変えるのは難しい。
愛しい相手であったとしても、敬愛する相手であることには限らないから。
彼と彼の愛する者を守ることを生きがいとして追いかけていたのに、彼の愛する者は自分である。
それが、こそばゆく、嬉しく、同時に…。
何度も穿たれたそこは熱く、貪欲にもっと、もっとと殿下の花芯を奥へ誘う。
拓くたびに痛みを伴うはずの蕾は、上手に殿下に解されて、食虫花のように貪ろうとする。
「—--------------っ!あぁっ!」
「オランジェはすっかり胸が好きだね。」
体を埋められたまま、胸や脇や、肩、首筋を舐められると、ぞわぞわとして…、濡れるはずはないのに、濡れる気がする。
「で、……だ、ダージもすき?」
真っ赤な顔でみつめると、殿下も笑う。
「変態だからな。」
殿下はすっかり『変態殿下』で有名だ。
だけど何故か嫌われていなければ、名も落としていないのは、殿下の人柄なのだろう。
城の寝室のベッドは何時だってふわふわで、上質なスプリングは体の衝撃を受け止めた。
幾度となく愛されて、中に放たれた殿下の子胤は、体の奥へ塗り込まれていく。
朝の光を感じても愛されて、子ができればいいなと思う。
朝なのに微睡んで、体が二つになる時、殿下が抱きしめてキスをくれる。
そういう瞬間も、すき。
(うぅ…。最近時間が分からない…。日付が分からないってどうなんだろう。)
愛の行為の後、二度寝をしてしまったことを気にしていると、身支度が出来た頃にジェームズが入ってきた。
「満足に仕事が出来ていなくて済まない。」
「気にすんな。結婚休暇中みたいなもんだろ。それにそれ、体、あまり大丈夫じゃねえだろう?書類仕事やってくれるだけでも充分だよ。世継ぎを宿すのが今の最大ミッションなんだから、誰も文句なんかねえって。」
ジェームズが書類の山を机に置いた。
「オーナーから回復魔法習っておくんだったな。」
「そのうち皆連れてくるよ。マンゴーはカチコチになりそうだけど。」
「私……、やっぱり近衛騎士続けてはいけないのかな?」
「やっぱり近衛騎士、続けたいんだよな。」
「贅沢なことだよね。分かってる、ワガママだ。」
だけど、私は、殿下の騎士でいたい。
幼い日、感じたように。
「そのうちお妃教育始まるけどさ、きっと妃として殿下を支えるのも騎士として支えるのもそれほど変わらないと思うぜ。むしろ、妃になれば多方面でもっと深くお支えすることができるんじゃないか。それに、妃は王の最後の砦だ。最後に王の隣で守るのは騎士じゃなくて妃だから。そう、考えてみたらどうだ?」
「………。」
「お前なら妃の教育も近衛騎士の仕事も両立できるだろう。ていうか、妃教育の方はすぐ終わっちゃうんじゃないか?だから、暫くは近衛騎士のままでいいって隊長も言ってたよ。」
「隊長、ことの成り行きを説明しにいったら、目を丸くしていたなあ……。」
「………全く殿下め。浮かれやがって。オランジェとちゃんと対話もしろっての。」
ジェームズがニヒルに笑う。
「ジェームズ?」
「お前のそれはマリッジブルーだな。」
侍女の侍るその部屋から出て、人気のない廊下に出る。
ジェームズは春が来た親友二人が羨ましい。
どんなに恋焦がれても、実の兄と結ばれるはずもない。
気持を燻らせたまま、久しぶりに家に戻れば、屋敷の本邸には、第二夫人である自分の母親と父親、スティーブの母親がいる。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、ジェームズ。近々副隊長になるそうじゃないか。」
「繰り上がりですよ、妃殿下になりましたので。」
「それでも鼻が高いわ。」
誰もスティーブのことに触れない。
この家では禁句のようになり、実の母親も静かなものだ。
以前はあんなに高圧的だったのに。
黒髪黒目の父親と、菫色の髪に青い眼の母親、銀髪に赤い目のスティーブの母親。
俺がこの色じゃなければよかったのかもしれないな…。
スプーン侯爵家の色を、よりによって俺だけが継いでしまったから。
いつも家での夕食は砂を噛む様だ。
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