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早くオランジェのもとへ行きたいのに…
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ペコー伯爵領の東の山あいを挟んで隣にあるウーロン国は、豊富な水資源を持ち、独特の文化が息づく東の新興国だ。
長らく他国との接触を避けてきた彼らは、帝の代代わりにより、開国することに決めたらしい。
鎖国にも限界がある。
他国からこじ開けられ踏みにじられるより、自分たちから開国しようということだ。
美しい絵画や金やキラキラと輝く貝殻で彩られた器、目にも鮮やかな布地は母のお眼鏡にかなった。
これらの流通の窓口に我が国がなる、富の何割かがこちら側に入る、その見返りにウーロン国はティーポット王国の同盟国という後ろ盾を得る。
文化国である、他国と引けをとらぬ対等な国である、という。
新しい帝はまだ20代半ばと若い。
自国に睨みを利かせるために国から離れられず、名代としてきたのは、帝の妹姫だった。
腰より長い艶やかな黒髪に、赤に金の装飾が施された絢爛豪華なキモノと呼ばれる装飾は、豊かな国であることを十分にアピールした。
「どうだ、ダージ。美しい姫君ではないか。お前も…。」
父上である陛下が要らんことを言う。
睨むな、セイ。
キラキラした瞳で見ないで、母上。
「申し訳ございません、茶々姫様。私には心に決めた者がいるのですが、時々このようなことを言うのです。」
「まぁ、残念ですわ。それでは仕方ありませんわね。」
姫がさっぱりした性格で助かった…。
「そういえば、ペコー伯爵はどなたかしら。」
「ペコー伯爵ですか。紹介しましょう。伯爵に何用で?」
伯爵もこの夜会に来ているはず。確か、子爵家の婚約者を伴っているはずだ。
「伯爵領の山間部が我が国との境目でしょう。実は、あの山間部には昔から人が住んでおりますの。そちらにもこちらにも属しませんわ。先住民、といったらいいかしら。我が国ではあの山は神の世界としておりますわ。我が国に伝わる伝承ですとか、認識のすり合わせをしたいと思いまして。それに、今後交流を深めるとなれば、いずれあの地が交易の通り道になるでしょう?ご挨拶も必要ですわ。」
先住民か。
そんな話は今まで聞いたことはなかったが。
「殿下。」
耳元でジェームズが合図をした。
オーナーには『私以外にオランジェの客をとらないよう』言ってはあるらしいが、無理強いする客がいないとも限らない。
なるべく早く店に行きたい。
そのためには、王太子としての義理を果たしつつ、早々に切り上げねば…。
「どうされましたの?」
「急務が入ったようです。」
「まあ。私、見聞を広めるために1か月ほどは滞在する予定ですのよ。伯爵の紹介はまたの機会でも構いませんわ。」
「いえ、伯爵はあまり夜会に出ませんので、紹介だけさせていただきます。」
壁の花よろしくオレンとその婚約者はそっと佇んでいる。
ジェームズが部下に彼らを呼ばせると、二人はすぐにこちらへ来た。
「茶々姫。彼がペコー伯爵です。そして、隣が次期伯爵夫人のティラ=ミス子爵令嬢。」
「まあ、伯爵は王家にゆかりの方なのかしら。殿下に少々似ていらっしゃる気がするわ。」
「遠縁にあたりますが…、恐れ多いことです。今は、縁があるといえる程ではございません。」
確かにオレン殿は前伯爵と同じで金髪に青い瞳だ。
意識したことはなかったが、そういわれてみれば私と似ているかもしれないな。
本家であるリーフ公爵家より分家であるペコー伯爵家の方が、王家の因子を受け継いでいるようで、なかなか面白い。
ミス子爵令嬢も、下位貴族ではあるが社交界で名高い才媛だ。
地味に見える装いだが、慎ましやかで品がいい。
「それでは、伯爵。茶々姫が領地のあの山のことでお話をしたいそうだから、後はお任せするよ。」
「ペコー伯爵。本家であるリーフ公爵家の私を差し置いて姫様とご挨拶だなんて、礼儀知らずではないですこと?」
ピンク色のふわふわとしたドレスを年甲斐もなく来たファーメントが現れた。
「リーフ公爵令嬢。茶々姫様は伯爵に用があるのだ。だから私が紹介した。申し訳ないが、後にしてくれないか。礼儀知らずは貴方だろう。」
「酷いわ、殿下。そもそも、私の母は西の大国オリエントの元王女よ。皇帝の妹の娘とぽっと出の小国の王妹なのだから、立場だって似たようなものじゃない。むしろ国力を考えれば私の方が格上じゃないかしら?そもそも、ティーポット王国はもっとオリエント帝国と縁を結ぶべきだと思いますわ。」
…………はぁ、頭が痛い。
公爵も令息もなんでこんな女を野放しにしているんだ。早く回収してくれ。
「ふん、リーフ伯爵は最近投資事業?金の採掘事業だったかしら?不確かな情報を碌に精査しないで人を雇って、それで金が出なくて失敗したのよね。よく夜会に出られたものだわ。……そういえば、伯爵のスーツは前に見たことがあるわ。婚約者のご令嬢も可哀そうに、見すぼらしいドレスだこと。」
私は早くオランジェのところへ行きたいのに!
「やめないか。誰か、この令嬢は酒に酔っているようだ!」
夫になる相手の家を配慮して、リメイクしたドレスを着ているのは、内助の功だ。
何より歯がゆいのはオレンだろう。
私は、事態の収拾のために、時間をロスしてしまった。
長らく他国との接触を避けてきた彼らは、帝の代代わりにより、開国することに決めたらしい。
鎖国にも限界がある。
他国からこじ開けられ踏みにじられるより、自分たちから開国しようということだ。
美しい絵画や金やキラキラと輝く貝殻で彩られた器、目にも鮮やかな布地は母のお眼鏡にかなった。
これらの流通の窓口に我が国がなる、富の何割かがこちら側に入る、その見返りにウーロン国はティーポット王国の同盟国という後ろ盾を得る。
文化国である、他国と引けをとらぬ対等な国である、という。
新しい帝はまだ20代半ばと若い。
自国に睨みを利かせるために国から離れられず、名代としてきたのは、帝の妹姫だった。
腰より長い艶やかな黒髪に、赤に金の装飾が施された絢爛豪華なキモノと呼ばれる装飾は、豊かな国であることを十分にアピールした。
「どうだ、ダージ。美しい姫君ではないか。お前も…。」
父上である陛下が要らんことを言う。
睨むな、セイ。
キラキラした瞳で見ないで、母上。
「申し訳ございません、茶々姫様。私には心に決めた者がいるのですが、時々このようなことを言うのです。」
「まぁ、残念ですわ。それでは仕方ありませんわね。」
姫がさっぱりした性格で助かった…。
「そういえば、ペコー伯爵はどなたかしら。」
「ペコー伯爵ですか。紹介しましょう。伯爵に何用で?」
伯爵もこの夜会に来ているはず。確か、子爵家の婚約者を伴っているはずだ。
「伯爵領の山間部が我が国との境目でしょう。実は、あの山間部には昔から人が住んでおりますの。そちらにもこちらにも属しませんわ。先住民、といったらいいかしら。我が国ではあの山は神の世界としておりますわ。我が国に伝わる伝承ですとか、認識のすり合わせをしたいと思いまして。それに、今後交流を深めるとなれば、いずれあの地が交易の通り道になるでしょう?ご挨拶も必要ですわ。」
先住民か。
そんな話は今まで聞いたことはなかったが。
「殿下。」
耳元でジェームズが合図をした。
オーナーには『私以外にオランジェの客をとらないよう』言ってはあるらしいが、無理強いする客がいないとも限らない。
なるべく早く店に行きたい。
そのためには、王太子としての義理を果たしつつ、早々に切り上げねば…。
「どうされましたの?」
「急務が入ったようです。」
「まあ。私、見聞を広めるために1か月ほどは滞在する予定ですのよ。伯爵の紹介はまたの機会でも構いませんわ。」
「いえ、伯爵はあまり夜会に出ませんので、紹介だけさせていただきます。」
壁の花よろしくオレンとその婚約者はそっと佇んでいる。
ジェームズが部下に彼らを呼ばせると、二人はすぐにこちらへ来た。
「茶々姫。彼がペコー伯爵です。そして、隣が次期伯爵夫人のティラ=ミス子爵令嬢。」
「まあ、伯爵は王家にゆかりの方なのかしら。殿下に少々似ていらっしゃる気がするわ。」
「遠縁にあたりますが…、恐れ多いことです。今は、縁があるといえる程ではございません。」
確かにオレン殿は前伯爵と同じで金髪に青い瞳だ。
意識したことはなかったが、そういわれてみれば私と似ているかもしれないな。
本家であるリーフ公爵家より分家であるペコー伯爵家の方が、王家の因子を受け継いでいるようで、なかなか面白い。
ミス子爵令嬢も、下位貴族ではあるが社交界で名高い才媛だ。
地味に見える装いだが、慎ましやかで品がいい。
「それでは、伯爵。茶々姫が領地のあの山のことでお話をしたいそうだから、後はお任せするよ。」
「ペコー伯爵。本家であるリーフ公爵家の私を差し置いて姫様とご挨拶だなんて、礼儀知らずではないですこと?」
ピンク色のふわふわとしたドレスを年甲斐もなく来たファーメントが現れた。
「リーフ公爵令嬢。茶々姫様は伯爵に用があるのだ。だから私が紹介した。申し訳ないが、後にしてくれないか。礼儀知らずは貴方だろう。」
「酷いわ、殿下。そもそも、私の母は西の大国オリエントの元王女よ。皇帝の妹の娘とぽっと出の小国の王妹なのだから、立場だって似たようなものじゃない。むしろ国力を考えれば私の方が格上じゃないかしら?そもそも、ティーポット王国はもっとオリエント帝国と縁を結ぶべきだと思いますわ。」
…………はぁ、頭が痛い。
公爵も令息もなんでこんな女を野放しにしているんだ。早く回収してくれ。
「ふん、リーフ伯爵は最近投資事業?金の採掘事業だったかしら?不確かな情報を碌に精査しないで人を雇って、それで金が出なくて失敗したのよね。よく夜会に出られたものだわ。……そういえば、伯爵のスーツは前に見たことがあるわ。婚約者のご令嬢も可哀そうに、見すぼらしいドレスだこと。」
私は早くオランジェのところへ行きたいのに!
「やめないか。誰か、この令嬢は酒に酔っているようだ!」
夫になる相手の家を配慮して、リメイクしたドレスを着ているのは、内助の功だ。
何より歯がゆいのはオレンだろう。
私は、事態の収拾のために、時間をロスしてしまった。
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