13 / 89
ジェームズ=スプーン
しおりを挟む
「……というわけなんだ。『冤罪』というからには放ってはおけない。真偽を見定めなくてはと思う。騎士団の方に依頼しておこうと思うんだが、ほら……私が言うと、どうしてその話を知ったんだってなるから、お願いできないかと思って。」
優しい俺の親友は、『キウイ』のことを心配している。
――――冤罪。
それは、俺も分かっているんだ。
ジェームズは休憩時間に神妙な顔で相談してきた親友であるオランジェの、伏せがちな睫毛を見た。
眉を下げて、真実、夜の同僚を心配しているのだろう。
冤罪なのに、身分を失って、おっぱぶ嬢になっている『キウイ』のことを。
「実はな、オランジェ。俺だってあそこ一帯仕切っているんだ。自分の息のかかっている店のことはよく知っている。『キウイ』の件だって調べている。ただ、相手が強いんだ。だから彼を守るためにポンチをオーナー兼ママ兼黒服にしたんだよ。時間をかけてなんとかしようとしているところだから、歯がゆいだろうが我慢してくれないか。」
「そうか、そんなに厄介な相手なのか…。」
「『キウイ』は綺麗な顔してるだろ?俺みたいにガサツじゃないし、体つきもスッ、シャン、としていてさ。高位貴族だったし、出来もよかったし、紳士だし、女にもモテモテだったんだよ。だから、気に入らね、って奴もいっぱいいるみたいでね…。それで、店によくない客がアイツ目当てに来ることもある。話相手になってやってくれたら十分だ。ありがとな。」
休憩時間が終わり、殿下のもとへ急ぐオランジェを見送って、俺は椅子を揺らしながらため息をついた。
(俺だって……。心配してるんだよ。)
侯爵家の次男といっても、自分の母親は元々平民だった。
目立った産業がなく、いつもお金に苦しんでいたスプーン侯爵家。
ツケを続けていた大商会の娘を第二夫人にする代わり、ツケは帳消しになり、資金的な援助が得られるようになった。
その第二夫人が俺の母親だ。
俺には半分平民の血が流れている。
資金援助を受けているから、さほど酷い扱いは受けなかったが、俺と母親は離れで暮らした。
本邸には正妻と正妻の産んだ兄、スティーブ。
植え込みの隙間から見た兄は、自分と違って賢そうで、品が良かった。
交流はなかったけど、俺は兄に何も思ってなかった。
だって、俺だって母親に愛されて大事に育てられていたし、衣食住の不自由はなかったから。
殿下との初顔合わせの時、『貧乏貴族』と馬鹿にされたのが嫌で、俺は商売を考えた。
領地には特産はない。資源もない。
だけど、貧しく、働きたい人はたくさんいる。
人材教育に力を入れ、頭がよさそうな奴には、徹底的に貴族のマナーや一般常識、読み書き計算を叩き込み、貴族や金持ちの家の使用人として派遣する。
強そうなやつは、剣術を鍛え上げ、冒険者や護衛、傭兵にと派遣した。
そして、王都の一角には、歓楽街を作る。
楽しくお酒を呑める店から、美人の男女にお酌をしてもらえるお店。体を売る店から本番なしの店までいろいろと。
既存の娼館と違うのは、本番ありの店だとしても店に従業員を奴隷のように縛り付けたり虐げたりしないこと。衛生関係を徹底すること。ダメなお客を門前払いしていること。
そうすることで、安心して働けるし、安心して通えるようにした。
そういった人材派遣業や飲食業が功を奏して、俺が学園を卒業する頃にはスプーン侯爵家は国でも有数の金持ち貴族になっていた。
その頃には殿下の側近もしていて、近衛騎士隊入りも内定していたものだから、親族連中や父親が手のひらを返して、俺を跡取りに指名しやがった。
俺の商才や手腕は、習っていなくても、領地経営に通じるものがあったらしい。
傾きかけていた家を立て直したどころか、成りあがらせたものだから、俺は次期当主になってしまったのだ。
そう。
なってしまった。
優秀で、当主教育を頑張っていた兄から、立場を奪ってしまった。
そうしたら、都合よく長男ではなく長女が後を継ぐことになった公爵令嬢がいて、兄はその婚約者になってしまった。
相手は、あの、ファーメント=リーフだった。
久しぶりに会ったあの女は、ぱっと見淑女然として、虫も殺さないようなヒロイン顔をしているくせに、腹の中は真っ黒で。
でも、俺なんかが反対することもできなくて。
兄は冤罪で、兄の有責による婚約破棄になり、そして父から廃嫡されて家から追放された。
オランジェはいつも俺と一緒で、兄は俺に近づこうとしなかったから、オランジェと兄は面識がない。
だから、キウイが俺の兄だと気づいていない。
それでよかった。
オランジェを巻き込みたくない。
俺はあの女が許せない。
だが、尻尾が掴めない。
兄の冤罪を晴らしたい。
兄を守るために『秘密の薔薇』を作った。
表向きは罰だろう。弟の系列店で夜の仕事なんて。
でも、あそこは仮面を被る。
本番まではしないから、たいして蔑まれることじゃない。
自分じゃないといいはることもできるだろうから、冤罪が晴れたとき、社会復帰もできるだろう。
そして、フランチャイズのオーナーには、面倒見がよく、護衛にもなってくれそうな男を選んだ。
回復魔法も使える僧侶戦士だから、何かあっても救急の対応もできるだろう。
兄上を追いかけてきた男が現れたら駆除をして記憶を消してくれと指示しているし。
相手は筆頭公爵家。
あの女の単独行動だとしても、あれは根回しが上手いから。
じっくり、じっくり。
そしていつか報復してやる。
俺は、兄が好きだ。
優しい俺の親友は、『キウイ』のことを心配している。
――――冤罪。
それは、俺も分かっているんだ。
ジェームズは休憩時間に神妙な顔で相談してきた親友であるオランジェの、伏せがちな睫毛を見た。
眉を下げて、真実、夜の同僚を心配しているのだろう。
冤罪なのに、身分を失って、おっぱぶ嬢になっている『キウイ』のことを。
「実はな、オランジェ。俺だってあそこ一帯仕切っているんだ。自分の息のかかっている店のことはよく知っている。『キウイ』の件だって調べている。ただ、相手が強いんだ。だから彼を守るためにポンチをオーナー兼ママ兼黒服にしたんだよ。時間をかけてなんとかしようとしているところだから、歯がゆいだろうが我慢してくれないか。」
「そうか、そんなに厄介な相手なのか…。」
「『キウイ』は綺麗な顔してるだろ?俺みたいにガサツじゃないし、体つきもスッ、シャン、としていてさ。高位貴族だったし、出来もよかったし、紳士だし、女にもモテモテだったんだよ。だから、気に入らね、って奴もいっぱいいるみたいでね…。それで、店によくない客がアイツ目当てに来ることもある。話相手になってやってくれたら十分だ。ありがとな。」
休憩時間が終わり、殿下のもとへ急ぐオランジェを見送って、俺は椅子を揺らしながらため息をついた。
(俺だって……。心配してるんだよ。)
侯爵家の次男といっても、自分の母親は元々平民だった。
目立った産業がなく、いつもお金に苦しんでいたスプーン侯爵家。
ツケを続けていた大商会の娘を第二夫人にする代わり、ツケは帳消しになり、資金的な援助が得られるようになった。
その第二夫人が俺の母親だ。
俺には半分平民の血が流れている。
資金援助を受けているから、さほど酷い扱いは受けなかったが、俺と母親は離れで暮らした。
本邸には正妻と正妻の産んだ兄、スティーブ。
植え込みの隙間から見た兄は、自分と違って賢そうで、品が良かった。
交流はなかったけど、俺は兄に何も思ってなかった。
だって、俺だって母親に愛されて大事に育てられていたし、衣食住の不自由はなかったから。
殿下との初顔合わせの時、『貧乏貴族』と馬鹿にされたのが嫌で、俺は商売を考えた。
領地には特産はない。資源もない。
だけど、貧しく、働きたい人はたくさんいる。
人材教育に力を入れ、頭がよさそうな奴には、徹底的に貴族のマナーや一般常識、読み書き計算を叩き込み、貴族や金持ちの家の使用人として派遣する。
強そうなやつは、剣術を鍛え上げ、冒険者や護衛、傭兵にと派遣した。
そして、王都の一角には、歓楽街を作る。
楽しくお酒を呑める店から、美人の男女にお酌をしてもらえるお店。体を売る店から本番なしの店までいろいろと。
既存の娼館と違うのは、本番ありの店だとしても店に従業員を奴隷のように縛り付けたり虐げたりしないこと。衛生関係を徹底すること。ダメなお客を門前払いしていること。
そうすることで、安心して働けるし、安心して通えるようにした。
そういった人材派遣業や飲食業が功を奏して、俺が学園を卒業する頃にはスプーン侯爵家は国でも有数の金持ち貴族になっていた。
その頃には殿下の側近もしていて、近衛騎士隊入りも内定していたものだから、親族連中や父親が手のひらを返して、俺を跡取りに指名しやがった。
俺の商才や手腕は、習っていなくても、領地経営に通じるものがあったらしい。
傾きかけていた家を立て直したどころか、成りあがらせたものだから、俺は次期当主になってしまったのだ。
そう。
なってしまった。
優秀で、当主教育を頑張っていた兄から、立場を奪ってしまった。
そうしたら、都合よく長男ではなく長女が後を継ぐことになった公爵令嬢がいて、兄はその婚約者になってしまった。
相手は、あの、ファーメント=リーフだった。
久しぶりに会ったあの女は、ぱっと見淑女然として、虫も殺さないようなヒロイン顔をしているくせに、腹の中は真っ黒で。
でも、俺なんかが反対することもできなくて。
兄は冤罪で、兄の有責による婚約破棄になり、そして父から廃嫡されて家から追放された。
オランジェはいつも俺と一緒で、兄は俺に近づこうとしなかったから、オランジェと兄は面識がない。
だから、キウイが俺の兄だと気づいていない。
それでよかった。
オランジェを巻き込みたくない。
俺はあの女が許せない。
だが、尻尾が掴めない。
兄の冤罪を晴らしたい。
兄を守るために『秘密の薔薇』を作った。
表向きは罰だろう。弟の系列店で夜の仕事なんて。
でも、あそこは仮面を被る。
本番まではしないから、たいして蔑まれることじゃない。
自分じゃないといいはることもできるだろうから、冤罪が晴れたとき、社会復帰もできるだろう。
そして、フランチャイズのオーナーには、面倒見がよく、護衛にもなってくれそうな男を選んだ。
回復魔法も使える僧侶戦士だから、何かあっても救急の対応もできるだろう。
兄上を追いかけてきた男が現れたら駆除をして記憶を消してくれと指示しているし。
相手は筆頭公爵家。
あの女の単独行動だとしても、あれは根回しが上手いから。
じっくり、じっくり。
そしていつか報復してやる。
俺は、兄が好きだ。
81
お気に入りに追加
821
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
悪役の弟に転生した僕はフラグをへし折る為に頑張ったけど監禁エンドにたどり着いた
霧乃ふー 短編
BL
「シーア兄さまぁ♡だいすきぃ♡ぎゅってして♡♡」
絶賛誘拐され、目隠しされながら無理矢理に誘拐犯にヤられている真っ最中の僕。
僕を唯一家族として扱ってくれる大好きなシーア兄様も助けに来てはくれないらしい。
だから、僕は思ったのだ。
僕を犯している誘拐犯をシーア兄様だと思いこめばいいと。
兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します
月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
幽閉塔の早贄
大田ネクロマンサー
BL
人よりも大きな体躯で、魔法を操る“魔人”が統べるベルクマイヤ王国。この国の宮廷の端には誰も近寄らない、湖面に浮かぶ塔がある。
孤児院を出て行くアテもなかった未成熟なノアがこの塔の生贄として幽閉されるが、その責務は恥辱に満ちたものだった。
生贄の世話役、ルイス=ブラウアーは生贄の責務を果たせないノアに選択を迫るため、塔を管轄下に置く元武官のアシュレイ=バーンスタインを呼び寄せるが……?
R18は※がついております
3P、陵辱、調教シーンありますので苦手な方は閲覧をお控えください。
【完結】兄が俺の部屋で角オナしてた件
百日紅
BL
実兄への許されない思いを抑えつけながら生きていた志島渓。しかし、ある日自分の部屋で、自分の服を嗅ぎながら自慰にふける兄の姿を目にしてしまいーー。
※全話ほぼえっちしてます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる