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本家のリーフ公爵令嬢
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「やぁ、リーフ公爵令嬢。」
「ご機嫌麗しゅう、セイ=ロン=ティーポット第二王子殿下。」
白磁の城の長い渡り廊下には、金の灯篭と赤い絨毯が敷かれ、衛兵が脇を守る。
侍女を引き連れて歩く令嬢は美しいカーテンシーをして、セイに敬意を表した。
オランジェより赤味の少ない金髪は腰まで長く、丁寧に巻かれて所作とともに弾み、青に近い翠の眼が煌めいて伏せられる。
長い睫毛に縁取られた瞳は、黙っていれば愛らしいと評される丸みを帯びたたれ目なのに、隠しきれない性格の悪さが彼女を悪女たらしめる。
2人は周りに侍従や侍女をつけたまま、真っ黒な腹で会話をする。
侍従たちは、さっとほんの少しだけ主人らから離れ、頭を下げて待機する。
「公爵にご用事かな?(兄上に近づきたいから城に来たいけど、母上たちにも嫌われてるから公爵をダシにしないといけないんだよね、たいへんだね。)」
「お父様に差し入れを持って来たところですわ。(うっさいわ。ヘボ殿下が。)」
「婚約破棄は残念だったね。新しい婚約者はできそうかい?(兄上を狙って婚約破棄なんか画策するから、もう23歳なのにどうするの?)」
「私に非はありませんもの。スプーン侯爵家から慰謝料もいただきましたし、きっとこれから良いご縁があることを期待しておりますわ。(元貧乏貴族の侯爵家なんて嫌だわ。あの男は平民に落ちて男娼になったとか…いい気味よ!私はダージ=リン殿下がいいのよっ!)………それより、うちの分家が殿下の話を聞き齧って暴走してしまったみたいで、殿下にはご迷惑をおかけいたしましたわ。赤字を産んでもなんとかなったようですけれど。(どうしてあの家が持ちこたえたのかしら?手心を加えていないわよね。)」
「ええ、私も悪いと思っているんですよ。でも、伝説の話をしただけでまさか本気で金を探しに行くとは……。あの元当主の頭を考えるべきでした。ただの噂話、雑談のつもりだったのですがね。(まさか、加えてなどいませんよ。)」
「新しい当主はよくやっているようで、私どもも安心していますの。でも、まだお若いから心配ですわ。(今度こそ、あの家を破滅させるのよ。分かったわね?)」
「当主の弟君は兄上の近衛騎士ですから、気にかけておきましょう。(はいはい。分かりましたよ。)」
2人は表向きは優雅に歓談し、そして離れる。
(……全く。王子である私を顎で使おうとは。恐ろしい女だ。私は王位、彼女は兄上。目的が一致するから協力してるだけなんだけどね。リーフ公爵家は嫡男が男色で子が望めない…。自分が当主になるから、王妃の地位よりも兄上を望む、と。………まあ私も全部信じてはいないけど。)
馬車に乗り込み、窓のカーテンをおろすと、ファーメントは行儀悪く足を組む。
彼女はとてつもなくイライラしていた。
(何なのよっ!本当に邪魔、邪魔よ!分家のくせに!)
………何とかして回避しなくては。
18年前は、母仕込みの特技を使って、分家の男に暗示をかけた。
そうしなければ、男のくせに殿下の相手に選ばれていただろうし、合意していただろう。
殿下への思いは恋慕ではなく、信愛や敬愛。
そう刷り込んだのだ。
私をないがしろにして、こともあろうに殿下の心を掴んだ憎い男。
だが、所詮男は男。
子が望めぬ以上、敵とまではいえない。
問題はあの男の妹だ。
鮮やかなピンクブロンドの髪。
緑色の目。
天使のような美しい顔。
ころころと鈴が転がるような声。
絶世の美少女がついにデビュタントを迎える。
今まで、お茶会の招待状も手を回して廃棄していたのよ。
あの子が社交界に出て来たら、きっと誰もがあの子の虜になる。
ダージ殿下だって、きっと。
だから、ペコー家には破滅していてもらわなければ困るのよ。
「ご機嫌麗しゅう、セイ=ロン=ティーポット第二王子殿下。」
白磁の城の長い渡り廊下には、金の灯篭と赤い絨毯が敷かれ、衛兵が脇を守る。
侍女を引き連れて歩く令嬢は美しいカーテンシーをして、セイに敬意を表した。
オランジェより赤味の少ない金髪は腰まで長く、丁寧に巻かれて所作とともに弾み、青に近い翠の眼が煌めいて伏せられる。
長い睫毛に縁取られた瞳は、黙っていれば愛らしいと評される丸みを帯びたたれ目なのに、隠しきれない性格の悪さが彼女を悪女たらしめる。
2人は周りに侍従や侍女をつけたまま、真っ黒な腹で会話をする。
侍従たちは、さっとほんの少しだけ主人らから離れ、頭を下げて待機する。
「公爵にご用事かな?(兄上に近づきたいから城に来たいけど、母上たちにも嫌われてるから公爵をダシにしないといけないんだよね、たいへんだね。)」
「お父様に差し入れを持って来たところですわ。(うっさいわ。ヘボ殿下が。)」
「婚約破棄は残念だったね。新しい婚約者はできそうかい?(兄上を狙って婚約破棄なんか画策するから、もう23歳なのにどうするの?)」
「私に非はありませんもの。スプーン侯爵家から慰謝料もいただきましたし、きっとこれから良いご縁があることを期待しておりますわ。(元貧乏貴族の侯爵家なんて嫌だわ。あの男は平民に落ちて男娼になったとか…いい気味よ!私はダージ=リン殿下がいいのよっ!)………それより、うちの分家が殿下の話を聞き齧って暴走してしまったみたいで、殿下にはご迷惑をおかけいたしましたわ。赤字を産んでもなんとかなったようですけれど。(どうしてあの家が持ちこたえたのかしら?手心を加えていないわよね。)」
「ええ、私も悪いと思っているんですよ。でも、伝説の話をしただけでまさか本気で金を探しに行くとは……。あの元当主の頭を考えるべきでした。ただの噂話、雑談のつもりだったのですがね。(まさか、加えてなどいませんよ。)」
「新しい当主はよくやっているようで、私どもも安心していますの。でも、まだお若いから心配ですわ。(今度こそ、あの家を破滅させるのよ。分かったわね?)」
「当主の弟君は兄上の近衛騎士ですから、気にかけておきましょう。(はいはい。分かりましたよ。)」
2人は表向きは優雅に歓談し、そして離れる。
(……全く。王子である私を顎で使おうとは。恐ろしい女だ。私は王位、彼女は兄上。目的が一致するから協力してるだけなんだけどね。リーフ公爵家は嫡男が男色で子が望めない…。自分が当主になるから、王妃の地位よりも兄上を望む、と。………まあ私も全部信じてはいないけど。)
馬車に乗り込み、窓のカーテンをおろすと、ファーメントは行儀悪く足を組む。
彼女はとてつもなくイライラしていた。
(何なのよっ!本当に邪魔、邪魔よ!分家のくせに!)
………何とかして回避しなくては。
18年前は、母仕込みの特技を使って、分家の男に暗示をかけた。
そうしなければ、男のくせに殿下の相手に選ばれていただろうし、合意していただろう。
殿下への思いは恋慕ではなく、信愛や敬愛。
そう刷り込んだのだ。
私をないがしろにして、こともあろうに殿下の心を掴んだ憎い男。
だが、所詮男は男。
子が望めぬ以上、敵とまではいえない。
問題はあの男の妹だ。
鮮やかなピンクブロンドの髪。
緑色の目。
天使のような美しい顔。
ころころと鈴が転がるような声。
絶世の美少女がついにデビュタントを迎える。
今まで、お茶会の招待状も手を回して廃棄していたのよ。
あの子が社交界に出て来たら、きっと誰もがあの子の虜になる。
ダージ殿下だって、きっと。
だから、ペコー家には破滅していてもらわなければ困るのよ。
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