落ちこぼれ魔族の少女はやがて聖女になる

竜鳴躍

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封印の聖女と動乱の魔女

破滅の前兆

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『フフフフフ…。久しぶりの娑婆だ…。我が先陣とは何たる誉れか。』

地響きするかのような声の主は、奥から顔を出す。


黒い、闇のような。


体の大きな大人の男の人くらいある、狼。



獰猛な牙の間から、息を吐きだし、赤い目が光る。

息を忘れる。

体が、動かない。


だめ。


私はまだなにもやれてないじゃない。


アルファさんも見つけてない。


”あぁ、ユプシロン様はいいのよ。魔力がないんですもの。”
”魔力がないのだから、私たちが守って差し上げますわ。”

”本当に、あの方公爵令嬢なのかしら。ご家族は皆さん麗しいのに、お姿も山猿のよう。”
”あれじゃあねぇ、まるで男の方のようだわ。タキシードのほうが似合うのではないかしら。お兄様と逆でしたらまだよろしかったですのに。”

呪詛のように、物心がついたころから言われ続けてきた言葉がぐるぐる回る。


勉強も優秀とは言えない。

容姿にも自信はない。

何もない。


『宣戦布告だ。まずは、お前を見せしめにしてやろう…!』


こちらをなめるように見ていた狼が、速度をあげた。

ガシッ!



唾をのんで、自分の体を無理やり動かす。

狼の赤黒いかぎづめが、先ほどまで背にしていた崩れた土壁を刻む。

『チィッ!!』


体の小ささを生かして、ばっと物陰に逃げ込む。


先ほど狼が出てきた空間に来てしまった。

ドームのようになっていて、広い。


どうしよう、隠れるところがない。


狼が来る前に、と、魔導銃の用意をする。

指先が震えている。


今やれなきゃ、きっと私は一生ダメなんだ。



『ひゃはははは!みいつけ…

ボウっ!
……ギャアアアアアアアアアアアアアアア!』

「!!?」

狼の赤い目がこちらを覗いて厭らしく笑い、
私が魔導銃に両手で指をかけたその瞬間。


こちらに狼が入ってくる前に、それは横から炎に包まれた。

『な、ななな!お前とっくに狂っているはずじゃ!』


「ア…ウゥっ。ル、ルウちゃん。」


それは、半分、意識を飛ばしているような アルファさんだった。


「アルファさん!よかった!!!」

「近寄るな!」


もう、俺じゃない時間のほうが長くなってきている。いつ、とぶかわからない。
と、いう。


「俺じゃなくなる前に、こいつだけはなんとかする。もう、ここに出てきたのは、こいつで最後。」

ポケットから手のひらくらいの大きさの丸いメダルを取り出すと、私に投げ渡した。

「これは、父が造った、封印を補い、強化するための魔道具。この奥に封じられた『黒魔界』が開きかかっている場所がある。地面に丸い穴がある場所があるから、そこにはめろ。そしてここをされ!」

『黒魔界、白魔界ってなぁ!お前らが勝手に分けたんだろうがァ!!!暗き闇の世界に閉じ込められた我らの苦しみ!今度こそ光の世界を牛耳ってやるのよ!!!!』

くぅ…

アルファさんの体がふらつき、右手で頭を抱える。

『ひひひ、時間が近いようだなぁ…。』


指の隙間から、炎色の目がゆらめいた。


◆◆◆


奥には、壁画?というか、見たこともない魔法陣が描かれていた。
あちこち崩れ、魔法陣が切れてしまっている。

地面の穴を探し、はめようとした瞬間。


背後から熱を感じ。

ゴオオオオオオオオオオオ!
『ギャアアアアアアアアアアアアア!!!

爆炎の音と、断末魔が聞こえた。

「ああぁっ!」

衝撃で、メダルを落としてしまう。
転がるメダルを追いかけていると、アルファさんの靴が見えた。

よかった、倒してくれたんですね。

グシャツ。めきっ。

「!?」

メダルを足で踏まれて、破壊される。



アルファさんは、自分を失っていた。



ガッ!!


体を持ち上げられ、魔法陣の描かれた壁に押さえつけられる。


「ぐ・・・・・。」



帰ってきて、アルファさん!


苦しい。

息ができなくなる。



ダメ。



アルファさん、ダメ。





そのとき。



ピシっ。


魔法陣の壊れた隙間から、私の背中の方から、黒いもやが出る。

黒いもやが渦のように、アルファさんを押し流し、どこかへ飛ばしてしまった。

ああ、ダメ。これはだめなの!!!

一人残され、渦の海の中で私は叫んだ。







「出てこないでぇえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」









瞬間、私の体は白く光り。

黒い渦はかき消されて、魔法陣の切れ目は跡形もなくなくなっていた。
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