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番外編

マリーン=ナス子爵令息学園に入学する

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「あらもう、時が経つのは早いですね。あんな赤ちゃんだったマリーン坊ちゃまが、もう学園に入学するなんて。」

すっかり腰が曲がり、白髪の老婆になったルーシーは、あまり見えなくなった目を細めた。

「ルーシー。僕、ルーシーにお手紙書くよ。お父様かお母様に読んでもらってね。」


引退していた身を再び奮い起こして、子爵夫人となった海里や生まれた子どもたちの面倒をみてきた。

ナス課長にとっては母親代わりであり、子どもたちにとっては祖母のような存在で、ルーシーの子や孫が子爵家ではまだ働いているけれど、一従業員の垣根を越えて家族のような付き合いだ。



「あなたはどこに出しても恥ずかしくないように育ててきました。しっかり学んでくるんですよ。」

「お前なら大丈夫だよ。お友達を作って、楽しんでおいで。貴族は交友を広げることも大事だからね。」


「はい。」


「お兄さま、アクア寂しいわ。たまには帰ってきてちょうだいね。約束よ。こいびとなんか作っちゃったら、ダメ!お兄様はアクアとけっこんするんだもん!」

まだ9歳の妹が口をとがらせてプリプリしている。


「ははは。アクア。兄妹で結婚はできないんだよ。」

「だって、お兄様より素敵な人なんていないんだもの。お兄様くらい素敵じゃなきゃ、わたし、結婚しないんだから。」


「アクアは目が肥えてるからなあ~。」


「………それじゃあ、行ってきます!」


子爵家の馬車に乗って、学園に向かう。


今日から、寮で暮らすのだ。



厳格で多才、才色兼備の優しい母。
おおらかで穏やかで、でも領地経営の才能がとびぬけている文官のNo.2の父。

可愛い妹。

優しい家族。



立派な跡取りになるために学園に通うのだと思うと、気が引き締まる。



年齢を重ねてなお美しい母親は、剣の達人でもあり、文武両道の立派な人だ。
自分の姿は、若い頃の母親そっくりらしい。
お父様のような柔らかい笑顔になりたいと、父そっくりの妹にやきもちをやいたこともある。

妹が生まれて、お父様やみんなを妹にとられた気がして。

だけれど、そんなとき、お父様とお母様が抱きしめてくれて、お前も大事なんだよ、って言ってくれてからは、僕も妹が大事になった。



皆の期待に応えたい。


馬車から眺める景色は、見知った領地から、王都の街並みに変わった。

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